第72話

side 朱音あかね


修学旅行の最終日、優斗ゆうとくんからの告白の返答をもらう前にりーちゃんへの罪悪感から逃げるように優斗くんへ事情を話して去ってしまっていた。

恐らくりーちゃんが選ばれるだろうと思って覚悟を決めていたけれど、当のりーちゃんも、そしてめーちゃんもそれぞれ告白を取り下げさせて優斗くんからの答えを聞いていないということだった。

優斗くんからのLINEメッセージもあたしを気遣う内容だけで告白の返答をどうしたということについては一切触れていないのは当然のことと思うけど、りーちゃん達も取り下げた以上は有耶無耶になってしまっていると思う。

それから優斗くんには気遣ってくれたことへのお礼を返信して、それ以上のメッセージのやりとりはなかった。

りーちゃんとめーちゃんにはお礼の他に告白の返答を有耶無耶にしてしまうような暴走をしたことについて謝る内容も書いて返信をしたのだけど、りーちゃんとめーちゃんも今日の状況で優斗くんに選ばれても気持ちがスッキリしないから自身にとっても良かったという言葉をもらい少しホッとした。



修学旅行の翌日も平日で、修学旅行も平日だったので振替休日はなく普通に授業が行われるために早速日常に戻った。

いつもの様に登校し、教室へ入ると仲の良いクラスメイト達に囲まれた。


「あのさ、昨日部活の後輩から連絡をもらったんだけど、松下まつした君が卒業した岩崎いわさき先輩とふたりで学校の側を楽しげに歩いていたんだって」


「そうそう、わたしは恋人同士にも見えるくらい仲睦まじい雰囲気だったって聞いたよ」


昨日あたしが先に帰ったあと、優斗くんはりーちゃん達とも別れて岩崎先輩とふたりで帰ったのだろうと思うけれど、恋人同士に見えたというのは心臓に悪い。

実際りーちゃん達もあたしに続いて告白を取り下げたのだから優斗くんが誰からも告白されていないのと同じ状況になっていたし、そのフリーの状態の優斗くんが岩崎先輩からちゃんと告白されて付き合った可能性も考えられなくはない・・・なぜか今聞かされるまではその可能性について想像もしなかったけど、実際に岩崎先輩は好きだと伝えていたのだしそうなってもおかしくはないと思う。

りーちゃんやめーちゃんと付き合うのなら仕方がないと思って割り切ったつもりだったけど、それ以外の人が優斗くんと付き合うというのは感情が納得しそうになくて、急に不安な気持ちになった。


クラスの友達たちから語られる優斗くんと岩崎先輩のことで感情が揺すぶられ続けていたら、当の優斗くんが登校してきた。


「松下!お前、岩崎先輩と付き合ってんの?」


優斗くんの姿を見掛けるなり声を掛けたのは普段は優斗くんと接点がない仙道せんどう君で、普段から見られるような素行の悪さからにじみ出る無遠慮かつ配慮の無さに反比例するかのように声が大きかった。


「男女交際という意味でなら付き合ってはいないよ。ただ、親しくさせてもらってはいるね」


「ほんとにか?

 俺んちは岩崎先輩の家とも近いんだけど、昨日いったん家に帰ってから買い物へ出掛けた時に岩崎先輩の家のすぐ近くで松下と岩崎先輩のふたりだけで恋人同士みたいに仲良さげにしていたのを見たぞ」


「そうだね。昨日は帰りに出会ったので家まで送らせてもらったんだよ」


「わざわざ修学旅行から戻ったその日にどこへ行ってたんだよ?」


「それは僕だけのことじゃないから言えないけど、岩崎先輩と会ったのは僕としても想定外だったんだよね」


「ちょっと割って入ってゴメンなんだけど、松下君さ、昨日はまっすぐ家に帰らないで学校に来てた?

 学校のすぐ近くで岩崎先輩と松下君のふたりが歩いていたところを見たって後輩が言ってたんだ」


気が付いたらさっきまであたしの隣りにいた吉乃よしのちゃんがいつのまにか優斗くんの側へ移動してて優斗くんへ質問していた。


「うん、用事があって来てたよ」


「それとさ、東京駅からはあかねちゃんと初芝はつしばさんと一緒に帰ってたよね?」


吉乃ちゃんは修学旅行で同じ班だったのもあって、東京駅からはあたしは優斗くんと一緒に帰ると伝えていたし、りーちゃんと合流した時も別に隠れて行動していたわけではなかったから見られていたのかもしれない。


「そうだね。朱音さんと梨衣子りいこと一緒に途中まで帰った・・・というか学校までは一緒だったよ。

 朱音さん達とは学校で別れて、逆に学校でお会いした岩崎先輩を家まで送ったという流れだね」


「どうして、わざわざ学校へ来たの?」


「それは言えないんだけど、僕らにとって大事な用事があったからだね」


その後も吉乃ちゃんや他にも興味を持ってた人達に囲まれて質問を受けていたけど、すぐに始業のチャイムが鳴って豊田とよた先生が入ってこられたので有耶無耶になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る