第23話 高梨由利子は野良試合する

「なんで当たんないにゃーーーっ!」


 ――と叫んでいるのは猫耳フード付きのマントを纏った魔法少女。尻尾も付いてる。可愛い。

 ちなみにスカートではなく短パン履いてる。遠距離型の子で短パンって珍しいね。


 というわけで今日は野良試合。初対面の子たちと対戦中。

 でまぁ、猫耳ちゃんと戦っているのが――


「あなたの相棒、なんか凄いね」

「でしょー? やんなっちゃうよね、あれ」


 ――リョーコである。

 あたしよりも多い8基の魔力砲台サテライトから発射される魔力弾を全て捌き切ってる。

 あの子自身も撃ってるから実質9門。あれで当たんないとかあたしじゃ絶対無理じゃん当てらんないじゃん。


 しかしまぁ、うっかり観戦モードに入っちゃったわけだけど。

 これはあたしの相手の子が向こうに釘付けになっちゃったからなわけで悪しからず。


「向こう、気になる?」

「そりゃあ、あんなの見せられちゃね」


 このリョーコ見てドン引きしてる子があたしの対戦相手。。

 魔法衣ローブはチア衣装。杖はバトン。そしてミニスカでフトモモ丸出し。眼福だね。


 スカートの中は一瞬見えちゃったけどアンスコ。ブルマタイプのアンスコ。だってチア衣装だし。

 だからチラチラ見えても動揺する必要はない。はず。


 だけどまぁ、一時休戦中。


「あんなのどうしろってのよねぇ?」

「でも勝つのはうちのにゃー子だけどね」


 おっと、あれを見た上で自信満々だね。てかにゃー子って。

 とは言え実際そうなんだけどね。あの子とリョーコは相性最悪なんだ。


 相性は最悪だけど、今後のことを考えたら1回は経験させとかないと。

 だから敢えて、この対戦カードを選んだんだ。


「もう怒ったにゃーーーーっ!」


 来る。回避不能の全画面レーザー。リョーコじゃどうにもできない魔力砲。

 ちゃんと威力はセーブしてくれてるけど、だからって当たれば戦闘不能は間違いなし。


「骨は拾ってやるにゃー!」


 砲台からの射撃を止めて、発射態勢に。あ、これは――


「これで終わりだね」

「そうだね」


 終わった。極太ビームが地面に突き刺さって――


「なんでそこにいるにゃーーーーっ!?」


 猫耳ちゃんの背後にリョーコ。

 うん、残念だったね。砲台からの射撃を続けてたら勝ててたんだけどね。


「 地雷震チライシン! 」

「にゃぎゃーーーーーっ!」


 容赦ない踵落としがクリーンヒット。

 あれ痛いんだよなぁ。いやリョーコの技はなんでも痛いんだけどさ。

 まぁあたしクラスになると足技はむしろご褒美なんだけどね?


 ともあれ勝負あり。完全に戦意喪失しちゃってるよ。


「えっ、ちょっ……、何が起こったの?」

「何って言われても……」


 要は回避不能のはずの全画面レーザーを画面外に離脱することで回避?

 射撃が途切れた瞬間に縮地とやらで離脱、そのまま近くの電柱を足掛かりにして空中のあの子の背後に回ったと。

 説明して理解できんのかな、これ。


 でも本当に紙一重だったな。

 射撃を続けられてたらリョーコは離脱が出来なかったから本当に終わってた。


「ま、企業秘密ってことで」

「んじゃ、私が勝ったらその秘密、聞いちゃおっか――な!」


 うおっと! いきなりバトンで殴り掛かって来た!左に半歩跳んで回避。危ない危ない。

 おのれ卑怯な……と言いたいところだけど別に反則でもなんでもないんだよね。

 むしろ一瞬で詰められる位置で呑気に観戦モードしてたあたしがアホでした。


 っと、振り抜いたバトンはそのままに右足を振り上げて前蹴り。

 これは後ろに跳んで回避……したけどスカートの中見えてるってば!

 アンスコだからって見えたら一瞬ドキッとするわ!


