第17話 沙々霧涼子は朝日に思う

 朝日で、目が覚める。まだ6時。と言っても、普段は5時には起きている。

 今日は由利子に合わせて7時まで寝るつもりだったのだけれど、寝られないものね。


 それにしても、昨夜は随分と夜更かしをしてしまったわ。

 ガールズトークというものは、本当に楽しいものなのね。


 でも途中から記憶が曖昧ね。最後はどんなお話しだったかしら。

 確か、一度は言ってみたい台詞だったかしら?

 私が「生きてまた会いましょう」で、由利子は確か「ここは俺に任せて先に行け!」だったのよね。


 あら、よく考えたらこれって、絶妙に繋がっているわね。

 いつか一緒に言ってみたいものだわ。


 …………。


 由利子はまだぐっすりと眠っているようね。

 私ももう少し、寝ておこうかしら。



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 …………。


 寝付けないわね。

 何もしないで横になっていると、どうしてもいろいろ考えてしまうわ。


 由利子。そう由利子。

 昨夜、とんでもないことを告げられてしまった。


 私のことを、い、いやらしい目で見ていたと言っていたのよね。

 でも、不思議なことに、それほど不快には感じていない……と思う。


 本当に不思議ね。正直なところ、生理的嫌悪感は感じているはずだというのに。

 でもそれ以上に……何かしら、これは? 嬉しい、のかしら?


 ああそうだわ、嬉しいのね。

 いやらしい目を向けられるのは嫌だけれど、何かしらの好意を向けられるのはやっぱり嬉しいのね。


 でも、ただ好意を向けられているというだけでここまで嬉しいと感じるものかしら?

 いえ違うわね。それだけじゃないわ。

 私が、私自身も由利子に対して好意を抱いているんだわ。だから、由利子からの好意がこんなにも嬉しいのね。


 由利子といると楽しい。由利子の声を聞くと心が癒される。由利子のことを考えると、胸が高鳴る!


 気付いてしまった。私自身の、この気持ちに。

 私は、由利子のことが、好きなんだわ。ああ、早くこの想いを由利子に伝えたい。


 今はまだ六時半。由利子が起きるのは七時。まだあと三十分も待たなければならない。

 由利子が起きたら、すぐにでも伝えたい。待ち遠しいわ。



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 目覚まし時計が、鳴った。

 それを由利子が手を伸ばして止める。由利子が目を覚ます。ああ、待ち遠しかった。


「おはよう、由利子」

「んぁー、おはよ。リョーコ、もう起きてたんだ」

「ええ。それより大事な話があるの」


 この気持ち、伝えなければ。

 いつになく積極的な自分がいるのが分かるわ。


「由利子。私、自分の気持ちに気付いてしまったの」

「えっ、な、なに!?」

「私は、あなたのことが好きなの!」


 言った。言ってしまった。

 それを聞いた由利子の顔も、驚愕に目を開かせる。


「は? えっ? はぇあ!?」


 由利子の顔が、真っ赤に染まっていく。

 でも私の顔も、きっと真っ赤になっているんでしょうね。


「ちょっ、ちょっと待って! 何言ってんのリョーコ!? だってあたしだよ? あたしなんだよ!?」

「あなただからよ。あなただから、好きになってしまったの」


 由利子はまだ呑み込めていないようね。もっと伝えなければ。私の、この想いを。


「あなたと一緒に居ると、とても楽しいの。あなたの声を聞くだけで、幸せな気持ちになるの」

「えっ。いや、だって」

「あなたのことを考えていると、胸が高鳴っていくのがわかるの」

「待って、昨日も言ったけど! あたし、恋とか愛とかそういうのは――」

「関係無いわ!」


 そう。関係無いのよ。そんなことは全く関係無いの!


「私はあなたと一緒に居たいの! あなたとずっと一緒に居たいの!」

「ふぇぇああああ!??」


 由利子が何と言おうと、由利子が自分自身をどう評価していようと、関係無い。私の想いは覆らない!


「私は、あなたとお友達になれて本当に良かったと思っているの! あなたは本当に素敵なお友達よ!」


 …………。


 ……あら?


