第41話 求婚
第一王子の問題発言から数分後。
私たちは
「まったく……」
国王が、盛大なため息を吐いた。
しかめっ面で頭を抱えている。
それほどまでに、第一王子には手を焼いているらしい。
「陛下、第一王子も悪気があったわけでは……」
対する王妃は、第一王子を
自分の息子だからひいきしているのだろう。
(いや、息子が可愛いならしつけくらいちゃんとしてほしいな)
「悪気のあるなしは関係ない。教皇よりも、国王よりも尊ぶべきお方である聖女様に、あのような発言をされるなど……言語道断だ。そこのところ、どう考えておいでか」
隣からは、感じたこのないほどドスのきいた声が聞こえてきた。
先ほどからずっと真顔のままのセイラス様だ。
私はセイラス様の隣に座って、遠い目をしていた。
(バチボコにキレてますやん……)
頭を抱えた国王、バチボコにキレた教皇。
国のトップに立つ二人を、一言でこんな状態にできてしまう第一王子、末恐ろしいな。
そんな現実
「その女が聖女だって知らなかったんだから仕方あるまい? それに、俺には他国の姫が嫁いでくる予定なのだから、正妃にはできないだろう?」
「貴方は黙っていなさい!」
奥の方で第一王子が何か
というか、以前にあいさつを済ませている人を覚えていないとは。
行動だけではなく、頭もそんなに良くなさそうだ。
(なんで第一王子に
国王が頭を抱えている時点で、はく奪すべきじゃないだろうか。
まあ、考えるまでもなく正妃のせいなのだろうけど。
自分の子を国王にすることに
(いや、もう無理でしょう。やめとこうよ……)
だってさっきの一言で、セイラス様の
王なんて、自分の言葉に最も責任を持たなくてはいけない立場だ。
それなのに、第一王子にはちっとも反省が見られない。
「もうよい。第一王子は部屋で
「父上! なぜです!?」
「黙れ! さっさといかんか!!」
第一王子は、兵につれられて退場していった。
「聖女よ、
「本当にごめんなさいね。あの子ったら、聖女様のことを気に入っちゃったみたい」
「あ、ははは」
シンと静まり返った部屋で、国王と王妃は頭を下げた。
苦笑いしかできない。
聖女という立場上、すぐに許すこともできないし、かといってずっと怒っている訳にもいかない。
これはもう、今日のところは早く切り上げるのが一番いいだろう。
そう思い本題を聞こうと口を開きかけた。
その時。
「そ、そうそう! お
今度は王妃が
「「え、っはあ!?」」
私とレナセルト殿下が見事にハモる。
「ちょ、ちょっと待ってください! なんでそんな話になるんですか!?」
思わず声を荒げてしまった。
だって、いきなりそんなことを言われても困る。
「だ、だって。教皇聖下がお怒りになったのは、聖女様を下に見られたからでしょう? 正妃の座を用意できるのは、今の王家では第二王子くらいだから……」
王妃はもごもごと口ごもった。
親子そろって空気を読まない天才かもしれない。
(まって、第二王子の正妃って……)
そこまで考えて頭を振る。
そんなこと考えられるわけない。
だって私は、この世界の人間じゃないのだし!
という訳で首を横に振るが、
「ほら、息もぴったり見たいですし。ねえ陛下。それでいかがでしょう?」
「……ん、あぁ。そうだな。案外よいかもしれん」
国王はコメカミを抑えたまま
「どうだ、聖女。第二王子妃となるのは」
「どうって……」
此方としては、
コミュ障に
それに結婚なんてまだまだ先のこと、そんな簡単に決められないし。
「あの……。わ、私、まだ婚約とかは、まだいいかなって……。ほら、私まだ18歳ですし、早いですよ!」
「ワタクシもそのくらいで嫁いできましたわよ? 早いということはないでしょう」
しまった。ここが異世界だということを忘れていた。
ついつい日本の考え方になってしまう。
思わずたじろぐ。
――ガタン!
ふいに、イスが倒れる音がした。
振り返ると、セイラス様がうつむいたまま机に手をおいている。
ずいぶんおとなしいと思っていたが、ついに怒りのメーターが振りきれてしまったのだろうか。
「聞いていられませんね。聖女様、行きましょう」
「セ、セイラス様!?」
彼は私を立ち上がらせると、手を引いて出ていこうとする。
「そうそう。第二王子との婚約の話ですが、ムリに進めない方がよろしいかと」
広間に、凛とした声が響く。
シーンと静まり返った。
「なぜだ?」
国王が辛うじて口を開く。
「なぜ?」
セイラス様は鼻で笑った。
「そんなの、私も彼女に求婚しているからに決まっているでしょう?」
「!!?」
「決定権は、あくまで聖女様にあります。もちろん、私はそれに従うつもりです」
聞いたこともない話だった。
あんまりにも驚いてしまって、声も出せない。
「なんと、まあ。教皇自らとは……。だが、聖女自身が第二王子を選んだのなら、よいということだな?」
「……それは聖女様が決めることですので、私は口を挟みません。ですが」
セイラス様は
「聖女様の意に反することをすれば、見逃しはしません。そのときは……覚悟してください。もちろん、全面敵対したいというのであれば別ですが」
二人の間に冷たい空気が流れた。
視線が鋭すぎて、身動きがとれない。
「……。我らとしてもせっかくの協力関係を無下にはしたくないのぉ。よいだろう。今の段階では婚約の打診、ということにしておくとしよう。聖女には、ぜひ第二王子を選んでもらいたいものだ」
「では、そういうことで」
セイラス様はそれだけ言うと、王宮を後にした。
彼に腕を引かれ、ついていく。
今の会話の意味も分からないまま、気が付けば馬車に乗っていた。
なんで、こんなことになった?
何を、言われた?
セイラス様が、私に……?
(いやいやいや!! そんなこと言われた記憶ないけれど!?)
ようやく何を言われたのかを理解しだして、一気に顔が熱くなる。
(おおおおお落ち着け!)
何度か深呼吸をして落ち着ける。
「セセセセイラス様!? あれは、いったい??」
思いっきりどもってしまった。
でも仕方がないと思う。
向かいに座る彼は、既にいつも通りの顔に戻っていた。
「すみません。とっさとはいえ、なんの相談もなく。……ですが、王家からの婚約の打診が来たとなれば、断るには相応の理由が必要でしょう?」
「え、あ、え?」
「国王と対等な立場である私が求婚中だと言えば、少なくとも強引な
「あっ、あ~」
なるほど、そういう理由か。
どうやら私を想っての嘘だったらしい。
(よかった……)
求婚を聞き逃したのかと思ったが、そうではなかったようだ。
確かにあのままだと、レナセルト殿下と婚約する流れになっただろう。
国王も王妃も流れる様に推してきたし、断れていたかは不明だ。
「……助かりました」
「しばらくはいろいろ噂されると思いますが、我慢してくださいね」
セイラス様は困ったように笑った。
「噂……?」
「ええ。第二王子との婚約の話が持ち上がったこと。そして私があなたに求婚中だということ。その二つが噂好きな社会に流れないはずがありませんから」
「……」
そりゃあそうだ。
数日後。
予想通り、「第二王子と教皇が聖女に求婚中」という噂はたちまち王都中に広がってしまったのだった。
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