第79話
side
ゆうくんと恋人同士になれた・・・でも、あまりにも急な状況の変化に感情が追い付いていなくて、嬉しいと思うよりもまず落ち着きたいという気持ちが一番に来ている。
そして、
わたしはゆうくんしか見ていなかったし、噂話にもあまり接していなかったのもあって、陽希先輩が在校中は接点がないどころか興味もなかったから
昨日今日の話した印象だと今までのイメージとはけっこう離れていてクールなだけではなく一定のお茶目さも持っていて仲良くやっていけそうに思っている・・・もちろん、ゆうくんのことは譲る気はないけど。
「梨衣子、さっきから何も話してくれないけど怒ってる?」
もちろん怒ってなんかいない。
ただただ恋人という関係になったことが恥ずかしくて何を言えば良いのかわからなくなってしまっているだけだ。
そして、今はゆうくんとふたりで帰宅している・・・
「・・・ううん。怒ってないよ」
「じゃあなんで何も話してくれないの?」
「恋人同士になったということが恥ずかしくて、何を言えば良いのかわからなくなっちゃったの・・・」
「急だったよね・・・ごめん」
「ううん、謝らないで。むしろ、わたしこそごめんね。
せっかくゆうくんが気持ちを伝えてくれたのにグズグズしちゃって・・・」
「そんなことないよ。むしろ、僕が今までモタモタしていたから梨衣子が酷い目に遭ったし・・・僕の方こそ待たせてごめん」
「それこそ・・・ううん、ゆうくん、ありがとう」
ゆうくんが自分を責めるのをやめて欲しくて言葉を重ねようと思ったけど、そんなことより感謝の言葉がなによりも大事だと思い直して『ありがとう』とだけ伝えた。
「僕の方こそありがとう。
とにかく、梨衣子の事が何よりも大事だと思っているし、そのために頑張るから見ていて欲しい」
「うん」
そこからは、ゴールデンウィークが始まってから今まであまり話せなかった期間の分を取り戻すかのようにあれこれ話しながら歩き、家のすぐ側まで着いたら名残惜しくて近くの小さな公園へ行き話を続けた。
「ねぇ、この公園でわたし達が出会ったんだよね」
「そうらしいよね。母さんと梨衣子のお母さんが公園デビューで仲良くなったって言ってたよね」
「そうなんだよね。
だからね、お母さんにはすごく感謝しているんだ。
『ゆうくんと出会ってくれてありがとう』って」
「それを言ったら僕もだね。梨衣子と出会ってくれて・・・本当に奇跡だよね」
「うん。だから、この奇跡は大事にするんだ」
「そうだね。僕も一生大事にし続けるよ」
それからわたし達はお互いを見つめて、どちらからともなく顔を近付けて・・・口づけをした。
恥ずかしくて触れた瞬間にすぐに顔を引いて離れてしまったけど、わたしにはお似合いのファーストキスだと思う。
気持ちを落ち着けてゆうくんの顔を見ると真っ赤になっていて、でもたぶんそれはわたしもだと思うからからかうこともしないで、今度は抱き着いた。
「梨衣子、本当に一生かけて大事にするね。好きだよ」
抱き合った姿勢のまま耳元で囁やく様に掛けてくれた言葉が嬉しくて『いま世界一の幸せ者なのはわたしだ』と思うくらい。
「優斗さん、お姉ちゃん。公共の場所でイチャつくのはやめない?」
急に掛けられた声は芽衣子のもので、ゆうくんとわたしは慌てて離れて芽衣子の方を見た。
「芽衣子・・・どこから見てた?」
「本当に触れたのかどうか判別ができないくらい早く離れたキスからかな?」
それから、誤魔化すようにゆうくんと別れて家に帰った・・・今日は寝るまでずっと芽衣子と顔を合わせるたびに冷やかされ続けたけど、それは甘んじて受けるしかなかった。
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