第15話 高梨由利子は夢に生きた
はぁ~、気持ちいい。
露天風呂は気持ちいいな~。
「私もご一緒させてもらうわ」
あっ、ちょっ、こらリョーコ! ダメでしょ、ここは混浴じゃないんだから一緒に入っちゃ!
って、あたしも女でしたー。
な、なら……、い、一緒に入っちゃっても……、いい、のかな?
フヘ、フヒヘヘ……。
あれ、でもそもそもなんで露天風呂?
確かリョーコの家に来て……って、じゃあまさかこれ、リョーコんちのお風呂!?
…………。
なわけないわよね。ということはつまり。
はい夢でしたー!
…………。
ゆ、夢ってことはつまり、もうちょっと堪能しても、いい……のよね?
だって夢だもんね? ちょっとくらい羽目を外しちゃっても問題ないよね……?
だ、だったら……。
「あ、あのさ、リョーコ。せっかくお互いハダカなんだしさ、や、やっちゃおっか……?」
「あら、何を?」
「な、何をって、そりゃ……、せ、せっ…………背中の流しっこ……」
「あら、いいわね」
よっしゃァー! 夢とはいえ、念願の! お背中流しっこ……ッ!
えっ? 背中の流しっこで大袈裟だって? うるせー! あたしにとっては一大イベントなんだよ!
「では由利子。そこの椅子に掛けてちょうだい。流してあげるわ」
おっと、露天風呂のはずなのにちょうどいい椅子が。さすが夢。なんでもアリだね。
「あれ? でもリョーコの分の椅子が無いよ?」
「必要ないでしょう? 体で洗うのだから」
はえ? カラダで……ですと?
って、ちょっ、な、な、なんで体に泡塗りたくってんの!?
「ほら、由利子。向こう向いててくれないと洗えないじゃないの」
「ちょっ、待って! ここそういうお店じゃないでしょ!?」
ぎゃあ! 肩を掴む手が滅茶苦茶強い!
逃げらんない! ヤられちゃう! ヒィィ!
「ダメでしょ! ああああああたしたちまだそんなの早いでしょ!?」
「あら、高校生ならこのくらい誰でもやっているでしょう?」
えっ、そうなの? いやいやいや、やらねーよ!
ヒィィィーェェェェ! 子供が出来ちゃうゥゥゥゥ!
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「あ゛ーーーーーーーーーーーーーッ!」
目が、覚めた。
自分の声で目が覚めた。
ゆ、夢か……。
いや、夢なのはわかってたけどね。
しっかしいいところで終わってしまった。夢の中でまでヘタレててどうすんの。この意気地なしめ。
まぁ、悪い夢見るよりはよっぽどいいってことで――
「目が覚めたのね」
「う、うん。あたし寝てたのね」
一応確認。もう夢じゃないよね……?
見回してみるけど、うん。露天風呂じゃない。
ちょっと古風だけど普通のお風呂。そして隣にはリョーコ。
……お風呂?
「って、なんであたしお風呂入ってんのー!?」
「だってあなた、倒れる直前にお風呂って言ってたじゃない」
「えっ、言ってた?」
言ってたなら……仕方ないか。
「いやいやいやそれでなんでリョーコが一緒に入ってんのよ!?」
「だって気絶しているあなたを一人では入れられないでしょう」
「あ、なるほど」
危ないもんね。溺れちゃう。
「じゃなくて! なんでハダカなのよ!?」
「服を着たまま入れないでしょう」
「あ、うん」
ごもっともです。
いや、いやいやいや。
待って待って待って。
「え、あ、あの……、もしかして、リョーコさんが脱がしました?」
「他に誰がいるのかしら」
ヒエッ。
当たり前のように肯定されてしまった……。
「えっ、じゃ、じゃあ……、もしかして、み、見た……?」
「何をかしら」
「あ、あたしの……ハダカ……」
「当たり前じゃないの」
…………。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ちょっと、由利子! どうしたの! 何があったの!?」
何がって! 何がって!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
「ところで由利子、随分お洒落な下着を着けているのね。ああいうのが最近の流行なのかしら?」
気合入れちゃったんだよお気に入りの1枚なんだよ放っといてくれよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
…………。
う、うぅ……。ふぇぇ。
あ、あたし、もう……、お嫁に行けない……。汚されちゃった……。辱められちゃった……。
夢だったのに……。
年上の、優しくて綺麗なゆるふわお姉さんのお嫁さんになるのが夢だったのに……!
