背中で語ってきたもの。

春夏秋冬

実話の物語

 これは私が実際に体験したことなんです。あの出来事はまるで夢のようでした。そう、もう10年以上前の出来事になるのでしょうか。……そうした出だしを書くとまるで恐怖郵便を読んでいるような気がしなくでもありません。そうすることで、この話の嘘くささに拍車をかけてしまうことになるかもしれません。

 ですが、このようにして少しお茶目っ気をだすことによって、あの時の身の毛がよだつ体験をこうして書きやすくすることが出来るやもしれません。私は初めて自分の体験をこうして綴ってみようと思いました。特に理由はありません。ただ、このまま心の中で秘めておくと、いつまでも心の中に黒い塊がへばりついて剥がれ落ちないような気がするからです。こうして言葉という水できれいさっぱりと洗い流したいという思いがあるのです。

 少し、あの頃を思い出すと、鳥肌が立ってしまうのです。今からそのお話を……といきたいのですが。その前に説明も兼ねて、ぽつぽつと小さなお話を記していこうと思います。

 私の家は様々な心霊現象に見舞われることがありました。私は兄姉姉そして私の4人の兄弟になります。その兄弟たちで各々で体験していることがあるのですが、ここでは私が体験したことを主として語ることにします。

 これはよくある話になってしまうのでしょうが、あれは私が8歳くらいのとかですかね。トイレへ行こうと2階へ向かう階段の前を通ろうとした時です。私がふと、階段に目をやると、白いワンピースを着た長い髪の小さな女の子が私を冷たく見下ろしていたのです。

 恐ろしくなった私は家族に助けを求めて、立ち去り、また階段の前に立ったら誰もいやしなかった。


 金縛りにはよくあってました。

 中学生の時でしょうか当時はリビングで眠っていたのですが、その時に寝ようと思い、明かりを消しました。しばらくすると、いつも通りに、金縛りに遭だてしまいました。私はまたか、と嫌気がさしていました。そうしてその金縛りと共に激しい耳鳴りが頭中を駆け巡ります。

 私は動けない恐怖を抱えながら、早く動けるように、と懇願しました。何もなかった感情がフラストレーションとして、徐々に膨れ上がっていき、それが、やがて恐怖となって私の心を侵食していきました。

 その時です。数人の子供たちの笑い声がリビング中に響き渡りました。いるはずもない、聞こえるはずもない幻影がそこに音という実態として現れてしまったのです。

 そして、彼らはその動けない私の周りをドタバタと走り回りました。

 私は嫌な夢なら醒めてくれと切願しました。必死に目を瞑り、恐ろしい時が過ぎるのを願いました。

 しばらくたつと金縛りがとうとう解けました。私は一息する間もなく、起き上がり、電気をつけました。するとどうでしょうか。まるでここには誰も何事もなかったと言わんばかりの静かさだけがそこに残りました。

 

 他の出来事ももちろんあります。あれは小学校中学年の頃でしょうか。私はリビングで漫画を読んでいた時です。漫画に没頭しているときに、2階から2つ上の姉が私の名前を呼んできました。

 普段の私でしたら、階段を上って子供部屋に行って用件を聞きに行くのですが、その時に限っては、それが面倒くさかったんです。それなので、私は階段下のほうで「なーに?」とこう尋ねただけでした。しかし、私の問いかけは一方通行で、返事は何一つ返ってきませんでした。私は訝しげにしながら、「まあいいか」とリビングで漫画の再読を始めました。そうすると、しばらくして、2つ上の方の姉が学校から帰ってきました。

 そうです。違和感に気がつきますよね? あれ? となりますよね? そうなんですよ。2階から私の名前を呼んだはずの姉はいったい誰だったのでしょうか?


 まあ、心霊スポットに兄弟で遊びに行ったとき、私が撮った写真だけにオーブがうようよと映っておりまして、動画には微かに金切り声のような悲鳴のような声が聞こえていたり、と、そのようなことが起こっているわけです。


 いままで上げてきたエピソードは私の中で、記憶の中で印象が強く残っているものですが、私の中でさらに印象に残っていお話しが、冒頭の10年以上前のそう、高校生の頃の私の心霊体験になります。

 当時の私は畳のある、一種の物置のようになっている部屋を自室として使っていました

、その頃の自分は金縛りにかなり悩まされていました。

 いつも通りに眠くなって、明かりを消して、布団をかぶり目を閉じました。そうしてしばらくすると、いつも通りに耳鳴りが起き、体が動かなくなりました。意識だけははっきりしているのですが、体が全く言う通りを聞かないのです。まるで、精神と肉体とが隔離されたようなそんな気味の悪い感覚に襲われました。

 いつも通りなら、気が付けば収まるので、じっと耐えていましたが、今日だけは少し違いました。

 私は横になっていわゆる胎児型の姿勢で寝ているのですが、その空いた背中に何かの気配を感じたと思ったら、恐らく女性だと思うのですが、柔らかいふくらみを二つ背中に感じ、細い腕を2つ、私の首を優しく包むようにしてきたのです。

