第2話 異母兄妹。

 何とか異母妹には会えたけれど。


《やぁ、君の異母兄だよ》


 いやぁ、うん、面白い。

 警戒心はしっかり有るし、コイツとは微妙な距離を保ってたし、何より驚いた顔が王弟にそっくりなのが良い。


「髪色と瞳の色だけで、それは少し、難しいのでは?」

《王弟を見た事は有る?》


「絵姿すら無いですが、あの、不敬では?」

《まぁまぁ、そう言うと思って持って来たんだ、何人かの王族の絵姿》


 うん、やっぱり似てる。

 特に王弟に、若い頃の地味顔そっくり。


「いやでも髪色と瞳が」

《俺もだし》


「色が似ているかどうかだけで、判別するのでしょうか」

《子孫が途絶えそうなら王弟の子と子を成して貰って、それで似てるかどうかで決めるけど。まぁ、今は困って無いから補佐をお願いしたいなと思って》


「絶対に嫌です」

《だよねぇ、俺も同じ立場なら面倒だから意地でも認めないし、最悪は逃げる。けど、君はコイツと結婚したまま俺を補佐するか、王宮に入って補佐するかの2択なんだよねぇ》


「どうにか不妊になるので見逃して貰う事は?」

《そんなに面倒が嫌いかぁ、じゃあ、期限付き。俺が王様になるまで》


「王にならなかったら一生じゃないですかー、無理」

《んー、手強い、じゃあお金》


「困る財政状況では無い筈なので結構です」


《宝石》

「街で眺められるのご存知無いですかね」


《土地》

「面倒」


《地位》

「面倒」


《何なら欲しい?》

「平穏」


《だよねぇ》


「愚痴は聞きますが絶対に動きませんからね」


《優しいねぇ》


 ココも王弟にそっくり。

 俺とは似てない。


「あの、本当に」

《あぁ、君を含め、君の家族は知らない事だけれど。そうか、その手が有ったか》


「いや、ちょ、脅す前にですよ、そもそも」

《王宮勤めの侍女が君の家でも侍女をしていて、子をすり替えた。もっと言うと、その侍女は君の家の庶子、亡くなった叔父さんの子。血は繋がってはいる、薄くね》


「またまた」

《マジなんだなぁ、君が小さい頃に疫病が流行って、すり替える機会が有ったからだって。君の本当の母親が吐いた、あの家の子は疫病で亡くなってる。ご両親が隔離で会えない間に病で痩せてしまった、と勘違いしたのと、なまじ血が入ってるから誰も分からなかった》


「その、実母は」

《君の存在が確認出来た時点で処刑、本来なら王族の子を身籠って王宮を出てはいけないんだよ、勿論王宮務めを終える間際の者に手を出すのもダメ。こうした問題が起き易いから有る決まり、なのに王は手を出した、だから去勢された》


「あら」

《マジ、もう既に何人か居たしね》


「ウチの家に、王族の間者が」

《うん、医師だよ、君のかかりつけ医。手付けの疑いが有る者全てに付くんだ、兵の子だと言ってたみたいだけど、無理なんだよ。当時は王族意外の男性全てに、不妊の薬が与えられていたからね》


