伝えることと理解すること

 橋と対岸を挟んで四つ眼と水面が揺れた。一方は困惑、もう一方は期待を、それぞれの思いに投射して。


 俺がさっきの古本屋【あーけいっく】での御崎さんの言葉を舌で転がしながら、帰路に向かっていると、膝を抱え込んで座っている同学年の女性の姿が見えた。黒髪のロングが耳にかかっており、その髪が夜風に靡くと、イアフォンのような機械がこちらを覗かせていた。


 すると

「ちょっとごめんねー。今何してるのかな?」 「何歳?ここら辺に住んでるのかな?」


 女の子が小さな肩を左右に震わせる。それもそのはず、突然大柄の男性二人に囲まれ、矢継ぎ早に問い詰められているのだから当然だろう。


 服装からして駐在だろう。まあ一人物憂げに夜の河川敷を見つめている女性を正義の味方はほっといたりしないだろう。これで安心だ。


 そういって自分も巻き込まれないよう足早にさろうとしていると、先程の場所が音を増して波紋のように広がっていく。


「こんな夜遅く危ないからお家の方に連絡するね」「寒いからとりあえず署まできてもらうよ」


「いや、やめて! 帰りたくない! 」


「どうしたの? 話聞くためにも一度来てよ? 大丈夫だから」


 俺と同じような匂いを感じた。誰も助けてくれない孤独の自分。大丈夫の言葉なんて所詮まやかしで、同じかそれ以上ひどい思いをした人間しか使ってはならないと思う。


 俺は気づいたら走り出していた。そのまま女の子の手を引っ張って最初は大きくあからさまに動揺と怒気をはらんだ駐在の声が遠ざかっていく。


 廃墟に男女二人。そこら辺に錆びた鉄片や草の生えたコンクリート。どこからか月光が差し込み顔を照らす。


 やってしまった。


「きみ、名前は? 言いたくないならいいけど」一瞥すると先程は見えなかったきれいな顔がこちらを見ていた。


「ア、アネモネ。わ、私のこと、な、なんで助けてくれたの? 」眉を潜めて言う。


 その声はおぼつかないようで俺の耳にしっかりと届いた。「別に意味はない。」


女の子の顔が徐々に重力に負ける「む、無責任に助けたりしないでよ!! 私のき、気持ちなんて分からないんでしょ!! 」その不安定な声が轟く。


「分かるわけ無いだろ。そもそも伝えようとしてないだろ。 その状態でどうして分かれるっていうんだ。それこそ無責任だ」


そうピシャリと言い放つとアネモネの頬から一筋の涙が伝う。


「私だって自分が吃音症で、人と喋れなくて、喋っても変な顔されたり、笑われたり、家にも居場所がなくて、一人で泣くことすらできないってわかってほしいよ。今だって言いたいこともこの吃音にさえぎられて、まともに喋れない。その苦しさを共有したいよ」自分を形作るピースを一つずつはめていくように吐き出したい言葉を探る。


「じゃあ俺と友達になろう。俺はキキョウ。アネモネが伝えたいその言葉一つ一つ拾ってやる。そういえばいいんだよ。わかってもらえなくても、否定されても、理解してくれる人を探す。人間はそうやって生きていく。それが美徳だ。ってある人がそう教えてくれた。希薄な人間の同調をなぞった音よりそうやって詰まっても話そうとする言葉のほうが本当っぽくて美しいと思う。」


「そのかわり多くの愚者の青春ってやつがどういうものか経験してみたいんだがいいか?」


そうして俺たちは俺たちだけの青春を共有する【友達】になった。














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青春を羨む花は美しく咲いて 孤独 @KizugutsiniHignbana

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