第24話 沙々霧涼子は過去を知る
さて、今日から夏休みね。
これから契約戦の機会も増えるでしょうし、実験が捗るといいのだけれど。
先日の実験では結局契約の破棄はできなかったのよね。由利子が嘆いていたわ。
「そう言えば由利子、あなた休み中補習とか無いでしょうね?」
「おっと? あたしのこと何だと思ってるのかな? 期末は割と良かったし、問題無いよ」
「あら意外ね」
まあ思い込みで疑うのは良くないことよね。問題が無かったことを喜びましょう。
「ところでリョーコー。せっかくの休みなんだし海とか行こうよー?」
「……必要かしら。海で戦うことなんて無いでしょうし、山や川の方がいいのでは?」
「待って。戦闘訓練とかそういう話じゃないからね?」
……では何のために行くと言うのかしら?
まさか遊びに? それではまるでお友達――そ、そうだったわ。私たちはお友達。
と、友達ならば休日には遊びに出掛けるのが普通なのよね……?
「山や川で良ければ、少しくらい遊んでみるのも、いいかしらね」
「おっ、話がわかるようになったじゃん! そんじゃ今度行こう!」
……まあ、このくらいはいいかしらね。
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そして一週間。約束通り山や川にも行ってみたわ。
でも由利子は少しばかり不満そうだったわね。
道の無い山林を登頂する遊びだとか川の流れに逆らって上流を目指す遊びなんかもしてみたのだけれど……何が不満だったのかしら?
「良い子が真似したりしちゃったらどうすんの!」とも言われてしまったけれど、意味が分からないわ。
あとは料理を教わったり一緒に買い物に行ったりもしたわね。特売の卵を一緒に並んで買ってもらったのは助かったわ。
切らしてしまった乾電池も、安く変えるお店を教えてもらえたわ。
でもこれも由利子は少しばかり不満そうだったわね。
「もっと女子高生らしい買い物しよう」だなんて言っていたけれど、どういうことかしら?
私たちは女子高生なのだから、私たちが買い物をしていればそれが女子高生の買い物なのではないかしら?
ともあれ、遊んでばかりもいられないわ。契約戦関連の方も進めて行かないといけないもの。
それにしても――今更言っても仕方が無いのだけれど、少しばかり見切り発車が過ぎたかしら?
やはり二人だけで実験をするというのが無謀だったようね。
あれから出て来る案と言えば、概ね第三者の協力が必要なものばかりなんだもの。
今日も確認したいことがあって由利子と一緒に魔法少女を探しているわけなのだけれど。
探すだけなら今は活動中の子が多いらしく、少し探せば――早速いたわね。
緑の短髪の少女。魔法衣のデザインは――何かのユニフォームかしら?
右手には特徴的な……杖? 棒の先端に網のようなものが。あれは――球技か何かの道具かしら。
健康的な外見で――由利子の方を見ながら驚いたような顔を……?
振り返ってみれば、由利子も同じような顔をしているわね。知り合いかしら?
