第25話 二階堂真紀は確認する

 久しぶりに会えた由利子。変わってないなー。

 ……ほんと、変わってないな。契約戦プロミスの仕様を把握するための実験……ね。


「……そんなことしてるんだ? まぁ由利子らしいっちゃらしいけど」

「知らない子に頼むの大変でさ、マキがやってくれるとめっちゃ助かるの! お願い!」


 会うなり頼まれたこれ、結局助っ人業の延長みたいなもんじゃないの?

 で、そのために第三者の協力が必要、と。確かに信頼できる相手じゃないとそうそう頼めないもんね。


「いいよー。由利子には恩があるしね。休み中なら好きな時に呼んでくれていいよー」

「ありがと助かる! って、そういやマキ、こっち帰って来てたの?」

「夏休みだから遠出してきただけだよ。由利子に会えないかな、って思ってたら本当に会えちゃって逆にビックリよ」

「それこそ一言言ってくれりゃよかったのにー」

「ま、こっちもいろいろあるのよ」


 会えなかったらそれまでって思ってたからね。

 それで会えたら会えたでいきなり契約戦プロミスかぁ。


 ま、こういうのもアリかな。

 由利子には恩もあるけど、ちょーっと腹立つとこもあんのよ。一発ぶちかましてやんなきゃね。


 さて結界を張って、二車線の道路を挟む形で向き合って。


「マキに勝ってもらわないといけないから八百長でもいいんだけどさ。せっかくだからガチでやってみる?」

「元々そのつもりだよー。でも正直対人戦は苦手なのよ。期待しないでね?」


 私の魔法は威力特化。だから対人戦だと本気出すわけにいかないんだよね。

 つまり持ち味を活かせない。これが対人戦が苦手な理由その1。

 でもま、相手が由利子なら大丈夫でしょ。無駄に頑丈だし。


 杖――クロスの先端の網に魔力弾生成。

 それを肩の上に乗せるような形で、回すように振る。振りながら走り出す。ラクロスの基本動作、クレードル。


 これはちょっとしたルーティーンってやつ。

 魔法はイメージの力も大事だからね。私の場合、この動作を加えることで魔法の威力が上がるんだ。


 由利子も道路を挟んで並行して走り出した。飛べるんだから飛んでもいいのに、合わせてくれてるんだ。

 懐かしいな。一緒に部活やってた頃を思い出すね。


 でもね、悪いけどちょっとインチキさせてもらうよ。

 クロスを振りかぶったところで――身体強化!


 ふふん、ギョッとしたね由利子。私は飛べない代わりにこれが使えるのよ!

 さぁ、魔力弾の威力は十分。私の渾身のシュートを食らえ!


 狙いは左肩! 我ながら正確!

 っと、障壁シールド張ったね? でも残念。ブチ抜くよ!


  ――バキィィン!


 一瞬でブチ抜いて――えっ? 杖で……受け止めた?

 いや障壁に当たってちょっとは威力落ちてただろうけど、それでも受け止められるような威力じゃ――


「どわぁっ!?」


 あ、吹っ飛んだ。いや、でもこんな程度で済むわけが――


「相変わらずキレのあるシュートじゃん!」


 すぐ起き上がるし! いやちょっと待って、やばい、反撃が来る!

 やばいやばい、私が対人戦苦手な理由その2! 私の魔法、威力特化だから再装填に時間が掛かるのよ!

 防がれたり避けられたりすると、しばらく次が撃てない!


「今度はこっちから行くぞー!」


 うわ、魔力砲台サテライト。それも4基。こっちが威力ならそっちは数で勝負か!


「ハイパーミラクルギガントビューティーミステリアスバスター!」

「――ちょっ!」


 何その、トンチキな技名……!

 そんな変な技にやられてたまるか! ダッシュで離脱!


  ――ドドドドドドドドッ


 ダメだ追って来る! 避けきれない!

 こっちも障壁シールド展開! うぅ、でもダメだ。私が対人戦苦手な理由その3……。

 私、魔力弾以外の魔法、苦手なんだよね……。


 これ、相当威力落として連射してるみたいだけど……ダメだ。

 もう障壁シールドにヒビ入ってきた。あ、割れる。終わった。


  ――バリィン! ――バシッ! バシバシっ! バシッ!


