第11話 高梨由利子も異文化交流

 リョーコが笑った。微笑くらいなら何度か見たけど、ちゃんと笑ってるのは初めて見た気がする。

 そうだよ女の子は笑顔が一番なんだよ。でも、まだちょっとぎこちない感じかな?

 よーし、もっと笑わえる子にさせてやる。それに。


「リョーコ、『楽しかった』じゃないでしょ。楽しい一日はまだまだ続くのよ」


  そう。お楽しみはこれからこれから。

 これからリョーコの家に行って。それで、お、お楽しみ……。


 い、いかん。なんかいい話風だったのに煩悩が漏れ出て来た。

 し、鎮まれ、鎮まれ……。


 ふぅ……。


 しかしリョーコ、こういう店でも上品に食べるんだな。

 小さいバーガーとナゲットにしたのは口を大きく開けないためかな?


 リョーコが頼んだササミバーガーは小さめバンズにささみフライが2つ挟まったお手頃サイズ。

 そしてあたしのトリプルササミチーズバーガーは大きめバンズにささみフライが3つ並んだがっつりサイズ!

 豪快に大口開けてかぶりついちゃうよ!


「ところでさ、結構思い切って買い物しちゃったけど、大丈夫だった?」


 …………。


  ――もぐもぐ、ごくん


「お金のことなら問題ないわ。普段あまり使わないから余裕があるの」

「そう? それならいいんだけど」


 ちょっといろいろ勧め過ぎちゃったから気になってたんだよね。

 ってかちゃんと飲み込んでから口開いたね? お行儀のいいやつめ。


「私のお金ではないのだけれどね。今は親の遺産で生活しているの」


 あれ? 遺産ってことは――


「あ、なんか、ごめん」

「気にしないでちょうだい。昔の話だもの」


 う、うぅーん。割り切ってるっぽいけど、でも淋しい思いはしてそうなんだよね。

 友達欲しがってたのも、やっぱり淋しい気持ちがあったからだろうし。


 よっし、今日はこのままリョーコんち行く予定だったけど、やっぱりちょっと遊んでこう!


「それじゃこれ食べたらさ、ちょっと遊んでこ。ゲーセン行こ、ゲーセン」

「ゲーセン……ゲームセンター? ダメよ。そこは不良の溜まり場でしょう?」

「いつの時代の話だよ!? 今は一般人しかいないから!」


 ど、どこで仕入れるんだその情報……。

 今は小さい子から大きい子まで平和に遊んでるからね?



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



「よっしゃ、ヒモに掛かった!」

「そ、そのまま……お願いそのまま……」

「……取れたぁー!」

「やったわ。由利子が応援してくれたおかげよ」


 初めてのクレーンゲーム。ってリョーコは言ってたけど。

 うまいもんだね。武術とかやってるとタイミング計るのがうまくなるのかな?


 それにしても嬉しそうだな。

 取れたのはちょっとブサカワ系のタヌキのヌイグルミだけど、こういうの好きなのかな?


「それ、お気に入り?」

「ええ。一目見て気に入ったわ。どことなく由利子に似ていると思わない?」


 なるほど、言われてみればちょっと間抜けな面構えが――って失礼だな!?

 く、くそ、こんな嬉しそうにされてたら怒るに怒れねぇ……!


 でもま、楽しそうで何よりだ。ぶっちゃけ午前中は言うほど全くお買い物デートしてなかったんだよね。

 だって実用品買い揃えてただけだったんだもん。あれじゃただのお買い物だよ!


 やっぱこう、他愛もないことで笑顔になれるのがデートってもんだよね。


「そんじゃ、そろそろリョーコんちに行ってみよっか」

「ええ。その前に由利子の家に一度寄って行くのよね?」

「荷物取ってくるからね。リョーコも忘れ物ちゃんと持ってってよ?」


 というわけで一時帰宅! 荷物よし! リョーコの忘れ物も無事返却!

 これで我が家から危険物が無くなったわけだ。


 あたしだって年頃の女の子だからね。使用済みパンツと同じ部屋にいると思っただけで呼吸と心拍も乱れるというもの。

 場合によっては命の危険にすらなり得るわけだ。


 でもこれで、あたしの命を脅かす物は何も無い。

 強いて言うなら、今リョーコが持っている紙袋。この中に、その危険物が収容されているというのが悩みの種ではある。


 紙袋ゆえに口は閉じていない。

 これでは禁忌の芳香パンティ・フレグランスがダダ漏れなんじゃないのかと気が気じゃない。


「ねえ由利子。晩御飯はお惣菜で済ませていいかしら?」

「ん? いいよ」

「本当は手料理でもご馳走したいところなのだけれど、料理はまだ苦手なのよ」


 リョーコ、料理苦手なんだ。

 今度教えてあげよっかな? 由利子さんはお料理もできちゃんだぞー?