「信じるか信じないかは」

《王宮に来て公女になれば資料を見せられるけど、来る?》


「絶対に嫌です」

《だよねぇ》

『あの、ですので、お守りする為の政略結婚でしたので、だからこそ手を出さないと言う意味で』


「信じてるんですか?この腹黒過ぎて顔から滲み出ちゃってる人の言う事を」

《まぁ、マジで王太子だし》


「うん、そうですか、陰ながら応援だけしますので」

『男色家じゃないですし、そもそも貴女が凄く好みなんです、だから避けてただけで』

《バカでしょコイツ、守っといて、としか言って無いのにさ》


「え、え?」

《全部本当、けど嘘にしたいなら、コイツを信じた方が楽だよ?ご家族まで巻き込む事になる》


 もう、表情が七変化。

 俺似の兄弟姉妹って居ないから、何か、可愛いな。


「あ、じゃあそうします」

《だよねぇ》




 うん、嘘、全ては嘘。

 王太子の忠臣と忠臣の嫁を試す嘘に巻き込まれただけ、うん、そう言う事とします。


『嫌味で地味だと言ったんじゃないんです、似合ってると言って良いのか、そうした格好が好みなんです』


 デレデレされましても、溝が深過ぎて私にまでお気持ちが届かないと言うか。

 まぁ、正直、未だに気持ちを疑っています。 


「なら買いに行きましょうか」

『はい』


 そうニコニコデレデレされましても、温度差でコチラに結露が。

 どうしましょうか、歩み寄る以外に選択肢が無いんですが、その前にカビが生えそう。


「じゃあ、選んで下さい」


『怒らないで下さいね』

「はいはい、さっさとして下さい」


 そして本当に地味好き、けど体型が出る服が好みらしく。

 着て見せると、本気でキラキラしてらっしゃる。


『好きです』

「悪食なのは過去の女性遍歴の影響ですか」


『いえ、寧ろ前からですが、自分としては悪食だとは思っていません』


 いや、王族の血入りにしたってコレは、豊満なだけの地味子ですよ。

 相当、特殊性癖でらっしゃるのでは。


「はぁ、では下着は地味が良いですか、派手が良いですか」


『取り敢えず全種類で、色んな組み合わせで見せて下さいね』


 コレ生粋の地味好きですね、凄いですね、今まで大変だったでしょうに。

 あ、同情心が既に芽生えてしまった。


「仕立て終わったら、追々で」

『はい』


 いけない、ココで許しては本当に貴族の名が廃る。

 と言うか女の意地としても今直ぐに許すべきでは無いし、優位に立ち楽をするには、もう少し上下をハッキリさせないと。


「次は宝石ですかね」

『はい』




 本当に身に着ける事に興味が無く、寧ろ俺への贈り物を探してくれている。

 それだけでもう、浮足立ってしまって。


「残念イケメンですよね、本当に」

『良く言われます。後で、もっと話をさせて下さい』


「考えておきます。このピアスにしましょうか、タイピンはコレ、カフスはコレ」


 ピアスは濃い青を、下へと順に色が薄い宝石を選びタイピンは明るい青、カフスは水色。

 本来は同じ色で揃える事が多く、俺も同じ色で統一しているけれど、コレは。


『貴女にも同じ様に』

「服を頂いたので今度で、また来ましょう、お腹が空きました」


『案内しますね』




 どうやら本当に童貞では無いらしい。

 残念と言えば残念ですが、お年もお年ですし、妥当と言えば妥当ですし。


「女性が好きそうなお店を良くご存知で」


 ハッとして。

 別に年上なんですから堂々とすれば良いのに。


 アレですかね、好きな相手に表情を隠せないタイプ。

 貴族的には、まぁ男爵位で。


 何故、男爵位が王太子と。


 あれ、私、騙されてるのでは。


『あの』

「あの方とはどの様に?」


『そこも含め、後で』

「あぁ、はい、随分と秘密が多くてらっしゃる」


『すみません』


 アナタ年上ですよね、気軽にしょんぼりしないで頂きたい、イケメンのしょんぼりに皆さん見入ちゃってますよ。


 やっぱりコレ、私、本当に騙されてるだけなのでは。




《本当に、王弟にそっくりな面倒くさがりでしたよ》


 彼女の事を知っているのは、ウチの母と王弟のみ。

 強固な繋がりと言えど、いつどう漏れるか分からないので、ココだけ。


『ぁあ、それじゃあ説得は無理よねぇ』

「まぁ、俺に似てるなら無理だろうなぁ」

《王の子が王弟に似てるのも問題なのに、中身まで。優秀そうな子なので欲しかったんですが、まぁ、王弟似なので》


『面倒くさがりだけ、かしら?』

「アレはどうだ、兄者並みの性欲は」

《そこはまだ、ですけど優しいんですよ、愚痴を聞くだけなら聞いてやると言ってくれましたから》


『あら良い子、何も手を出さずに見守った甲斐が有ったわね』

「しかもお前のアレな家臣のだ、コレで良い方向に向けば良いんだがな」

《あ、尻に敷くのが上手そうなのは母上似ですかねぇ》


『敷くなんて、勝手に隙間に入り込んで来るのを拒絶しないだけよ』

《あぁ、その言い回しですよ、口は母上そっくりです》

「言い切ったなぁ」


《今度アレに話させますよ、捲し立てっぷりは血筋を感じましたからね》

「楽しみだな」

『そうね』




 急な婚姻にも関わらず、彼女は既に俺の為に、下着を一通り揃えてくれていた。

 派手なのは勿論、可憐な物、それこそ地味な物も全て新品で。


 なのに俺は。


「どれが良いですか」


『その、今のは』

「今のはマジでダメです、着慣れた普段着用ですから」


『それはそれで』

「追々でお願いします、良いから選んで下さい」


 少し、恥ずかしそうにしている気が。

 いや、確実に恥ずかしがっている、凄く可愛い。


『お気に入りか、いやらしいと思う物を着て貰えませんか?』


 今度は恥ずかしさから一転、驚愕の眼差しに。


「ド変態ですね」