…………ピコーン!
こいつに責任取ってもらえばいいのでは?
そうよ落ち着きなさい由利子。そもそも年上の綺麗なお姉さんの知り合いなんていないじゃない。
夢はあくまで夢なんだから。現実を見なさい。
そう考えればほら、リョーコって何気に優良物件なんだよね。
優しくはないし難儀な性格だけど美人だし、
……いやなんでそこ加点ポイントになってんだよ! いやでも足技はむしろご褒美だし……いや、いやいやいや。
ま、まぁそれは置いとくとして。
「いいわ、リョーコ。あたしがもしお嫁に行けなくなったら、あんたが責任取りなさい。それで許してあげる」
「話の流れがわからないのだけれど……いいわ」
おっしゃ! 言質取った!
「その時は私が責任を持って親族からお見合い相手を――」
「ちっがああああああああああああああああああああああああう!!!!」
なんで!? なんで今の流れでそうなんの!?
「そうじゃなくて! リョーコが! あんた自身が! 責任を取るのよ!」
「ええ。だから私が親族を当たって――」
「ちっがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
なんっっっで、なのよ! なんで! 伝わらないのよ!
「どうしろと言うの……」
なんで『わけがわからない』みたいな顔してんのよ……。
…………。
はー、もういいわ。リョーコのことだもんね?
どうせあたしのハダカなんて見たって、欲情のひとつもしてくれないんでしょ? 浴場なのに。
あたしだけ恥ずかしがっててもバカみたいじゃん?
見られちゃったもんはしょうがないんだからさ、こっちからも堪能してやればいいんじゃん?
堪能して……見、見……。
…………。
直視、できねぇ……!
真っ白い! 肌が! そこにあるのはわかってるのに!
眩しい……! あたしには眩しすぎて! 直視できない……!
く、くそう……。理不尽だ……。
これじゃ一方的に見られただけじゃんかよぅ……。
「ねえ、由利子」
「なに? 今度はなに?」
またなんかあるの? 追い打ちされちゃうの?
「せっかくの裸の付き合いなのだし、背中でも流しましょうか」
背中を……流す……?
「だだだだだだダメ! ダメダメダメ! ここそういうお店じゃないでしょーが!!!」
「そういうお店? そういうお店とは」
「とにかくダメ! ダメったらダメ!」
「ええ……」
そんな不満そうな顔されてもダメ! 今度は夢じゃなくて現実なんだから!
本当に子供ができちゃったらどうしてくれんの!
「わかったわ。ではこうしましょう。
「ななななな何言ってギャーーーーーッ!」
か、体が、体が勝手に動いちゃう! 契約の力やべぇ!
「この椅子を使ってちょうだい」
ヒェェ、リョーコさんもうスタンバってらっしゃるゥ。
や、やばい。背中とはいえ、直視しちゃってる。マジ真っ白。髪は髪でツヤッツヤだしなんだよこれぇ。
くぅっ、仕方ない。覚悟を決めろ!
そう、これは仕方のないことなんだ。契約だもんね、仕方ないよね。
そもそもよく考えたらこれ、普通に背中流すだけだもんね。
夢の中みたいにいかがわしいことするわけじゃないもんね。
で、では。お背中、失礼しまーす。
…………。
……うっ。
タオル越しとはいえ、やっぱり女の子の背中、柔らけぇ……!
あんな常識外れの強さしてても、女の子なんだよなぁ。
う、うぅ。落ち着け、落ち着け。あ、だ、ダメだ。手、手が……、指が、震えて……。
あ、ああーーーー!
落としちゃった! タオル落としちゃった!
手が! 手が! 素手で! 背中触っちゃってるゥー!
ヒェェェェェェェ!
スベッスベ! スベッスベじゃん!!!
