第6話 スライムの変化

 帰宅後、ポーチでバックドアを開け、一度荷物をすべて下ろす。

 買ってきた品の包装を取り去って使用方法の確認をする必要があるからだ。

 それらを車に戻し、さらに家の中から貴重品を入れた防災バックパック、車中泊用品などをもってきて積み込んだ。

 オーバーサイズのトレンチコートの中にアウトドアベストを着込み、細々としたものを入れる。

「人目が気になる時だけ車の助手席に置く事にして、今後ベストは着続けることにしよう」

 事が起きてから着るのでは遅い。早めに慣れておいた方がいいという判断だ。

 カラビナをつけたケースに小型のフクロナガサを差して助手席の前のグローブボックスに入れる。

 残りの刃物類は助手席の下に隠した。

 事が起こる前の職質は避けたい。

 最後に後部シートの下にフクロナガサをつけて槍にするための百三十センチの杖二本と農業用フォークをしまった。

「あ、これはしておいた方がいいな」

 作業後に気づいて和室の縁側に置いていたスマホを手にとる。

 電子書籍ストアでまだ読んでいない防災・アウトドア・公共施設関連の書籍を探し、役に立ちそうなものを片っ端から買ってダウンロードした。

 空いた時間は知識を蓄える時間にあてよう。

 娯楽用のものも少し買い足したのはご愛嬌というやつだ。

「さて、これでいつでも逃げられる」

 全て終えた時には四時を回っていた。

「そういえばスライムがどうなっているか確認していなかったな」

 ミニバンのバックドアを閉めてから庭に向かう。

 ホムセンからの帰り道、スライムの排泄行為について考えていた。要するにウン○だ。

 体が灰色になっていたし、あれだけの物質を溶かしてそのままというのは考えにくい。

 排泄物として一番可能性が高いのは液体だろう。

 あれだけ水をたくさん吸える生物なのだから排出も同様にできるはず、その際に不要な物質を一緒に出すことは十分考えられる。

 そもそもなぜ溶かすのか、餌なのかという疑問は残るけど、それは今は保留にしておく。

「まさか酵母じゃないんだから自分がだした汚水で窒息、なんて間抜けなことになってはいないと思う……が⁉︎」

 庭の水槽を見て思わず目を見開いた。

 縮んで人の頭程度になったスライムが、いくつもある液胞の山の上に乗っていたのだ。

「卵……ではないか」

 水槽に顔を近づけて観察する。色のついた核の周りを透明な膜が包んでいるので核同士がふれあっていない。

 そのため、核の大きさが様々で、色も多様である事がわかった。

「とりあえず引き上げてみるか」

 水槽のフタを取り、立てかけて置いた魚をすくうタモ網をいれていく。

 タモ網でスライムの足、というのか、外側のゼリーに触れると、スライムは場所を空けるように水槽のすみに移動していった。

 そのまま網を差し込むとつるりとした感触の液胞が網に流れ込んで来た。

 庭の玉砂利の上に置いてみたけれど、動く様子はない。

 問題無さそうなので残りの液胞もつぎつぎと玉砂利の上にあげていった。

 「スライムの幼生、というわけでもないみたいだな」

 水槽の中のスライムを見ても、特に変わった様子はない。むしろ場所があいて嬉しそうにもみえる。

「卵でも幼生でもない、となると、やっぱり予想していた通り排泄物か。しかし排泄物にしても種類が豊富すぎやしないか?」

 ついスライムに話しかけるけど、当然スライムは答えない。

「とりあえずこの膜をやぶってみるか」

 ベストの中からマルチツールのビクトリノックスを取りだし、ナイフを引き出す。

 液胞の一つに布をかぶせ、その横からナイフで一突き。

 わらび餅みたいだな、と思った瞬間に膜が切れた。

 それと同時に透明な液体が布を濡らし、玉砂利の上に流れた。

 試しにナイフについた液体を雑草にかけてみる。

「布も、草も溶けない。スライムそのものでもないか」

 ナイフを目の前で軽く振って臭いをかいだ。臭いもない。

 指でかるくこすってもヌルヌルしない。多分酸やアルカリでもないだろう。

「膜と液体は今これ以上はわからないな。後は中の玉だけど、やたら重いな」

 切れ目から核を取りだそうと膜を持ち上げたが、重い。

 布を持ち直して上下に振ると、ようやく核がずしゃりという音を立て玉砂利の上に落ちた。

「まるで鉄アレイじゃないか……」

 言いかけてリクトはベストから慌ててスマホを取り出した。

 タップしたのはもちろん【KUSABIRA】だ。

「たしかまだ鑑定回数が残っていたはず……」

 予感に指を震わせ、スマホのカメラを核に向ける。

 結果は、予想通りだ。

「純粋な鉄……!」

 つまり、このスライムは溶かした物を純化して排出していると考えられる。

 改めて目の前の水槽に入っているスライムに目を向けた。

 あらゆるものを分解した後に純化して排出するなんて理想的なリサイクル機構じゃないか。

 他の玉も全部鑑定してみよう。

 けれど無情にも、アプリの画面には『残り鑑定回数:2』の文字があった。

「鑑定回数……魔石がないと満足に使えないか」

 ここまで未知の現象を見せつけられて悠長にはしていられない。こうなったら一刻も早く魔石を手に入れなきゃな……そうだ、魔物の襲来に備えるなんて消極的だ。こちらから探しに行けばいいじゃないか。

 なんで思いつかなかったのか。どこにいるんだ? 洞窟? いや、この辺りは平野だ。となると河原に潜んでいるとか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る