「あれ? ひょっとしてマキ?」
「やっほー、由利子。おひさー」
「マキだー。全然変わってないな。魔法少女やってたんだー」
やはり知り合いだったのね。
再会を喜んでいる様子で――勢いよく抱き付いたわね。とても仲が、良さそうね。
「……お知り合いかしら」
「うん、紹介するよ。この子、幼馴染のマキ。親友ってやつよ。で、こっちがリョーコ。今コンビ組んでんの」
「
マキ。二階堂真紀。二階堂さんね。
「はじめまして。沙々霧涼子よ。由利子がお世話になっていたようで」
「沙々霧さんも由利子のお世話をしてくれてるんでしょ? ありがとね」
「いえ、どういたしまして」
お互い由利子のお世話をする立場だったということね。
なるほど、よく分からないけれど何か親近感のようなものが――
「いやちょっと待って!? マキはともかくリョーコ! あんたむしろお世話されてる側でしょ!?」
「ええ……、失礼ね」
「もー、由利子。パートナーさんに失礼でしょ」
「おぉいマキまで!? マキはリョーコのこと知らないからそんなこと言えんのよ!?」
ええ……、何を言っているのかしら。人を問題児のように言わないでもらいたいわね。
でもまあ、たまに面倒を掛けてしまうことも稀にあるのだし、そこは大目に見ましょう。
「いやー、冗談冗談。由利子は世話好きだってちゃんと知ってるから」
「あら由利子、あなた世話好きだったの?」
「まぁ由利子の場合、世話好きってより困ってる子を見てらんないのかな?」
ああなるほど。合点がいったわ。
今まさにそんな理由で、苦しんでいる子を助けたいだなんて言っているのよね。
「以前の由利子は今より真面目な感じだったのかしら?」
「いやー、中学の頃はもうこんな感じだったね。もっと前は真面目って言うか大人しい感じだったけど」
「そうだっけ?」
「覚えてないの? ある日突然豹変してみんな困惑してたよ」
「いやー、よく覚えてないやー」
なんだか……本当に行き当たりばったりな子ね。
でも由利子にも大人しい時期があっただなんて意外だわ。
「中学の時ね、私ラクロス部だったんだけど、廃部の危機になっちゃってね、その時由利子が助けてくれたんだ」
「いやー、懐かしいね」
「部員が足りないってところで、『じゃああたしが入る! ついでに実績も作ってやる!』って言ってくれてね。地元の小さな大会だけど、優勝までしてくれちゃったのよ」
「凄いじゃないの、由利子」
運動神経はいいと思っていたけれど、思っていたより本格的だったのかしら。
今は特に部活動などはやっていないようだけれど。
「い、いや~、みんなも頑張ってくれたからだよ?」
「みんな頑張れたのは由利子が入ってくれたおかげだよ。正直、それまでは遊びでやってるようなもんだったし」
由利子の存在が周囲にまで影響を与えていたということかしら。
普段の由利子はおちゃらけてばかりだけれど……やはり何か人を惹きつける物はあると思うのよね。
「それなのに引退前に引っ越すことになっちゃってさ、せっかく由利子のおかげで部が続いたってのに、ごめんね?」
「しょうがないよ、家の都合だもん。それにあれから新入部員も入ったし、今でも部は続いてるはずだよ」
「それは良かったけど……ところで由利子、あんたまだ助っ人業みたいのやってるの?」
込み入った話になってきたかしら。
昔の話を聞くのは面白くもあるけれど、少し居づらいわね。でも今――助っ人、と言ったかしら?
「助っ人? 入部したのではなかったのかしら?」
「うちの部には入部してくれたけど、他の部から助っ人の依頼が舞い込んで来たの。それで由利子ってばそれ全部受けちゃってね」
「それは……、偉いことだけれど無茶なのではないかしら?」
由利子は――苦笑いをしているわね。やはり無理をしていたのでしょうね。
「今はもうやってないよ。まぁさすがに、あれは大変だったからね」
「ちょっと安心したわ。あんた家のことでいっぱいいっぱいだったでしょ?」
「家のこと?」
咄嗟に聞き返してしまったけれど……聞いてしまっていいのかしら?
「いやね、あたしあの頃からもう一人暮らししてたからね。まぁ大変だったのよ」
ああなるほど。両親は家にいないと言っていたけれど、そんなに前からのことだったのね。
私も一人暮らしは長いけれど、部活動などはやっていなかったものね。
ただでさえ家事と学業の両立で大変だったでしょうに。
「それに由利子、あんた昔は病弱だったんだからほんと気を付けてよね?」
「病弱?」
「あーうん、小学校の頃ね。中学入る頃にはなんか治ってたけど」
「なるほど。つまり病気が治って今の由利子になったということね」
「や、もっと前だったよ。まだ病気がちだったね」
「全然覚えてないやー」
「なんか無駄に頑丈になったよね。それでそれまでの反動みたいにスポーツやり始めて」
「それまでは見てるだけだったからねー」
「いやらしい目でね」
「羨望の眼差しって言って!?」
由利子にそんな時期があったのね。
それに――いやらしい目で見るのも昔からだったのね。
「あっとごめん、長話しちゃったね。2人はこれからどうするの?」
……っと、気を使わせてしまったわね。これから私たちがすることと言ったら――
「ちょうどよかった、マキ手伝って!」
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