 私は心臓が飛び跳ねるかと思いました。当時は2階に両親が眠っているだけで、3人の兄弟は他県へ就職、大学へ行っていたため、この背中にいる誰かは、消去法で考えるとしたら母親でしかありえませんでした。

 母親がそんな馬鹿なことをするわけがない、と思っておりましたが、そう、それはあっさり覆ります。

 私を後ろから抱くその人は私の耳元で「ねえこっちを向いて」と優しくささやくのでした。女性の声でした。しかし、聞いたことなど1度もない声が耳を通っていったのです。

 私は背筋がゾゾゾ……となり、震えました。一気に肝が冷えました。血の気などすでにサーッと引ききっていました。

 謎の女性はまるで決められたことしか言えないのか「ねえ、こっちを向いて」と艶やかな透き通る声を耳に通し続けるのです。

 私はこれはよくある、振り向いたらやばいやつだと思い、目を必死につぶって、消えるのをずっと待っていました。そうすると、あきらめたのか、抱きしめられていた感覚がなくなり、そのタイミングで金縛りも解けました。

 私は立ち上がり、電気をつけました。明るくなった部屋を見渡しますが、誰もどこにもいやしませんでした。ふすまも閉じ切ったまま。誰かが開けたような閉じたような音などもしなかった。つまるところ、この部屋にいたのは私だけだったのです。

 私はバクバクと破裂しそうな心臓を深呼吸してなだめて、再び床に就きました。

 そうすると、再び同じことが起きたのです。金縛り、そして、何者かがまた現れて、私を優しく抱きしめるのです。そして、「ねえ、こっちを向いて」というのです。が、しかしながら、今回は1回目とは全く違いました。そう、今度は5つ上の姉の声が聞こえたのです。前述通りに姉は当時他県の大学にいたので、この家に存在するわけがないのです。

 私は鳥肌が立ちました。体が凍り付き、寒さのあまり震え、奥歯をガタガタと鳴らしていてもおかしくない状態でした。ですが金縛りがそれすらも許してくれません。

 後ろにいる何者かは「ねえ、こっちをむいて」と姉の声を借りて私を呼びかけるのです。

 「いやだいやだ」と必死に目をつぶってまた時に解決を任せようと思いました。すると、後ろにいる何者かは、様子を変えていきました。最初は姉の声で囁き続けていたのですが、少しずつ、まるで壊れたラジオのように、ノイズが走り、声が、どんどんどんどん形をなしてこなくなるのです。かすれた声、声色が低くなっていき、姉でも何でもない、ましてや女性の物ではない、原型なんてない、まるで化け物のような声に変っていったのです。


 「ねえ、こっちを向いて。ねえ、こっちを向いて。ねえ、こっちを向いて。ねえ、こっちを向いて。ねえ、こっちを向いて……」


 壊れたように、延々と話すその様は私を恐怖のどん底へと突き落としました。

 さらに、声で私に畏怖を教えるだけではなく、追い討ちをかけるように、優しく私の体を包んでいた腕がどんどんしまっていきます。そして、耳元ではこの世のものではない仰々とした、不協和音が混じりに混じった断末魔のようなものに近い物言いで私に迫ってくるのです。

 私は必死にこの場から逃げ出そうとしました。しかしながら、金縛りが私の逃げ道を封鎖してしまっているのです。ああ、動けるという事は何とも幸せなことだったのだろうかと、私は深く深く胸中に抱きました。そして、私はこの烈しい衝動から逃げだしたいという思い一心で、動きたいと何度も念じました。そんな中、私は、私をこんな恐怖のどん底に落とす何者かに強い怒りを覚えていました。だから、肘打ちをくらわそうと腕を動かそうと念じていました。そして、その願いが届いたのです。

 私は動いた腕で後ろの何者かの腹を目指して、肘を思いっきり振りました。すると、背後からは元々なにもなかったのか、空虚な音だけが、聞こえてきました。風を切るだけ、掛け布団をたたく音のみが耳に残りました。

 すると、壊れた声も、抱きしめられていた感触も、金縛りも、耳鳴りも、何もかもがなかったかのようにきれいさっぱりと落ち着いたのです。

 私は部屋を明るくしました。

 まるで私は夢を見ていたかのように、そこの部屋には最初から何もなかったかのように、いつも通りの、無造作に投げ出された掛け布団が目立つ部屋の情景だけが残っていたのです。


 あれから私が心霊体験をすることはなくなりました。というといい終わりなのかも知れませんが、残念ながら金縛りだけは時々起こっておりました。だが、何者かと接触することはありませんでした。

 今は実家を離れて、奥さんと2人でこじんまりとしたアパートで暮らしていますが、心霊体験に悩まされることなんて一度もありません。

 やはり、あの実家にこの世のものではないモノがいついていたのでしょうか。私が知らないだけで、昔、そこに何かがあったのでしょうか。真相はわかりません。もしかすると、私が大人になり、子供にしかない豊かな感受性により得た異形のものを感じる能力な失われてしまったのかもしれません。

 でも、しかしながら、ひょっと、もしかすると、知らない、気が付かないだけで。

 今もあの実家では家族とは別の何かが居座っているのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

背中で語ってきたもの。 春夏秋冬 @H-HAL

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