第2話 いつも通りの非日常

 魔獣。1mくらいの野犬の魔獣。小型だけど、危険なことに変わりはない。

 そして魔法少女。今にも襲われそう。


  ――グルルルルル……


「や、やだ……来ないで……!」


 魔獣に人の言葉が通じるわけがない。このままじゃ危ない!


「誰か、助け……」


 はい助けに来ましたよー!

 全力飛行! でも間に合わないな、これは。


 障壁シールド展開! 魔獣の攻撃を受け止める!

 そして颯爽と登場!


「……ひゃっ」

「大丈夫? ケガは無い?」

「だ、大丈夫、です。た、助かりましたぁ……」


 間に合って良かった良かった。嫌な予感が当たったな。この子は新人魔法少女さんだ。

 魔獣が近くまで来てるのに結界も張ってないからおかしいと思ったんだよね。


「でもまだ終わってないよ。あたしが守っててあげるから、倒してみる?」

「無、無理です……。怖くって……」

「そう? じゃ、手本を見せてあげるからよく見ててねー」



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 はぁー、あの子、可愛かったなー。あ、あのまま口説いてたらいい関係になれていたのでは……?

 なーんて未練たらしく言っても仕方ない。人助けは人助け。恩を売るようなことはあたしのポリシーに反するからね。


 あたしは恋だの愛だのはまだ考えない……けど、それはそれとして一夜限りのロマンスというものに憧れている。

 い、今のは絶対チャンスだったよなー……。でもここはポリシー優先!


 しっかし暇だ。あの子と別れてから、特に何事も無く時間が過ぎていく。

 いつも通り。いつも通りの非日常。

 何か起こらないかなー……。


 そんな風に暇を持て余していたのが10分前。

 今のあたしは――戦闘の真っ最中である。



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 相手は魔獣ではなく、魔法少女。冷や汗ダラダラ垂らしながら。喉なんてカラッカラに渇いてる。

 完全に想定外の事態だった――なんて言っても、ただの自業自得。


『ああ、まさかこんなに強いとは思わなかった』


 そんなこと、今更言ってなんになるというのか。

 とりあえずあたしは今、とある少女と戦っている。


 長い黒髪を靡かせながら向かってくる、あたしと同年代と思われる少女。

 まずその速度が尋常じゃない。数メートルの距離を一瞬で詰めてくる。


 彼女のスタイルは近接型。

 主に武道や格闘技の経験者が選ぶスタイルで、魔法によって強化された身体能力を武器に近接戦闘を仕掛けてくる。


 このスタイルの魔法少女なら『数メートルの距離を一瞬』なんてのはまぁ当たり前にできることではあるんだけど……その一瞬ってのが0.5秒なのか0.1秒なのかでまた話は変わってくるわけで。

 つまり彼女の速度は尋常じゃない、となる。


 そして対するあたしは中距離射撃型。

 付かず離れず一定の距離を保ちながら主に射撃魔法で攻撃するわけなんだけど――その距離を保たせてもらえない。


 飛行魔法で下がりながら牽制に魔力弾を撃っても、その全てを叩き落としながら距離を詰めてくる。牽制が牽制にならない。なんなのこれ。


 たまらず障壁シールド展開! 並の攻撃なら弾き返せるだけの強度がある――はずなのに一撃で砕かれた。

 マジなんなのこれ。普通の打撃じゃない。一度障壁シールドに両掌を当てて、直後に全身を震わせるようなプレッシャーを感じたと思ったら砕け散った。

 漫画とかでよく見る寸勁?とかそういうの? よくわからないけどとにかく一撃で砕かれた。ヤバい。


 何がヤバいって、更に距離を詰めてきた黒髪さんの右掌があたしの左脇腹に触れているのだ。

 ヤバい。超ヤバい。体を捻って回避――ダメ、間に合わない!


「 震天シンテン! 」


 黒髪さんが叫ぶと同時に、あたしの体は吹っ飛んだ。もんどりうって吹っ飛んだ。

 ああ、技名とかあったんだね、とか言ってる場合じゃない。


 滅茶苦茶痛い! 砲丸か何かで殴られたのかってくらい重く響くいてる!

 ギリギリで体を捻っていたおかげで衝撃は軽くなっていたはず。それなのに割と本気で肺が……息が苦しい!


 まともに食らってたら一撃で終わってたかも知れないね。とにかく接近させちゃダメだ。

 ダメだ、なんて言ってもそう簡単に止まってくれないから困るわけなんだけどね!


 そもそもなんでこんな事態になってしまったのか。

 ――これは本当にただの自業自得。数分前の自分をぶん殴ってやりたい。


 誰かタイムマシンとか時間遡行魔法とか開発してくれませんかね?

 ちょっと自分あいつ、ぶん殴ってくるから!

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