第43話 パーティー会場
『聖女様、並びに教皇聖下のご入来です!』
そのアナウンスと共に扉が開かれる。
会場は、光が満ち溢れていた。
集まった人々も、皆キラキラしい衣装をまとっている。
その会場中の視線が、私へと注がれた。
(う……)
それらがないまぜになったかのような視線だ。
当然ながらそんな視線を浴びたらたじろぐに決まっている。
私は思わずセイラス様の背に隠れた。
エスコートの腕に引っ付いている形だ。
やっぱり全力で
水風呂に入って放置すれば、熱くらい出すことができたはずだ。
今更ながらに後悔する。
(大丈夫です。さあ、私についてきて)
私にだけ聞こえるようにつぶやかれた。
見上げれば穏やかな笑みが見える。
「周りが気になるのなら、私のことだけ考えていてください」
「!」
そういうセイラス様の顔は、どことなく嬉しそうだ。
……今日の彼は、やはりいつもと何かが違う。
見ていると、心臓が騒がしくなるし、恥ずかしくて顔が見られない。
でも、嫌な気分ではないのが不思議だ。
「行きましょうか」
彼に導かれて階段を降りていく。
会場からは「ほら、ご覧になって」とか「まあ……」という声が上がっていたけれど、今はそんなこと気にしていられない。
私の頭を占めるのは、いつもと何が違うのか、どうして心臓がこんなに騒ぐのか。
そんなことばかりだった。
◇
「聖女様! お初にお目にかかります!」
「私はグラン伯爵家の――」
「お召し物、とても素敵ですわ!」
「う……あ、は、はは」
入場が終わるとすぐにご令嬢たちに囲まれた。
大方、「聖女とお近づきになれ」とでも言われているのだろう。
私は張り付けた笑みで接していた。
もちろん、ちゃんとした笑みではない。
頬は引きつっているし、目も
間違いなく酷い笑みだ。
それでも笑みを絶やせないのは辛いところだ。
(早く一人になりたい……)
王族が入場してダンスが始まれば、こうして人に囲まれることも終わる。
そうなれば、こっそり休憩室に
あと少しの
ちなみにセイラス様はセイラス様で、別の集団に囲まれていた。
普段社交の場に出てこない教皇が、王族主催のパーティーにいるのが珍しいのだろう。
男にも女にも、すごい数に群がられていた。
それでもにこやかに対話を続けている。
私にはまねできそうにない。
「聖女様、聞きましてよ? なんでも第二王子殿下と教皇聖下から求婚されているとか!」
「あ、わたくしも気になっていましたの!」
「お美しい聖女様ですもの! そりゃあ殿方が放っておきませんわ!」
私の周りに集まった令嬢たちは、やはりというか、その話題の
全力で聖女を持ち上げておきながら、聞き出そうとしてくる。
「あー……えっと。わ、私にはもったいないお話ですので」
「えー! お似合いですのに!」
「そうですわ! 今一番の話題でしてよ? 聖女様がどちらを選ぶのか!」
「わたしは教皇聖下がよいと思いますわ!」
「あら! 第二王子殿下も遠目から拝見しましたけど、とても麗しい方でしたわよ? 魔物を
令嬢たちは興奮した様子でキャーキャー言っている。
ついていけないから
「いや……私は、今のところどちらとも……」
「「「えーーー!?」」」
「……はあ」
本当に勘弁してくれ。
思わず死んだ顔になってしまう。
なおも追求したそうな令嬢たちだったが、ちょうど国王たちの入場のアナウンスにかき消された。
国王と王妃が入ってきて、スピーチが聞こえてくる。
私は一つ息を吐き、気合を入れ直した。
だって、本番はここからなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます