第76話

side 陽希はるき


たゆが私たちの目の前で梨衣子りいこさんに告白をして、梨衣子さんもそれを応諾した。

そうなるとは察していたことで驚くことは何もないけど、私の気持ちとしては残念としか言いようがない。

せっかく恋愛感情を持てたのに、その相手には恋人ができてしまったのだから・・・でも、告白が成功して嬉しそうなたゆの表情を見ていると悪くないと思える。

でも、このまま引き下がったのでは私が可哀想だ。


「ねぇ、私が言いたいことを言ってもいいかしら?」


「あっ、すみません。陽希さん、どうぞ」


浮かれ気味のたゆが自分の用が済んだとばかりに私にバトンを譲る。


「言いたかったのは『私はたゆを諦めない』ってことだったのだけど、状況が変わってしまったわね・・・たゆ、梨衣子さん、今は『おめでとう』と言わせてもらうわ。でも、私はまだ諦めないから。

 だからね、梨衣子さん。たゆに見捨てられないように精いっぱい努力なさい」


「はいっ。ありがとうございます!

 絶対にゆうくんに見捨てられないように頑張ります!」


嫌味を含んで言ったのに、いい笑顔で言い返してくる梨衣子さんに毒気を抜かれてしまう。

たしかに恋人ができたからとすぐにたゆを諦める気にはならないけど、思っていた以上に強力なライバルのようだ。


「あと、曽根井そねいさんと芽衣子めいこさんに聞いておきたいのだけど、あなた達は良いの?」


「はい、元々優斗ゆうとくんのとなりにはりーちゃんが居るのが当たり前でしたし、むしろバレンタインからがおかしかったんです。

 とは言え、りーちゃんが立場に甘えて優斗くんをないがしろにするのならその時にはあたしがその立場を奪います」


「そうですね。私も朱音あかねさんに同じです。

 優斗さんとの関係はお姉ちゃんが一番近くて、その関係への憧れもあったので・・・悔しい気持ちもありますけど、今は素直に祝福します。

 でも、お姉ちゃんが優斗さんを大事にしないなら、その時は私も黙っていません」


「ふたりともありがとう。ふたりの気持ちはわかったわ。

 それに、中学生の恋愛はすぐに壊れるとも言うし待っていれば良いのよね」


「そうですよ!」

「そうですね!」


私と曽根井さんと芽衣子さんのやり取りを不安げな表情で見ている梨衣子さんと、なんとも困ったと言った雰囲気で見ているたゆを横目に楽しい気分になっていた。

初恋の状況としては悪くなっているはずなのに、清々しく思えるのだから不思議なものだ。

そして、今思い付いたことがあるのでお願いしてみることにした。


「梨衣子さん、芽衣子さん、さん。私と友達になってくれないかしら?」

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