第26話 そういうイジワルはやめた方がいいと思います!!



(……。……あれ)


 数秒が経った。

 けれど、いつまでたっても口に何かが触れることはない。


 代わりに髪に何かが付けられた感触があった。


 私は、恐る恐る目を開ける。


「……ふっ」

「!!」


 教皇様は横を向いてプルプルと震えていた。


 思いっきり笑っている。


(か、からかわれた!?)


 今更ながらに冗談じょうだんだったということに気が付く。


 かあっと顔が熱くなった。


「ひ、ひどい!!」


 乙女おとめ純情じゅんじょうを……いや。コミュ障の純情をもてあそびやがって!!

 いくら何でも酷くない?


「ふ、ふふ、あはは! すみません、つい」

「つい、じゃないんですよ!!」


勘違かんちがいしたのは私だけれど! 私だけれど!!)


 思わず地団太じだんだを踏む。


 だって恥ずかしいやら、悔しいやら。

 なんだかじっとしていられない。


 穴があったら入りたい。

 むしろ掘って収まりたい。


「そういうイジワルはやめた方がいいと思います!!」

「イジワル、ですか?」


「そうです! 私で! 遊ぶの!! いくない!!」

「あは! なんでカタコトになるんです?」


「いーーーーー!!」


 精いっぱいの威嚇いかくだ。

 なのに笑われてしまった。


(明日、くつに砂をつめてやる! 絶対に!)


「もう! 帰ります!!」

「ああ、そんなに頭を振ったら、落ちてしまいますよ」

「は? なに、が」


 何をつけられたのか、と先ほど何かをつけられたところを探る。


 こつん、と何かに指がぶつかった。


「ん? 何だこれ?」


 取ってみると、金色の花とパールが添えられた、可愛らしいバレッタだった。

 繊細せんさい細工さいくで、美しい。


「え……と」

「頑張っているご褒美ほうびに、あなたへ。つけて差し上げようと思ったら……なにやら随分ずいぶん可愛らしい勘違いをされていたようで」


 にやにやと笑う教皇様が何を言っているのか、考える。


 髪につけるために上を向かせたということ、なのだろう。

 つまり……


「~~~~っ!!!」



 全てが勘違い。


 逃げようとする私に渡さなきゃということで、部屋に留める=壁ドン

 ご褒美をつけようとして上を向かせる=顎クイ


 という図式ずしきということだ。


「ま」

「ま?」

「まぎらわし!!」



 恥ずかしすぎる。

 もう埋まりたい。


 きっと今の私はこれ以上ないほど真っ赤な顔をしていることだろう。


「な、あ、だ……」

「そんな口をパクパクされても、何を言いたいのか分からないですよ?」

「し……」

「し?」

「失礼します!!」


 勢いに任せてドアをバーン。

 そして逃走。


 脱兎だっとのごとく!


 背後の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえてきたけれど、そんなこと気にしていられない。

 私はダッシュで部屋まで帰ると、ベッドにもぐり込んだのだった。


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