第3章 西園寺みちるは夢を見る

第18話 私の名前は西園寺みちる

 私の名前は西園寺みちる。中学3年の14歳。

 ちょっと信じてもらえないかも知れないですけど、魔法少女なんてやってます。なんて、人に言ったりはしないんですけどね。


 私が魔法少女になったのは5年前。まだ小学生の頃。でも普通は中学生くらいになってから勧誘が来るらしいんですよね。

 どうも私は人より魔力量が多いとかで、すっごく早く勧誘が来たらしいです。


 当時はまだ小さい子供だったので、よく考えもしないでなっちゃたんです。魔法少女に。

 ちなみに魔法衣ローブはお姫様が着るようなドレス風。色はピンクで。フリルもひらひら。可愛いデザインで今でも気に入ってたりします。


 あの頃は――というか、今でもなんですけど――お姫様に憧れてたんですよね。

「魔法でお姫様になっちゃった!」なんてはしゃいじゃったりもしてました。


 でも、なってから少し後悔しました。だって魔法少女って、魔獣っていう怖いのと戦わなくちゃいけないじゃないですか。


 でも何もわかってなかった最初の頃は、魔獣を探して飛び回ってたりもしました。

 だって、魔獣があんなに怖いものだなんて知らなかったですから。子供向けアニメとかに出てくるような、コミカルで可愛い怪獣みたいのを想像しちゃってました。


 初めて魔獣に出会った時は、怖くて泣きました。

 本当に怖い時って、悲鳴も何も出ないんですね。その場で腰を抜かしちゃって、その……、お漏らしまでしちゃいました。


 む、昔の話ですよ! 子供の頃の話です!


 とにかく、戦いなんて私には怖くてできません。

 あの時も結局、たまたま通りがかった魔法少女のお姉さんに助けてもらうまで何もできないでいました。


 その時からですね。私の中の憧れが、少しずつ変化して行ったんです。


 それまでは漠然と『お姫様になりたい』って思ってたんです。

 それがいつの間にか『素敵な王子様と出会いたい』に変わってました。


 もっとも、私の中の王子様像ってあの時助けてくれた魔法少女のお姉さんなわけでして。

 正しくは『王子様のようにかっこいいお姉さん』なんですけどね。


 なので私は、憧れの王子様と出会うために魔法少女としての活動を続けました。

 相変わらず魔獣退治なんてできないので、魔獣発見の報告だけしながら細々と。そして王子様との出会いを求めて飛び回ってました。


 でも、王子様なんて都合よくいるわけないですよね。

 強そうなお姉さんなら何人もいましたけど、理想の王子様なんてそうそういるわけがないんです。

 だからもう、半分くらい諦めてました。


 それでも諦めきれなくて続けていたある日――私の人生を大きく変える出会いがありました。



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 季節は夏。夏の終わり。受験を控えた最後の夏休み。休み中は勉強ずくめだったので、最後にちょっと息抜きしちゃってます。

 魔法少女活動はしばらく休業してたんですが、ほんのちょっと、再開してみました。自分でもわかるくらい、ちょっと浮かれてますね。


 でも……。

 今日も、何もないですね。王子様との出会いはもちろん、魔獣との遭遇もありません。


 でもこれは仕方のないこと。王子様のように素敵な女性で、しかも魔法少女だなんてそうそういないですから。

 全くいないわけでもないんですけど、たまに出会っても既に誰かと組んでいるんですよね。やっぱりそういう人は人気があるんでしょうか。


 魔獣だって、そうそう遭遇するものじゃありません。

 そもそも私は出会いの方を優先しているので、主に都市部での活動がメインです。

 人の多い都市部は魔力の流れも安定しているので、必然的に魔獣発生の頻度も少ないです。たまにいても、地下にある下水道とかですね。


 私は……どうせ戦えないですし、地上から見て場所を報告するだけなんですけど。

 でもこんな時のために透視魔法を覚えておいたので、位置情報はバッチリです。


 それにしても、本当に何も起こらないです。今日はもう、このあたりにしておきましょうか。

 そう思って振り返ったところで――魔力感知に反応……? 反応は魔法少女のもの。近付いてきます。


 背後――つまりさっきまで私が向いていた方向。一直線にこっちへ向かって来ます。


 期待を込めて……いえ、期待し過ぎちゃダメですよね。こういう場合、相手の目的は十中八九契約戦プロミスですから。

 私の目的は契約戦プロミスではないので、相手の方には無駄足を踏ませてしまって申し訳ないんですが。


 そう思いながら振り向くと、視線の先にいたのは――


「王子……様……?」


 中世の世界、あるいは舞台の上から飛び出してきたかのような王子様。

 凛々しくて、でも優しそうで。私が夢に描いていた、理想の王子様。


 それが、私の目の前――飛んでる私と目線を合わせるためにビルの屋上に降り立って。


「これは驚いた。可愛らしいお嬢さんがいると思ったら、お姫様でしたか」


 お姫様。そう、私はお姫様。お姫様は私。

 そして――この人は、王子様。私の、理想の――


 理想の、王子様。ひょっとして、これは――

 これはひょっとして、運命の、出会い……?


「よかったら契約戦プロミスでも……と思っていたけど、君はあまりそういうタイプじゃなさそうだね。ひょっとして――」


 王子様が、イタズラっぽく笑いながら、言ってくる。


「ひょっとして、僕と出会うためにここにいてくれたのかな? だとしたら嬉しいな」


 この人と出会うために……?

 そう。そうに違いない。これは運命の出会い。私は、この人と出会うためにここに来たんです……!


「ごめん、いきなりこんなことを言ったら困惑させてしまうだろうけど、言わずにはいられないんだ」


 ……? 王子様が、何やら申し訳なさそうな顔になっています。それでも意を決したように――


「気分を悪くさせてしまったなら聞かなかったことにして欲しい。どうやら僕は……」


 その後に続いたのは、私が待ち焦がれてた言葉でした。


「君に、一目惚れしてしまったらしい」

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