第80話

side 優斗ゆうと


梨衣子りいこと恋人同士になって早くも1ヶ月が過ぎた。

僕は陽希はるきさんの誘いを真剣に検討して秀優しゅうゆう高校を第一志望として受験勉強に取り組んでいる。

陽希さんの先輩さんの対策ノートは本当にわかりやすく単純に過去問題の列記なだけでなく効率的な学習方法も書かれているので大変助かってる。

そして、僕だけでなく急速に陽希さんと仲良くなっている梨衣子と朱音あかねさんも秀優高校を目指すことにして、放課後は僕ら3人で勉強することが多くなった。

それだけでなく陽希さんも時間が合えば顔を出してくれるようになって、僕らとの関係も新しい物へ進化している。

陽希さんは幼稚園時代のことをよく覚えていてそれらの思い出を惜しげもなく梨衣子達へ話すので、僕としては気恥ずかしくて困ってしまう。

もちろん芽衣子めいこちゃんも部活などの用事がないときは一緒に過ごすし、バレンタイン以前の日常に陽希さんが加わったような感じになっている・・・そう、梨衣子とは付き合い始めた日に瞬間的なキスをして以来恋人らしいことをしていない。

朱音さんや芽衣子ちゃんが広めてくれているのもあって学校内でカップルとして知れ渡り始めているけど、本当に何もなくて朱音さんや芽衣子ちゃんには呆れられている。


幼馴染みとして過ごした時間が長すぎたせいか、手を繋ぐことすらも気恥ずかしくなってしまって何もできない状態が1ヶ月続いてしまっている。

梨衣子の気持ちも同じ様でお互い傷の舐め合いをしながら恋人の時間の先送りをしてしまって、このままではいけないと思い何とかしたいと朱音さん達に相談しても『じゃあ、あたしと練習してみる?』みたいにからかわれてしまって参考にならない・・・もちろん、自分の不甲斐なさが原因なので朱音さん達に思うところはないけど、相談できる人がいないのは不安にもなる。


でも、だからといって前へ踏み出さないとまたバレンタインの時みたいな事になりかねないとも思うので梨衣子とはちゃんと話をしている。


「ゆうくん、わたしだって恥ずかしい気持ちがあるから無理しないで、わたし達のペースでゆっくり前へ進もう。

 わたし達はわたし達なんだから、他のカップル達と比べて不安になってもしょうがないよ」


「そうは言っても・・・梨衣子に甲斐性を見せたい気持ちもあるし・・・」


「じゃあさ、夏休みにふたりでどこかへ出掛けよう?

 遊園地にプールに水族館。ふたりで行きたいところはたくさんあるんだから」


「わかった。受験勉強を疎かにはできないけど、できるだけ時間を作って出掛けよう」


「うん、嬉しい!

 でも、朱音ちゃんや芽衣子や陽希先輩とも出掛けたいね。

 特に陽希先輩とはまだお出掛けできてないから、どんな感じになるのか楽しみだな」


「そうだね。僕も陽希さんと出掛けたことがほとんどないからどんな感じになるのか楽しみだね」


「え?

 陽希先輩と出掛けたことあるの?」


「急に真顔になるのやめてよ。

 当然、梨衣子と付き合い始める前の話だし、フットサル練習場へ行ったくらいだよ」


「ふふっ、冗談だよっ。

 でも、ゆうくんのサッカーしているところを見られたのはうらやましいな。

 わたしとも行ってよ」


「もちろん梨衣子が望んでくれるなら喜んでいくよ。

 今は受験勉強に取り組んでて運動不足気味だしたまには良いかもね」


「私は温泉が良いです」


「「え?」」


「なに言ってるんですか。ここは通学路ですよ。私が後から学校を出たなら追い付いてもおかしくはないじゃないですか」


唐突に芽衣子ちゃんが声を掛けてきた。

でも、芽衣子ちゃんが言うように今は下校途中で通学路をふたりで話しながらゆっくり歩いている僕らに芽衣子ちゃんが追い付いたというのは自然な話だ。


「そうだね。たしかにおかしくなかったね」


「ですよ。あと、私ともふたりで出掛けてくれませんか?」


「それは芽衣子でもダメだよ!」


「いいじゃない、お姉ちゃん。

 優斗さんは私にとっても幼馴染みなんだし、ふたりで出掛けるくらいおかしくないよ」


「そうだけどダメ!」


「えー」


ここからは芽衣子ちゃんと3人で帰った。


あまり変化がないけど、居心地が良すぎる日常。

でも、これから少しずつ梨衣子との関係を進めていってずっと一緒にいられたらと思う。


【完】




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

◆後書き


以上にて【おさクラ】を完結とさせていただきました。

作品全体の後書きとして少し綴らせていただきます。


既にX(Twitter)などで書いていたことではありますが、本作はカクヨムコンへのエントリを目的にカクヨムコン9開催発表から構想を練り始め、昨年11月に本格的に執筆を行いつつ12月にカクヨムコンが始まって見切り発車気味に序盤を公開しつつその後のエピソードを執筆するという状況でした。

公開しはじめてから【防カメ】よりもPVが少なく『それなら執筆をやめてリソースを【防カメ】へ振り向けた方が良いのではないか?』という葛藤もありましたが、読んで応援してくださっている方達に失礼だと思い区切りまで書いた上での完結を目指し執筆を続け、カクヨムコンの規定10万文字を超えた形での完結とたどり着かせることができました。


それを前提にネタバラシをすると、けっこう先々まで青写真的な構想はありました。

『ラノベ』として考えた時に主人公は中学生より高校生の方が受け入れられやすいと考えつつもスタートを中学生にしたのは、先の展開まで見据えた皮算用です。

時代背景的なものも考慮し、【防カメ】の時間軸より数年前に設定しています。

それは高校生編大学生編的な展開も考えて、時間軸を設定したためです。

優斗達は2024年には大学生になっている設定で、多くの方に支持された際にはそういったところまで書けたらと思っていました・・・正直なところ、今は続きを書く気力がわかないですし、執筆のリソースは【防カメ】優先になってしまいます。本作を応援していただける方には申し訳ありませんが、ご了承お願いしたいです。


また、【防カメ】もお読みいただいていたら「秀優高校という名前は同じでは?」と思われたと思いますし、「この陽希の先輩ってもしかして【防カメ】のあの人では?」と思われたかもしれません。

そこはそのつもりがありますし、なんなら芽衣子は【防カメ】の主人公達と同じ学年ですので、優斗達が秀優高校へ進学し、それを追いかけた芽衣子も秀優高校へ進学していたら【防カメ】の主人公達と同じクラスになるかもしれないです。

その辺りはあくまで独立した作品として、【防カメ】しか読んでいない方にも自然な加わり方をさせられたら面白いかなと思いますが、逆に作品を超えた制約も出てしまうので現時点ではどうするかまで考えていません。

【防カメ】の話をすると、ちょうど三学期の最中でもう少し話が進むと学年が変わるので・・・その辺りはコメントで賛否どちらでもご意見をいただけたら幸いです。


本編は完結とさせていただきましたが、これより2話公開いたします。

その後はお約束できませんが、思い付いたら後日談を書きたいと思っておりますのでよろしければフォローをしたままお待ちいただければと思います。


最後に本作に最後までお付き合いいただけました読者様には感謝しております。ありがとうございました。

また、まだ完結していない【防カメ】は少しずつでも完結まで書いていきたいと思っておりますし、余力ができたら別の作品も書いてみたいと思っておりますので、そちらでも応援をいただけましたら幸いです。

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