 というわけでとりあえず今日のところは駅前のスーパーでお惣菜コーナー。

 適当に揚げ物やら煮物やら買って――って、おいリョーコ。


「ちょっと待って、それあたしが持つよ」

「そんな、悪いわ」

「いや、いいから」

「でも悪いわ」

「いいから!!!」


 あ、危なかった……。なんで食べ物をパンツと一緒の袋に入れようとするかな。

 なに? 隠し味? 精力でも付けちゃうの?



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



「ここよ」

「ほぉー」


 立派な日本家屋だなぁ。門まで立派だ。

 その家屋にくっつく形でもうひとつ立派な建物が。


「向こうのは道場? そっちは門が無いんだ」

「ええ。うちは門下生を募ってはいないから。むしろ外部から閉ざしているの」


 なるほど、閉ざされていたわけか。いろいろと納得した。

 何に納得したかって……このあたりマジでなんも無い!


 コンビニどころかご近所さんすら無い! っていうか結構山の中歩いてきたよね!?

 ひょっとしてこの山全部リョーコんちのだったりすんの?

 駅からも遠いし、今度来るときは変身して飛んで来よ。


「まだ時間があるわね。由利子がゲーム好きで良かったわ。今からやりましょう」

「むしろリョーコ、ゲームやってんの? ゲーセンじゃ物珍しそうにしてたけど」

「だってゲームセンターは初めてだったんだもの。ゲーム自体は好きよ。だって一人でも遊べるもの」


 おいやめろ。空気が重くなる。


「いつもは一人でやっているから、協力プレイとかもしてみたいのよ」

「おー、やろやろ。どんなのやってんの?」


 …………


 ……………………


  ――てっててれれれーれーてれれれー

  ――てってれーてーてー


  ――ピュンピュン……チリンチリン……

  ――ピュン……チリン……


「あ、最初のベルもらっちゃっていいー?」

「どうぞ。次のは私にちょうだい」

「おけー」


  ――てれれれれれてってれーてれれれー


 …………。


「って、クインビーかよ! ファニコンかよ!」

「ごめんなさい。スーパーファニコンはまだ持っていないの」


 そっかーそれなら仕方ないねー。


 じゃねーよ! 当たり前のようにファニコン出てきて突っ込むタイミング逃したよ!

 14インチブラウン管テレビが違和感無さすぎて引きずり込まれたよ!


 ファニコン――ファニィコンピューター。

 あたしが生まれる前に発売された、ゲーム機のレジェンド。


 あたしもレトロゲームは好きだけどさ。何ここ、レトロしか無いじゃん。

 こうなると少年マンガをレジェンドから読み始めてたのも、単に新しい漫画を知らないだけなんじゃないかと思えて来る。


「ゲームバディならあるのだけれど……一つしか無いから対戦はできないのよ」


 ゲームバディ……これまた携帯ゲーム機のレジェンド。

 きっと初期型なんだろうな。ゲームバディカラーとか知ってんのかな?


「ねぇリョーコ、ゲームバディに色付いてるのがあるって、知ってる?」

「ええ。知ってるわよ」


 さすがに知ってたか。


「スーパーゲームバディでしょう? スーパーファニコンと一緒に買う予定よ」


 そっちかー。そっちじゃないんだよなー。やっぱり知らんのかい。


「そう言えば、アクションあんまり無いね。好きそうだと思ったのに」

「アクションゲームは苦手なのよ。キャラクターが思い通りに動いてくれなくて」


 そういうもんなのか。

 むしろゲームならではの珍奇な動きとか面白いと思うんだけどなぁ。


「どうしてモリオは正面から来るクリ坊やに徒手で応戦しないのかしら」

「あの人は配管工だから……格闘とかは苦手なんじゃないかな……」

「配管工だったのね。合点がいったわ」


 ごめん適当言った。でもまぁ、納得してくれたならこれでいいのかな?