 由利子が唐突に真顔になったわね。

 今までの困惑顔が完全に無くなったように見えるわ。つまりこれは――


 ようやく私の想いが一切の誤解無く伝わったということね!

 ああ、よかった。これで本当の意味で由利子とお友達になれたのだと確信できたわ。


 今まではどこか後ろめたい思いがあったのよね。誰でも良かったのではないか、由利子である必要は無かったのではないか。

 そんな半端な気持ちで由利子に貧乏くじを引かせていただけだったのではないか、と。

 でも、今なら自信を持って言えるわ。由利子。あなたでなければいけなかったのよ。


「これからもずっと友達でいましょうね、由利子」

「あ、はい」


 由利子の承諾も得られたことだし、今日は朝から素敵な一日ね。



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「そんじゃ、明日は初めての魔獣退治やってみよっか」

「ええ。そう言えば初めてね、私」

「夕方の6時にうち来てね。手料理ご馳走するからさ」

「それは楽しみね」


 朝ごはんを食べて早々に由利子は帰って行ったわ。

 名残惜しいけれど仕方ない。掃除も洗濯も、やらなければならないことが山積みだもの。

 昨日今日と休みだったとは言え、少しばかり羽目を外して遊び過ぎてしまったようね。


 まずは洗濯をしなくては。今日は天気がいいし、今洗えば夜までには乾くでしょう。


 ……………………


 …………


 二日分溜め込んでしまった割には、それほど大変でもなかったわ。

 一着はもう、捨てるしかないほど痛んでしまっていたものね。


 ……あら? ……しまったわ。由利子に電話をしなければ。魔法で飛んで帰ると言っていたから、もう着く頃よね。

 そう言えば、練習以外で掛けるのは初めてね。……緊張するわ。


「もしもし、由利子?」

『どしたの、リョーコ?』

「ごめんなさい、由利子の家に忘れ物をしてしまったようなの」

『忘れ物?』

「多分、洗面所に落ちていると思うのだけれど……下着を落としてきてしまったようなの」


 『 ――ガンッ!バタン! ガシャン! ゴドンッ! ……! ……! 』


「由利子! どうしたの、大丈夫!?」


 携帯電話の向こうから、何やら大惨事な音が聞こえてきたわ。

 まるで転んだ拍子に頭を打ってそのままの勢いでもんどり打って辺りの物を撒き散らしてしまったかのような音だったわね。


「まるで転んだ拍子に頭を打ってそのままの勢いでもんどり打って辺りの物を撒き散らしてしまったかのような音が聞こえて来たのだけれど」

『そうだよその通りだよ! 洗面所が大惨事だよ!』

「よくわからないけれど……私のせいよね。ごめんなさい」

『いや、もういいよ……。それよりこのパンツ、どうすんの?』

「迷惑ついでにお願いできるかしら? 由利子、これから洗濯するのよね? 一緒に洗っておいてもらえるかしら」


 『 ――ゴギンッ! ガラガラッ!ゴンッ! 』


「由利子、本当に大丈夫? まるで転んだ拍子に棚の上の荷物が落ちてきて由利子に直撃したような音がしたのだけれど」

『大丈夫じゃないんですけどぉ!?』


 いつも通りの元気な声が聞こえてきたわね。大丈夫そうで、安心したわ。


『それより何!? 一緒に洗えって!? リョーコのパンツを!? あたしの洗濯物と一緒に!?』

「……そうよね、ごめんなさい。あなたも今から忙しいのよね。手間を掛けさせるわけにはいかないわ」

『そういう話じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

「下着は明日行った時に返してもらうわ。適当なところに置いておいてちょうだい」

『このまま置いとけるかぁぁぁぁ!! 洗うわ! 洗っとくわ! 洗って置いとくわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

「そう? それならお願いするわ。手間を掛けさせてしまって、ごめんなさいね」


 話はつつがなく終わり、電話を切る。

 由利子も忙しいでしょうに、申し訳ないことをしてしまったわ。


 ああ、それにしても。

 明日が待ち遠しいわ。

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