 って言うか――ひとつひとつの動作がめっちゃ綺麗で見惚れてしまう。

 武術や格闘技の動きじゃない。踊るようなチアの動きで攻撃してくる。

 でも多分ベースになってるのは空手か何かなんだろうな。当たったらめっちゃ痛そう。


「ちありー、カタキ取ってくれにゃー……」

「まっかせといてー!」


 ちありって、このチア子さんのことかな?

 いやカタキって、その子やったのあたしじゃないんですけど!?

 なんて言ってもしょうがない。今度はバトンを指で回転させながら横薙ぎに――いや、さらに踏み込んで来る!


 後ろに跳んでも追って来る。左も無理。右か下!

 いや、下は……ダメだよね。訴えられちゃうよね。懲役10年だよね。

 じゃあ右! 右に跳んでバトンをやり過ごして今度はこっちから反撃――させてくれない!


 左手に武器生成でバトンを作って即座に殴り掛かって来る!


  ――ガキィン!


 あっぶな。咄嗟に振り上げた杖でなんとか弾いた。

 でもまだ終わりじゃない。背中側から右手を回してバトンで薙いでくる。


 これも後ろに跳んで――っと、あたしが跳ぶのと同時に時計回りにターン。

 そして左手のバトンを回転させながら投げてくる。いやそれ投げるのはチアじゃないよね?


 避けるのは簡単……なんだけど……なんでそんな大胆な動きすんの!

 スカート捲れ上がってるから! 丸見えだから! あーもう気が散る!

 でもまぁ難なく回避。回避は問題ない。でも全っ然集中できない! 反撃できない!


「さっきからスカートの中そんなに気になるー?」

「そ、そりゃあ、気になりますとも……」

「やーらしいんだー」


 ニヤニヤ笑いながら……くっそ、ちょっとは恥じらってよ!

 アンスコだから恥ずかしくないってか。いやまぁ、アンスコで恥ずかしがってちゃチアなんて出来ないんだろうけどさ。

 でもあたしはレオタードでも恥ずかしいんですけど!?


 ともあれ。この子の攻撃は問題無く凌げる。

 悪いけどリョーコと比べたら全然どうとでもなるよ。


 というのもこの子、ガチの近接型じゃないね。この子は多分、近接と射撃のハイブリッド型。

 あたしみたいな射撃型が相手なら距離を詰めて近接型として戦って、近接型が相手の時は距離を取って射撃型として戦うタイプ。


 相手に合わせて有利な間合いで戦えるから本来なら厄介な相手なんだけど、今回は相手が悪かったね。


「ところであなた、射撃型でしょ? よくもまぁ凌ぎ切ったね」

「そりゃ、いつもアレとやり合ってるからね」


 アレと言うのは、あれ。もちろんリョーコ。

 毎日のようにあんなのとやり合ってたらね、そりゃ鍛えられるよね。


「それじゃ、仕方ないね。ちょっと本気出すよ」


 そう言って、また左手にバトン作成。でも今度のは両端にポンポン――じゃない、魔力弾がくっついてる。

 右手のバトンにも。魔力弾は応用しやすい魔法だけど、そういう使い方もあるのかー。


 なんて言ってる場合じゃない。攻撃が来る!

 両手のバトンを回転させながら、踊るように自分もターンを繰り返して迫って来る。


 まず右手、次に左手、また右手、左手。矢継ぎ早にバトンが薙いで来る。

 これを一歩ずつ下がりながら――ここだ! 空圧球スフィア生成!


 左手のバトンが通り過ぎたタイミングで一気に踏み込む! 至近距離からの破裂バーストを――


「ハイッ!」

「んっが!」


 蹴り上げがアゴに……! そうだった蹴りもあるんだった……!

 って言うか容赦なく顔蹴ったね? そんなに蹴りやすい顔してた?


 って、やっば。ターンを止めて両手のバトンを振り上げた。

 振り下ろして来るつもりだ! させるかぁっ!


破裂バーストォ!」


  ――バァン!


