第33話 反省会


「それで? 何か申し開きはありますか?」

「大変申し訳ございませんでした」


「間に合わなかったらどうするつもりでした?」

「何も考えていませんでした」


 皆さん、こんにちは。

 私は今、床に直で正座をして平謝りをしているところです。



 二人に何も言わず、一人で突っ走った挙句あげく、襲われかけた。

 さすがにやばいかなーとか思っていたけれど。


 ちらりと様子を伺う。



 目の前には仁王立におうだちをする教皇様と、その後方でドアをふさいでいる第二王子。


 絶望的なシチュエーションだ。

 完全に退路を立たれている。


(だめだこりゃ)


 ゴゴゴという効果音が聞こえた気がする。

 激おこ丸出しだった。


 私は諦めの境地きょうちでチベットスナギツネになった。



(これは……あの広場で即説教にならなかっただけマシかなぁ)


 むしろあの場で説教されなかったのが奇跡だ。



 ……まあ、あの後はそれどころではなかったが。


 実は私、力を使ってすぐ、ぶっ倒れてしまったのだ。


 たぶん、強力な力を使うとそれだけいろいろと消耗しょうもうするのだろう。

 2時間寝ていたというのに、まだ体が重い。

 心なしか、頭もガンガンしている。


 辛うじて体を起こせているが、それも割と時間の問題のような気がする。

 早いところ解放してもらわないと。



「で、でも、ほら! 結果的に街全体に残っていた瘴気も浄化できたんだし、結果オーライ……なんて」


「何が結果オーライですって?」

「申し訳ありませんでした」


 教皇様、笑みが逆に怖いです。

 ニコリと音の付きそうないい笑顔なのに。


 地獄じごく裁判さいばんをされているような心持ちになるではないか。


「確かに、あなたの言う通り、街の瘴気は浄化されていました。ええ、それはもう、細部に至るまで。街全体が、ね」

「はい……」


 力を解放したあの”鳴神なるかみ”。

 その力は凄まじかった。


 広場で暴れていた患者や瘴気どころか、街にとどまっていた瘴気や、土に宿っていた瘴気までを消したのだ。

 つまるところ、この街は今、王都と同じくらいにクリーンな状態なのである。


 街一つ。

 丸々浄化してしまったのだ。


 気絶している間に教会の皆さんが調べてくれたので間違いないらしい。


「それは素晴らしいことです。お礼も申し上げましょう。本来なら」


 数段下がった声に、体が揺れる。

 見上げれば見えるのは、真顔。


 見なければ良かった。

 ギギギっと音を立てて顔をそむける。


「私、言いましたよね? あなたは唯一無二ゆいいつむにの希望だと」

「はい……言われました……」


「あなた、剣術けんじゅつ体術たいじゅつが使えましたっけ?」

「ムリです……」


「では、何かあっても対応できないですよね?」

「そうですね……」


「なのに、私たちに告げることなく、護衛もつけず、お一人で、患者の元に行かれた」

「……はい」


「何を考えていらっしゃるんです?」

「ごめんなさい……」



 あまりにも怖すぎて、謝るしかできない。

 先ほどから、体にバイブレーション機能が搭載とうさいされたように震えている。



 感情に任せたののしりだったらまだ希望があった。


 けれど教皇様の叱り方はそうではない。


 一つ一つ、掘り返してくるのだ。

 無謀な行動を、どれだけ無謀だったかをさとすように。



 反論はんろんなんて、できる訳がなかった。


「はあ、全く。普段だったら外に出たがらないというのに、どうしてこういう時だけ活発になるのでしょうか」

「分かりません……」



 私だって不思議だった。

 いくら寝ぼけた頭だったからとはいえ、普段だったら絶対に取らない行動をしていたのだから。


 今までだったら、ただ、教皇様についていく感覚だった。

 それが今日は、患者が暴れていると聞いた瞬間、行かなくてはと思ったのだ。


 まるで、


 だからどうしてなのかと問われても、困る。



「今回はたまたま無事だった。けれど、現場に行く前に何者かにさらわれたり危害を加えられたり、しないとは言い切れない。それに患者が暴れていた時、私たちが間に合わなかったら、どうなっていたことか」


「う……」


 それは本当にそうとしか言えない。


 実際に危なかった場面もあったのだし。


(あれ、そう言えば……)


 広場までの道であったことを、まだ彼らに伝えていないのを思い出した。


 あの仮面の男のことだ。

 何者かは分からないし、無理やり連れていかれても手も足も出なかった。


 今思えばあれも危ない目にあった、と言える。


「……」


 今、言うのはやめておこう。

 絶対に火に油。


(余計に怒らせるだけだって、私、知ってる)


 あの事は私だけの秘密にしておこう。

 ひそかに決意した。



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