「痛ったぁー! ちょっとは手加減しろー!」

「い、威力は手加減したよ?」



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



「負けたはずなのに勝たされるって何か変な気分だなー。結局八百長じゃん、これ」

「あたしもリョーコ相手に何度もやってるから、わかるよ」

「えっ? ひょっとして沙々霧さんって滅茶苦茶強い?」


 由利子負けてんの? 由利子だって結構強いでしょ?

 そりゃ私、勝てるとまでは思ってなかったけどさ。まさかあのシュート止められるとは思わなかったんだけど?

 いや結構どころか相当強いと思うんだけどなぁ。


「リョーコはなんていうかさ、えげつないよ」

「失礼ね」

「八百長以外で1回も勝ててないよ。24戦全敗。ぶっちゃけ自信無くすね」

「24戦で全敗かぁ……それはえげつないね。」

「由利子、あなたはもっと自信を持つべきよ。少し自分を卑下し過ぎだと思うわ」

「あんたが容赦なくぼてくりこかしてくれるからでしょーが……!」


 あー、なんとなくわかった。由利子あんた、この子に鍛えられてんのね。

 そんで由利子をこんだけ鍛えた沙々霧さん、どんだけなのよ。


「でもまぁ……そっか。由利子、コンビ組んだんだ」

「成り行きだけどね。ま、なんだかんだ楽しんでるよ」

「沙々霧さん、割と由利子の好みのタイプっぽいしね」

「いやリョーコとはそういうのじゃないからね!? そもそもあたしの好みのタイプは優しいお姉さんだから!」


 はい、腹立つ発言来ました。ひょっとして自覚無いのかな?

 由利子あんた、口を開けば優しいお姉さんに癒されたいとか言うくせに、ガチで入れ込むのは放っとけないタイプの子でしょ?

 あんた多分もう、相当入れ込んでるからね?


「なんだか遠回しに失礼なことを言われたような気がするのだけれど」

「照れ隠しみたいなもんだから気にしないであげて?」

「だからそういうのじゃないんだけどぉ!?」


 うーん、入れ込んではいるけど恋だの愛だのってとこまでは行ってないのかな。

 でもね由利子。あんたの好みのタイプ、やっぱりこういう子なんだよ。


 優しいお姉さんが相手じゃ、上手く行くわけないのよ、あんたは。

 だってあんたが癒しを求めるのって、要は次の困った子を助けてあげるためのエネルギー補給だし。

 十分癒されたらすぐ別の子のとこ行っちゃうんだもん。うまく行くわけないじゃん。


 かと言って困ってる子だって助けてあげちゃえば構う理由が無くなっちゃうんだよね。

 問題解決しちゃったらまた別の子構いに行っちゃう。だからせっかく入れ込んだ子とも結局長続きしない。


 でも沙々霧さんは――なんて言うか根本的に危なっかしい感じなんだよね。

 一筋縄じゃ行かない。だからこそ由利子がかつてないほどに入れ込んじゃってる。

 ……好みとは違うのかな。もっとこう、運命的な?


 なんにしても、時間の問題だと思うよ。ま、覚悟しとけ?


