第12話 マジックボックス的なものをゲット

「リクト、これマジックボックスだ! 物とか入れ放題のやつ! さすがファンタジーの世界!」


 マジックボックス、これにときめかない奴はいないだろう。

 二人のテンションは爆上がりだ。カノが両手を上げてきたのでハイタッチする。

 こみ上げる笑いをこらえきれない。


「どれだけ容量があるか気になるが、スライム玉の保管場所ができたな!」


 ちょうど良かった。せっかく手に入れたスライム玉だけど、避難する時にはほぼ捨てなければと考えていたのだ。

 はしゃぐカノと協力しながら砂利の上に落ちているスライムから出た玉を写真に収めていく。

 次々と消えていく玉はスマホで画像表示されている。なるほど、収納と同時に鑑定されるわけだな。

 鉄、銀、ケイ素……純粋なマグネシウムまである。透明な膜で覆っているから化学反応を起こさないのか。


「なんだこれは?」


 並ぶ写真の中に液体が入っているらしい玉をみつけた。握るとグニっとゆがむ。

 スマホで写メして名前をみると……なるほど、ナフサか。


「それなに?」

「簡単にいうとガソリンの素だ」

「うわ、めちゃ攻撃力高そう」


 発想が怖いな。同じ事を考えていたから強く言えないけど。

 たしかに、素直に使うなら攻撃だ。さっきのマグネシウムと組み合わせるだけでも手榴弾になりうる。

 ただし、条件がそろえばもっと良い使い方がある。


「今は量が少ないから攻撃にしかつかえないけど、これの原料はおそらくそこらへんにあるプラスチックだ。大量に用意すれば車を動かせるガソリンになるかもしれない」

「すごい! いっきに世紀末感が高くなったね!」


 まあ実際はオクタン価の問題があるけど。ハイオクをまぜたらいけるんじゃないだろうか、たぶんだけど。


 しばらく海岸で貝で遊ぶ子供のようにテンション高く言い合っていたけれど、最後のブツを見て二人で真顔になった。


「私、あれの正体しりたくないんだけど」

「逃げるな。未知は危険につながるからな」

「そんなのリクトだけ知っておいてよ」

「そうはいくか。俺がいない時にこれしかたべるものがなかったらどうする」

「言っちゃいけない事言った!」


 あえて避けていたのに、とうなだれるカノを無視してスマホでパシャリ。

 

 ゴブリン肉:スライムの保存食。人間も食用可能。


「良かったな。このゴブリン肉は食えるみたいだぞ」

「リクトが普段から食べて。浮いたカロリーメイトを私は食べるから」

「断る。俺だって好んで食いたいわけじゃ無い」


 スライムを見ると、もう透明になっていた。ゴブリンの消化が終わったみたいだ。身体の下には新たなスライム玉があった。


「ほら、新しい肉が二個できあがったぞ」

「そのカウントやめない?」


 見るのも嫌なのか、カノは背中を向けてしまった。

 しかたないので一人で新たに生まれたスライム玉とゴブリン肉を収納していく。

 素材は何に使うかは未定だけど、せっかくストレージがあるんだから遠慮無くいれさせてもらう。

 

「終わったぞ」


 素材に液胞の膜、試しに自分が身につけていたベストの品もスマホで移すと収納された。

 現実の品も収納できたので、移動はかなり楽になるだろう。

 ちなみに展開して外に出すのはスマホのリストを選ばなければならなかった。

 戦いの時には不利だからアプリのアプデやら端末の最適化だかに期待したい。


 ため息をついて振りかえると、カノは難しい顔をしてスマホをいじっていた。


「さっきからアプリストアで【KUSABIRA】ってアプリを探しているんだけど見つからない……」


 俺が作業している後ろで何かしていると思ったらアプリを探していたのか。

 【クサビラ】は俺しか使えない可能性があるか?

 いや、さっきアプリに魔石を入れた時『市場』へのアクセスが可能になったとあった。多数の利用を前提にしているとみなすべきだ。


「そういえば俺がアプリをインストールしたのはくさびら神社で受けたプッシュ通知からだったな。特定の場所じゃないと通知が来ないのかもしれない」

「あー、ファンタジーならありうるかも。【KUSABIRA】とくさびら神社、無関係とは思えないし」


 私も早くストレージ欲しい、とカノがため息をつく。


「ね、今から神社に行ってみない?」


 とんでもない事言い出すねこの子は。


「真夜中の神社に行きたいとか、怖い物知らずか」

「え? リクト怖いの? 怖がってるの?」


 カノが馬鹿にした顔をしながら下からのぞき込んでくる。

 こいつ、ストレージが欲しくて目が眩んでいるな。


「怖いに決まっているだろう。くらくて視界が確保されない所で魔物に襲われた場合を考えろ」


 ちょっと強めにいうと、カノも神妙な顔をしてうなずく。


「明日は仕事だけど、なるべく近いうちに神社にいこう。いつゴブリンより強い魔物が出てくるかわからない」

「え、いきなりオーガとか出てきたりしないよね?」

「可能性は低いがゼロじゃない。最悪の事態を考えて行動する」


 これからさらに強い魔物が出てきて社会が混乱する前に情報を集めて対策を立てる。手がかりがないならともかく、明らかに情報が手に入る地点があるのならためらわずいくべきだろう。


「とりあえず——」

「ックチッ!」


 カノから小さなくしゃみが聞こえてきた。


「カノ、今調べられる事は全部わかった。今夜はもう休もう」

「そうだね、さすがに指がかじかんで……クチッ!」


 新春の染み入るような空気が体温を奪っていく。

 ゴブリンがなぜ俺達のいる場所にきたのかは不明だけど、とにかく身体を休めるほかない。

 言ったそばからくしゃみをするカノを促し、俺達は家に入った。

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