頭に響く

三毛栗

声がする


 

 ジリリリリリリ


  ジリリリリリリリリ


   ジリリリリリリリリリリン


    ジリリ…チン!



 「ふわぁ」


 

 今日も朝が来た。


 カーテンから少しだけ差し込む光は、今日が晴天であることを私に教えてくれる。


 それにしても、やっぱり今日も。


 私の頭に彼がいる。



 『起きたか。目覚まし時計が煩いんだ、さっさと起きて、さっさと止めてくれよ』



 低くて重くて頭によく響く、そんな声が聞こえてくる。


 私の頭にいるくせに、よくもまあこう憎まれ口を叩けるものだ。


 

 『ほら、さっさと準備をしろ。トーストだ、トースト!あの甘いのを焼くんだ!早く!』



 分かっている、分かっているよ、やることくらい。


 だからそうも急かさないでほしい。


 ただでさえ君の声は頭に響くのだから。



 「はいはい、っと」


 

 最近は寒くなってきたというのに、彼のせいで二度寝もままならない。


 あの声を聞くたびに、私は少し苛立つのだ。



 ポチッ



 《続いては、お天気コーナー~!》



 可愛らしいアナウンサーの声がテレビから聞こえる。


 いっそ彼の声がこのくらい可愛らしく聞きやすければ、私の頭も少しは楽になるだろうか。



 『焼けてきたぞ!焦げそうだ!早くとって!』



 だーかーら、急かさないでくれ。


 というか喋らないでくれ。


 内容は別にいいのだけれど、問題はそこじゃなく君の声だから、無駄に頭に響くから。



 サクッ

   


 ある意味彼のお陰とも言える焦げていない美味しいトーストを手早く頬張る。



 《今日は低気圧が非常に強いですね~、寒波も激しく、風邪も引きやすいでしょう。体調には十分お気をつけください》



 『いっそーげ!いっそーげ!早くしろ!早くしろ!』



 …だから今日はここまで煩いのか。


 なにもしないくせして人一倍急かしてくる、偉そうな子供のような態度の彼は、私の頭痛の種だ。


 

 『なんでそんなにのんびりしてるんだ?いつもならドタバタドタバタ煩いったらないのに。なんでだ?』



 煩さで君に勝てるやつはそういないだろうね。


 なんて、皮肉を頭で言ってみたりする。


 今日は午前休をとったから思い切り寝坊して布団でも洗うつもりだったのだ。


 ーー誰かさんのせいで寝坊の計画は完全に崩れたのだが。


 ここまでのんびりとこの時間帯のニュースを見れたのはいつぶりだろうか。


 

 『なあなあなあなあなあなあなあな!!!』



 …いっそ話しかけてやれば黙るのか?


 けどそれは、なんか…負けた気がするというか、認めたくないというか…とにかく、なんか嫌だ。



 『今日も無視すんのか?』



 突然、声のトーンが低くなる。


 頭にズシンと、一段と重く響く。


 ドキリ、と、鼓動が強く胸を打つ。



 『分かってんだろ?俺のこと』



 タラリ、冷や汗が浮かぶ。



 『いい加減、認めちまえよ』



 ゴクリ、コーヒーと唾液を飲み干した。



 『…なぁんてな』



 彼は知らない。


 私に彼の声が聞こえているということを。



 『…つまんねぇの』



 そもそもの話、彼は私の妄想の産物かもしれない。


 聞こえないと思っている、というのも、私の妄想かもしれない。



 『…はああ。役立たず、会話も出来ないなんて愚図だな』



 何だと?


 彼は本当に、何て口が悪いのだろう。


 けれど、私が彼について知っているのは、これ位かもしれないな。


 …私が彼について知っていること、か。


 まずはまあ、口が悪いことだな。


 次は…なんかいつも偉そうなこと、上から目線なこと。


 あとは、子供っぽいこと、何だかんだ『急げ』とかそういう、手助けというかアドバイスというかをしてくれること。


 そして、低気圧の強い日に決まって、こうも煩く響き続けること。


 無論これも、さっきのように私の妄想なのかもしれないけれど。



 『どうしたんだ?』


 

 考えているんだよ。


 低気圧の強い日、彼の声が頭に響いて、私の頭は重く痛く。


 彼は案外、私にとっての低気圧なのかもしれない。


 

 ーーまあ、でも。

 


 そう考えたら、普通の低気圧よりは悪くないんじゃないかな?


 トーストの最後の一口にかじりつく。


 今日も彼は私の頭に声を響かせる。


 煩くて、偉そうな、私の頭痛のもと。


 彼は私の低気圧。


 高慢ちきな、低気圧。


 



 

 

 

 


 


 

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頭に響く 三毛栗 @Mike-38

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