「……ところでさ。マキは1人でやってんの?」

「ん? 私はソロだよ。あ、ひょっとして誘ってくれてる?」

「マキって火力特化でしょ? あたしら火力が足りなくてさ」


 あー、なるほど。大型魔獣の討伐も視野に入れ始めたってとこかな。

 確かに由利子は耐久寄りのバランス型って感じだから火力は最低限っぽいんだよね。

 沙々霧さんもいくら強いったって近接型じゃ大型魔獣とは相性良くないだろうし。


 でも私なら多分できる。限界まで威力を高めた魔力弾で魂核ソウルコアを撃ち抜けば倒せる、はず。

 って言うほど簡単じゃないんだけどね。ちょっとでも外れたらすぐ回復されちゃうし、何度も外したらペナルティコース。

 だから普通は大口径の魔力砲とかでブチ抜くんだけど……そっか、私ならできるって信頼してくれてるんだ。


「うーん、でもゴメン、家も遠いからねー」

「そっかー」


 信頼してくれるのは嬉しいんだけど、やっぱりダメだ。

 絶対足引っ張っちゃう。私はさ、あんたみたいに強くないんだよ。


 あんたはさ、何か目標があればどんどん強くなれちゃうんだ。

 部活じゃ私たちのチームを優勝させるって目標があったから強くなったんだし。


 これも微妙に腹立つ点なんだよね。

 由利子ってば後から入部したのにどんどん上手くなって、気が付いたらエースになってるし。

 でも憎らしさとかは無くて、むしろ対抗心燃やしてみんなも上手くなって。

 そんで私はもう、シュートだけは負けないぞって一点特化でどうにか食らい付いて今のスタイルなんだけど。


 あー、あとあれだ。ルールとか分かるか聞いたら「マンガで覚えた!」とか言いやがって!

 実際だいたい覚えてるのも腹立つし、結局細かいとこは覚えてなくて二重に腹立つ!

 ……うん、懐かしいけど昔の話は置いとこう。


 それで今のあんたはさ、多分沙々霧さんに釣り合えるようになりたいって目標があるんだよ。

 だからどんどん強くなってる。


 でも私にはそこまで出来ない。だからどんどん離されてく。

 由利子の力にはなってあげたいけど、足は引っ張りたくないんだ、ごめん。


「でも今日やったみたいのなら手伝うから。また何かあったら呼んでね」

「助かるよー、マキありがとー」

「私からもよろしくお願いするわ、二階堂さん」

「あーそれ、苗字で呼ばれるの慣れてなくてさ、私のことは真紀って呼んでくれていい?」

「わかったわ、真紀さん。私のことも涼子と呼んでちょうだい」

「うん、改めてよろしく。涼子さん」


 ……なんか涼子さん、妙に目を輝かせてるな。

 あ、そっか。涼子さん、友達が出来なくて落ち込んでたって……。新しい友達が出来て喜んでるんだ。


「あ、そうそう由利子。人助けはいいんだけどさ、あんまり無茶はしないでよね? あんたほっとくと無茶するんだもん」

「や、さすがに中学で懲りたからねー。もう無茶はしないよ?」

「それならいいんだけどね。じゃ、私はそろそろ帰るかな」

「うん、またねー」



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



 由利子、ずいぶん軽い感じになってたなー。

 あれなら――あんまりひどい無茶はしないでいてくれそうかな?

 ずっと張り詰めてたんじゃ壊れちゃうからね。


 とりあえず、私が今日ここまで来た本当の目的も達成できたわけだ。

 本当の目的――私の気持ちの確認。


 由利子と離れ離れになってから気付いた、この気持ち。

 由利子を想うたびに感じていた、胸の高鳴り。


 ……うん、しばらく会わない間に美化し過ぎてた。

 いや確かに本気出した由利子ってめっちゃかっこいいんだけどさ。

 でも普段は陽気におちゃらけてて、微妙に変質者だけど憎めなくて。

 一緒に居ると楽しいんだけど、うん。恋人とかは……無いな。


 ごめん由利子。知らないところで勝手に惚れて勝手に別れ話みたいなことしてて、ほんとごめん。

 いやでもホント、たまにめっちゃかっこよくなるからさ。

 最初にあの顔見せられちゃうと、うっかり惚れちゃう子とか出てきちゃうんだろうなー。


 腹立つ点その3。あれ、4だっけ? いやこれただの八つ当たりなんだけどさ。

 由利子あんた! 会えなかった3年間! あんたのことで頭いっぱいだったんだよ……!

 それが再会して急速にスン……ってなってく気持ち、わかる!?

 いやほんとただの八つ当たりなんだけどさ……。


 …………。


 それにしても……何やってんだろうな、あの2人。

 パンツを……洗ってる? 大丈夫かな、いろんな意味で。

 由利子ってよく「パンツ見せろー」とか言って来るくせに、いざ見えちゃうと慌てて目を逸らすんだよね。余計恥ずかしいっつの。


 それで何度もそういうことあって散々からかわれるようになって、懲りて言わなくなったんだっけ。


 そんなヘタレが? 素手でパンツ洗う?

 大丈夫かな、ほんと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る