 至近距離じゃないからダメージは無いだろうけど、でも距離は取れた。

 距離は取れたけど――来る! 魔力弾! 2発……いや4発!


 バトンにくっついてた魔力弾を飛ばしてきた。

 バトンの回転速度で飛んで来てる。普通に撃つより速いぞこれ。

 体勢も悪い。避けらんない。ここは障壁シールド


  ――バシバシィッ! バシィバキィン!


 うっわ、4発でヒビ入った。しかも左手のバトンも投げて来た。

 これは無理。障壁砕け散った。でも転がってバトンは避けた!


 そして体勢も立て直して今度こそ仕切り直し。それであの子は……左手にポンポンもとい魔力弾?

 それを上に投げた? あ、これは――


  ――カッ!


 やられた! 閃光弾フラッシュだ! ここで搦め手かよ!

 でも目は見えなくなっても魔力感知があるから状況はある程度わかる。

 今度は魔力砲台サテライト2基設置……かな?


 さすがに感知頼りで避けるのは無理。障壁シールド展開!


  ――バキィッ! バキィッ! バキィン! バシィッ! バシィッ!


 痛っだぁー! 3発で割れた! なんだこの威力!

 障壁張り直し! って言ってもこれだってすぐ割られちゃう!

 3枚目、4枚目、ひえええ、なんだよこれ!


 ようやく目が開けられるように……な、なんだあれ。

 砲台は魔力弾生成だけで射出はしてない。回転するバトンで弾いて射出してる。


 これはハイブリッド型の子が割とよく使う手。

 魔力弾は普通、生成したら魔力を使って射出するけど、これは強化した身体能力を使って物理的に射出してる。

 射出に魔力を使わないから燃費がいいし、魔力で射出するより速度が出るから威力も強い。


 ぶっちゃけずっこい。このまま障壁で耐え続けてたら、こっちが先に魔力切れする。


 ただ、普通は連射が出来ないことが多いんだけど、この子は見ての通り。

 2基の砲台で生成した魔力弾を回転バトンで次々射出してる。華麗にダンスしながら。

 いや踊る必要無いよね? そこはチアリーダーの矜持なのかな?


 ……うん、さっきはずっこいなんて言っちゃったけど、これはお見事。

 あんな撃ち出し方、よっぽど練習を重ねてなきゃこんな正確には飛ばせない。これは間違いなくこの子の強さなんだ。


 だからあたしも、それに応えてあげなきゃいけないんだ。どのみちこのままじゃ負けちゃうしね。

 ただ、反撃しようにもこんなペースで障壁張ってたら魔力砲台サテライト出す余裕が無い。

 というわけで……真横に飛び出すドーーーーン!


 正確に狙ってくれてるからこそ、真横に飛べば当たらない!

 って言ってもこんなのすぐに対応されちゃう。進行方向を塞ぐように数発。

 でもここでビビッて足を止めたら思うつぼ。急制動掛けたところを狙い撃ちするための追撃もたくさん。


 直進してもダメ、止まってもダメ。だったら斜め! 45度急カーブ!

 これで牽制と本命の両方をすり抜けた。でも攻撃はまだまだ続く。

 少しずつ近付けるようにカーブを繰り返して……さぁそろそろ避けるのが厳しくなってきた。


 ここで障壁シールド展開! 場所はあの子の目の前!

 これで数発は防げる。その間に一気に距離を詰める!


 さっきと同じ、3発で砕けた。でももう目の前まで来れた。

 次の至近距離からの1発、これは――お願いだから訴えないでね?

 スライディングで下に避ける! 決してスカートの中を覗きたいわけじゃないよ!


 そして起き上がりながら右手に空圧球スフィア生成! これを至近距離から叩き付け――


「はい残念!」


 あ……ハメられた。

 頭上に振り上げたバトン――交差させて構えて――その先端には魔力弾――それを振り下ろして――

 あー、めっちゃ様になってる。これは……思わず見惚れてしまう。


  ――ズダァァン!