『性欲は強い方です、なので寝室から追い出してしまいました、すみません』


「ぁあ、はい。あ、今後、夜伽前後に入浴させて頂けないなら、しません」


『あ、一緒に入るのは』

「追々で。早々に飽きたいならどうぞ」


『いえ、今日は我慢します』


 そして俺も個別で早々に入浴を済ませ、ベッドで待っていると。


「アナタに追い出された時、一応、コレを着ていたんですよ」


 控えめながらも可憐な、可愛らしい下着。

 多分、今までで1番、後悔したかも知れない。


『見てしまっていたら、多分、無理でした』

「確かめてみましょうか、それが本当かどうか」




 おい旦那様、素直にさせると思うなよ。


『それで、嫌に、自暴自棄に』

「ダメですよ、ちゃんと全て話してくれないと」


『そうした部分が、本当に、彼にそっくりですね』

「気の所為ですよ、ほら、続きを教えて下さい」


 結婚して6日後に、やっと彼とまともに話せた。


 災禍の焚き火、悪食なる誘蛾燈の2つ名が有る事、そうした性質から実際に守られた王太子が重用している事。

 目立たぬ様に男爵位のままでも、しっかり支援は受けている事。


 今までの女性遍歴が物語か、とツッコミたくなる程に波乱万丈な事。

 女嫌いでも仕方無いとは思ったんですが、まぁ、好みの偏りがエグいだけ。


 そこも波乱万丈にさせている要因でしょうね、地味さを褒められて嫌がらない貴族令嬢は珍しいですし。

 地味さを求められて嫌がらない女性も、少ないと言えば少ないですし。


『もう』

「もう無いですか?言い忘れが有ったら暫くお預けですよ」


『暫く、とは』

「勝手に自己処理してもいいですけど、パンパンに溜まるまで私に触るのも無しです」


『キスも?』

「勿論、一緒にお風呂に入るのが遠のきますね」


『好きです、愛してます、傷付けてすみませんでした』


「事情が事情でしたし、そこは許しましょう」

『ありがとうございます』


「いえいえ、ですが残念、私、凄く眠いんですが」

『え、あ、俺が、こう』


「一足飛びに出来る様な女が好きなんですか、成程」

『いえ、我慢、します』


「成程、一緒に眠るのは嫌ですか」

『違います違います、一緒に眠りたいです』


「眠れます?」

『そこは、はい、努力します』


 あんまりに可愛い反応なので、つい絆されそうですけど。

 私の為にも盤石な基盤が欲しいので、もう少しだけ我慢して下さい、旦那様。




「どうやら私の為にと、言葉選びを酷く間違えてしまったそうです、お騒がせしました」


 何とか、お坊ちゃまと奥様の誤解が解けたようで。


『すまなかった』

《いえいえいえいえ、誤解でしたなら、誤解が解けたなら何よりで御座います》

『本当に、危うく見損ないかけたと言うか、半ば見損ないましたけど。そうでしたか、良かったです』


「ですが、このままだと早々にお子が出来てしまうかも知れませんので、愛人か妾の候補を探そうかと」

『そんな者は本当に要らないんだ、次はしっかり控える様に努力する、すまなかった、どうか許して欲しい』


 早朝にドタバタされてらっしゃって、一時はどうなる事かと思ったのですが。

 幸いにも少しじゃれていただけだそうで。


 ただ、未だに旦那様とは、何も無いのが残念ですが。


「私の心も、と仰るなら、もう少し我慢して下さいませ」

『分かった』


「では先ず、朝食にしましょう」

《寛大な奥様に感謝を》

『素晴らしい奥様を迎えられて、良かったですね坊ちゃま』

『頼むから坊ちゃまは』


『はいはい』

《さ、奥様、ごゆっくりお召し上がり下さい》




 つい、彼女の油断した寝顔に欲情してしまい。

 暫く出来無いのだから、と、起きる前に。


『すみ、すまない』


「そう外でしょんぼりしないで下さい、可愛らしいお姿のせいで注目の的ですよ」


 彼女の言葉に顔を上げ、軽く周りを見回してみると。

 次々に女性達が正面を向き始め。


『はぁ、すまない』

「私が引き立て役みたいになっちゃってますけど、前からこんなにモテてらっしゃいました?」


『いや、すまない』

「アレですかね、既婚者となると急に魅力が発揮される性質をお持ちなんですかね」


『そんな者が?』

「アナタがそうかもですね」


『妬いてくれていると嬉しいんだけれど』

「アナタは嫉妬を喜ばれると嬉しいですか?」


『いや、すまない』


「一緒にお出掛けは嫌ですか」

『いや、凄く嬉しい』


「なら嬉しそうにして口説いてみて下さい、なんせされた事が無いので」

『君の魅力に気付かなかった者はどうかしてる、けれどお陰で君と結婚出来た事には感謝したい。もっと早くに出会いたかった、幼い頃からの婚約者だったならどんなに良かっただろうか』


「スラスラ出ますね、流石です」

『本当の事だからね、手にキスは?』


「良いですよ」

『ありがとう』


「そんなに肌触りが良いワケでは無い筈なんですが」

『いや、俺にしてみたら充分だよ』


 手を差し出すと、素直に触ってくれている。

 可愛い、愛おしい。


「成程、確かに、どう見ても文官の手では無いですね」

『文武両道だからね』


「私、こう、お分かりの通り、あまり性格が良いとは言い難いんですが」

『賢いからだろうね』


「いや手を食べないで下さい、話を続けますよ?良いですか?」

『すまない、どうぞ』


「嫉妬させられたら嫉妬させたいので、どうしたら妬きます?」


『ウチの部署に、来たら、多分』

「成程、確かに。ならご挨拶を、いや、重鎮の方に見抜かれても困るので、他の手でお願いします」


『友人知人、幼馴染は?』

「全て既婚者ですので、あ、いや、1人居ますが」


『なら、挨拶に行こうか』

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