「どうしたの、由利子」
「ななななな何でもないよ!? ちょっとタオル落としちゃっただけだよ!?」
「そう? ならいいわ」
あ、危なかった……。
リョーコじゃなかったら訴えられてたかもしれない……。
訴え……?
あれ? 今のこの状況、人に見られたらまずいのでは?
だって、年頃の女の子と一緒にお風呂に入っちゃってるなんて……。
過去の判例とか知らないけど、これ懲役10年とかじゃないの?
あ、いや、違う。お背中流しっこでうっかり素手で触ったりとかしちゃってるから――
懲役、20年……?
えっ? お務め終えたらもうアラフォー?
えっ、何それ。あたしの青春どうなっちゃうの?
えっ? えっ? なんでこうなったの?
だってあたし、
あ……、契約戦で、負けたせいで……。
あたしが、バカだった。わかってたことじゃないの。勝てるわけないなんて。
それなのに、机上論で勝った時の事ばっか考えてて。一緒にお風呂に入るだとか、あわよくばお背中流しっこだとか。
バカなこと考えて、その結果が、これよ。
今あたしは、リョーコと一緒にお風呂に入って、お背中流しっこ……あれ?
ひょっとしてこれは……願望が叶っている……ということ?
えっ、なんで? あたし
いやもう、深く考えるのはやめ! 重要なのは、あたしの夢が叶っているということ。
だったら……、もういいじゃん。ここで人生終わったとしても、もういい。
だって、あたしの生きた証は、間違いなくここにあるんだもん。
その代償として懲役20年があったとして、それが何?
知ったことか! あたしは今、幸せなんだ!
もう何も怖くない! 警察だって怖くない! 来るならさっさと来いやぁ!
あ、ごめんなさい。やっぱり来るならお風呂出てからにしてください。
裸で逮捕なんてされたら生きて行けないです……。
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なお、その後は特に何事も無くリョーコにお背中流してもらった模様。
……ふぅ。
とは言え、あのまま一緒に入り続けているのは心拍数的に命の危機だったので一足お先に上がらせてもらうことにした。
湯船も綺麗だったけど、洗面所も綺麗だね。
ちょっと古風なのは単なる好みかな? 割と最近改築してるっぽい。
って、あれ? あたしの服、どこだ? お洋服の入ったカゴはひとつだけ。ひとつ……だけ……。
って! 一緒のカゴに入ってんじゃん! しかもあたしの服が埋もれてんじゃん!
まぁそうだよね! カゴがひとつで、あたしを先に脱がせて、その後リョーコが脱いだんだもんね!
あたしの服が埋もれちゃうよね! それはわかってるけどさ!
リョーコォォォォォォ! なんで一番上にあんたのパンツが置いてあんのよ!
あ、いや。あたしの服の上に置かれてるよりはマシ……なのかな?
そうだよね。これならリョーコの服ごと持ち上げればいいだけだもんね。
はい、ちょっとどかしますよー……。
というわけで、はい。リョーコの服をどかせば、そこにはあたしの服が。
そしてその上にはリョーコのパンツが。
って、なんでじゃーーーーーーーーーーーーッ!
「ちょっとリョーコ! なんであたしの服の上に、リョーコのパ、パ、パ、パンツがあんのよ!」
「ああ、それね。由利子の荷物を勝手に開けるわけにもいかなかったから、着替えを出せなかったのよ。だから代わりに持って来たの。使ってちょうだい」
使えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
洗濯済みとは言え使用済みじゃん! どんだけ無頓着だよ!
こんなん履いたら子供とかできちゃうでしょうが!
ってか服は脱がせるのに荷物は漁れないのかよ!
漁れよ! パンツ漁れよ! じゃなくて持って来いよ!
てかこれ、あたしの服にリョーコの
こ、これを……着ろと? いや、無理! こんなん着てたら過呼吸が命の危機でヤバいでしょ!
かくなる上は……最後の手段。裸のまま外に出て、荷物の中から着替えを出す。
替えの服までは無いけど、風呂上がりだしパジャマでも問題ないよね?
こっちの服は……どうしよう?
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