 ――いいのか? まぁいいや。


 しかし自分に合ったゲームを探すのはいいんだけど、その理由でアクション避けるのはなんか勿体ないなー。

 ちょっと見方を変えれば普通に楽しめそうなのにね。


 自分に合ったのを探すと言えば、そうだ。

 ちょっと気になってたことがあんのよね。


「ところでリョーコさ、最初に契約戦プロミス挑む相手はBランク以上って決めてたんでしょ?」

「ええ。最低限それ以上でないと私の願いは叶わないと思って」


 相手のランクが高いほど強い拘束力のある契約ができる――とはいえ。

 友達が欲しいだけなのにどんだけ深刻になってんのよ、もう。


「リョーコ、解析アナライズとか使えんの? なんか見分ける方法あったの?」

「魔法は基本的に使えないわ。だから見分ける方法は無かったわね」


 解析って最低限の情報調べるだけで良ければかなり初歩の魔法なんだけどな。

 それが使えないってことは本当に魔法具無しじゃ何も使えないんだろうなぁ。


「それで少々難儀していたのだけれど、ある日偶然、中型の魔獣を見つけたのよ」

「……あ、あーあー。」


 なるほど、読めた。


 魔法少女のランク昇格には条件がある。

 DからCに上がるためには、小型の魔獣の退治もしくはCランク以上の魔法少女に契約戦プロミスで勝利。

 そしてCからBに上がるためには、中型の魔獣の退治もしくはBランク以上の魔法少女に契約戦プロミスで勝利。


 つまり中型の魔獣を討伐できる魔法少女なら必然的にBランク以上、というわけだ。


「私は魔獣発見の報告だけをして、他の魔法少女が来るのを待っていたのよ」


 自分では倒せない魔獣を見付けてしまった時は、こんな風に報告だけするのも大事なお仕事。

 それだけでも多少はポイントもらえるから、むしろそれをメインに活動してる子もいるくらい。

 逆に積極的に魔獣退治したい子にしてみれば、自分で探す手間が省けるからありがたいのよね。


 そしてリョーコはそのシステムを利用してあたしを見付けた、と。あれ、でも待てよ?


「昨日退治した魔獣、リョーコが見つけたわけじゃないよね?」


 というか昨日のは、そう。自分で見つけたんだ。そもそも小型だったし。

 そんで初心者の子が近くにいて。あの子可愛かったなぁ……。

 おっと、今はリョーコとデート中。浮気はいけませんよ?


「ええ。実を言うと随分前の話なのよ。あなたを見つけたのは」

「え、マジで?」

「その時は離れた場所から様子を伺っていたのだけれど、ええと……」

「話し掛けられなかった?」

「ええ、勇気が出なく……ではなくて、私の都合で多少なりと消耗した相手に挑むのは気が引けてしまったのよ」


 はいはい。まごついてるうちにあたしが飛んでっちゃったってわけね。なんで今ちょっと見栄張った?

 あー、そういや近くに誰かいたことあったな。魔力量少ないから一般人かと思ってたけど、あれリョーコだったんだ。


「結局その場では外見と帰る方向だけ確認しておいたわ」


 そこで追い掛けて来てりゃ良かったのに、結局動けなかったと。

 いかん、これほどまでとは。これはやっぱりあたしが付いててあげないと。


「そしてようやく再会できたのが昨日というわけよ。随分遠回りしてしまったわ」


 う、うーん。

 契約戦プロミスとか抜きに普通に話し掛けてくれてても友達になってたかも知れないのになぁ。

 なんかリョーコって、ほっとけないオーラが凄いんだよね。多分ほっとけなかったと思う。


「まぁ遠回りでもなんでも、結果オーライってことでいいんじゃない?」

「そうね」


 よーし、そんじゃそろそろゲームに集中するか。

 2面ボス来たぞー。



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



 ふぅ。4面でゲームオーバー。久しぶりにやってこれならまぁ悪くないかな?

 などと謎の満足感。リョーコの方は……なんかもじもじしてる。なにその仕草。


「ねえ由利子。晩御飯を食べたら……やりましょうか」


 …………。


 や……やる、とは……、ナニをヤるんですかね……?


 いやうん、わかってる。どうせ契約戦プロミスとかでしょ?

 いちいち妙な挙動しないでくれるかなぁ!? あたしの純情を弄ばないでもらいたいんですけどぉ!?


 いやもういいんだけどね。

 やってやろうじゃんよ!

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