「あっぎ……」


 まともに、食らった――


「FINISH《フィニッシュ》!」

「――じゃないんだよなぁ!」

「はぁ!?」


 上体を浮かせて地面との隙間を作って、そこに空圧球スフィアを差し込んで破裂!

 その爆風で体を起こしながら――左手に空圧球スフィア生成!

 そして驚愕してるとこ悪いけど、至近距離で――


破裂バースト!」

「うわったぁ!?」


 更にダメ押しの魔力弾連射!


「あたっ! 痛たたた障壁シールド!」


 障壁シールド張ったね? でも残念!

 障壁シールドの向こう側、あの子の左右にも魔力砲台サテライト設置! そして一斉射撃!


「痛たったたたたた参った! 降参! 参った!」


 勝った? 勝っ……た……?

 勝った! なんか久しぶりに勝った気がする!


「ウッソでしょ? まともに入ったと思ったんだけどなぁ……」

「いやぁ、まともに入ったよ? ただまぁ、あれの倍は痛いのを毎日のように食らってるからね」

「あ……、うん。なんか大変なんだね……?」


 うん。大変なんだよ?

 まぁそのおかげで勝てたような感じなんだけど。


 元々無駄に頑丈だとは思ってたけど、最近更に磨きが掛かって来た気がするね。

 ……これ、あたしの強さってことでいいのかな?



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



「はー、勝ったと思ったんだけどなー」

「悔しいにゃー……」


 うーん、リョーコは負けるだろうなって思ってたから2人揃って勝てたのは大きいな。

 ぶっちゃけ2人揃って負けてる可能性もあったんだよね。この子、可愛い顔してめっちゃ強かったし。


「それじゃ、いいかな? 契約締結プロミスリンク。ちょっと頼まれて欲しいことがあってさ」


 契約戦プロミスの仕様把握のための実験。

 そのためのお手伝いを頼む……んだけど、毎回これやるのかー。


 ちょっと面倒だけど、まず契約戦プロミスを挑んでこっちが勝つ。

 で、契約の内容は『もう1回契約戦やって今度はわざと勝たせるから契約の内容はこれで~』

 みたいな感じで協力してもらう。契約の強制力を利用するわけだ。


 一応この手順踏んどかないと、わざと勝たせてあげて変な契約されちゃうと困るからね。

 この子たちいい子そうだからそんなこと無いだろうけど、だからって無条件で信じちゃうわけにもいかないし。


 これから夏休みだから契約戦プロミスの機会は増えるだろうけど、強い子が相手だと大変だなぁ。



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



「ねえ由利子。今日、私をあの子と戦わせたのって前に言っていた――」

「あぁうん。一度は体験しといた方がいいと思ってね」


 あたしじゃあれ撃てないから見せてあげらんないのよね。

 あと、リョーコに限って慢心とか無いだろうけど、それでも一度は負けを経験しとくのもいいだろうし。


「ごめんなさい。避けてしまったわ」

「いやまぁそこ謝られても。勝てるならその方がいいし」


 いざとなったら反則覚悟で障壁シールド張ろうかとも思ってたけど、必要無くてよかったよかった。

 ちゃんと加減してくれてたし、そもそも当たらなかったし。

 でもよく考えたらさじ加減を失敗される危険もあったわけだな。あの子、あんまり魔法得意じゃなさそうだったからなぁ。


 遠距離型の子は頭のいい子が多い傾向があって、そういう子は魔法の扱いも上手い。

 とは言え、当然例外もある。と言うか、正確に言うと『運動が苦手な子が多い』なわけで。

 悲しいかな、運動が苦手だからと言って、勉強が得意とは限らない……!


 とりあえずまぁ、いろいろ予想外のこともあったけど結果オーライってことで。


「それにさ、どうせならあたしが勝つまで無敗でいてもらいたいし?」

「そうね。私もどうせならあなたに初めてを捧げたいわ」

「んぶっふ!?」

「……いきなりどうしたの」


 こっちのセリフだっての!

 いきなり何言うかなこの天然無自覚女め……!


 あー、いいやもう早く帰って実験結果確認しよう。契約破棄できてるといいなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る