第23話 現世に戻る
「目的地に着くまで、これからの方針について考えるか」
俺達の乗ったミニバンは、気付けばスイ様のいた高天原からくさびら神社の境内の中に転移していた。スマホで確認すると、約一年が経っていた。
最初は会社とかクビになっているな、とか呆然としたが、今さら仕方が無いと腹をくくることにした。
それに、と現在走っている車道わきを眺める。
ところどころにこげたようなあとがあり、交通事故現場のように車が横倒しになっていた。
多分魔物か人狩りがやったんだろう。
こんな殺伐とした日本で会社もなにもあったもんじゃないだろう。
「二十二神が顕現してから一年経っているんだよね。安全の確保を前提として情報収集。その後零番目の勢力として神道の信者を増やしていく。そういうことでいいのかな?」
「ああ、他の人間や魔物がどれくらい強くなっているかわからないからな。まずは自分達の強化を最優先にするのが妥当だろう」
運転しながらカノに巻き物に記された内容を説明していく。
とはいえ情報はあまりない。そこには基本的な事しか書かれていなかったからだ。
こちらから質問しても、スイ様が念写してから文字が現れるまでには時間がかかるらしい。
万全を期すならスイ様の言葉が全て現れるのを待つべきだが、その間に魔物に強くなられてはもとも子もない。
だから危険でも、しばらくは最低限の情報でやっていくしかないのだ。
「強化って……どうやるの?」
「魔物からでる魔石があるだろ? あれは砕くと光と塵が生まれるらしい」
塵は活性化された魔素で大気に溶ける。これが周辺に増えるほど強力な魔法が使えるとか。
「俺達にとって重要なのは光の方だ。これを取り込んでいく事で杭が育ち素の力が強くなる。死にづらくなったり魔法が使えるようになるわけだな。当然だが他の使徒達もすでに一年間これをやっているはずだ」
口に出した後、カノが口をつぐんだので釣られて口を閉じてしまった。
考えている事はわかる。他の使徒、要するに大多数の人間と俺達は敵同士だ。
どのレベルの対立かわからないが、下手すれば殺し合いになる。
その覚悟を俺達は今このときも静かに覚悟を決めようとしている。
「……杭でもレベルアップできるんじゃない?」
不安そうな目でカノが聞いてきた。
「スイ様は使徒から取り出した杭はとっておけといってるから俺達は使わないが、神に選ばれなかったニエを狩る使徒が使っているかもしれないな」
「良かった。気持ち悪いのに使えなんて言われたらどうしようかと思った……それよりさ、強化したら魔法が使えるんだよね? 人によって使える属性があるの? スイ様の使徒だし全属性とかかな?」
重い空気にしてしまったと思ったのか、カノが急に明るい声で話題を変えてきた。
期待に満ちた顔でこちらを見てくる。
全属性か……ある意味正しいんだけどな。
「俺達は魔石を砕いただけじゃ身体が強化されるだけで魔法は使えないんだ」
「うそっ! つかえないの⁉」
「危ないから運転中は身体を揺らさないでくれ」
カノが今日一番がっかりした顔でさけんで詰め寄ってきた。
まあ気持ちはわかる。
俺達を襲ってきた連中は火の魔法を使ってきた。
だから使徒になった俺達もすぐに使えるようになる、と思っていたが違うらしい。
「使えない理由は日本の神さまの力が弱まっているせいだ。しかも神道・陰陽道・修験道・鬼道、どの系統でも術式に縛られているから、二十二神の使徒のように原始的な魔法を簡単に行使する事もできないらしい」
「うわぁ、前途多難……」
がっくりとうなだれるカノ。そこに後ろから小さな手が伸びてきた。
「……ん? アヤどうしたの?」
後部座席から顔を出したアヤがカノの袖を引っ張って見あげている。
いつもよりちょっと目を開いて手で握りこぶしをつくっていた。
その様子におもわず頬がゆるんだ。
「そこでアヤの出番になる。今神さまの力が弱まっているって言っただろ? それは活性化された魔素が不足したせいだ。それをアヤは地上の加工品や魔物が出す魔石から精製する事ができるんだ」
「あ、そういえば赤錆びをピカピカにしてたけど、アレ?」
「そう、『精製魔素』というやつだ。神社にいって神様が欲しがる供物と一緒に精製魔素を差し出せばその神様は力を取り戻していく。そうすれば力を代行するための『呪符』がもらえる」
「ということは、それを使えば魔法が使える⁉︎ アヤ偉いー、有能ー!」
カノが顔を輝かせてアヤの頭をぐりぐりとなで回す。
機嫌が戻ったようでなによりだ。
「ま、そういうわけだ。具体的な魔法が何かはもらってみないとわからないが、他の使徒が使う火とか土みたいな原始的な魔法とは違うらしいから期待しよう。とにかく俺達は魔物を狩って魔石で強化だ。そしてアヤには魔物や物質を使って魔素と供物になる物質を精製してもらう。で、神社巡りをして呪符を集める流れだ」
「了解。でも、今のアヤに魔物の死体を食べてもらうのはちょっと嫌かも」
葛藤して唸るカノの頭に小さな手が乗せられた。
「……大丈夫。スライムを呼び寄せてわけてもらうから」
アヤはスライムを使役できる立場にある。なので、適当な所でスライムを呼び寄せれば、彼らがビルや鉄骨を溶かして得た素材を得る事ができるわけだ。
「なんだ、よかったー」
カノがほっとため息をついてシートにもたれかかる。
そんな事を話している内に見慣れた家が並ぶ通りに入った。
「さて、着いたな」
「うーん、家自体は無事だけど、中はそうでもなさそうだねぇ」
カノが苦笑して自分の実家を見あげた。
玄関は開けっぱなし、二階のカノの部屋の窓は割られてカーテンがはみ出ている。
魔物が入り込んだのか、泥棒に入られたのかはわからない。
「きっと俺の家も同じようなもんだ。武器は持ったか?」
「ん、大丈夫」
後部座席のアヤから棒を受け取ったカノは手早くフクロナガサをはめて手槍を作った。
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