第70話
side
「私たちだけになってしまったわね」
まず
「そうですね。
こういうことで僕は告白されたことがなかったことになりました」
「複雑そうな表情をしているけど、付き合いたかった?」
言われるまで意識が向いてなかったけれど複雑そうな表情をしているようで、実際に内心では色々な感情が右往左往している。
「付き合いたかったかと言われればそれはイエスになりますけど、気持ちが整理できていない状態で付き合っても良くなかったと思いますから今日の時点での結果としては良かったと思います」
「じゃあ、私と付き合ってみる?」
「冗談は・・・って、そういうわけではなさそうですね。
でも、申し訳ないのですけど僕はそんなにすぐ気持ちを切り替えられるほど器用な性格ではないので・・・」
「そうよね。たゆはそういう真面目さが魅力のひとつなんだもの。私が無理やり捻じ曲げても良くないわよね」
「ご理解してもらえてありがたいです」
「今日のところは引き下がるけど、私だって
たしかに陽希さんとは再会してからもブランクを感じさせないほど気が合ったし頼もしいお姉さんという感じはあるけれど、恋愛対象として思われるには会っている時間もやり取りの回数も少ないように思うので戸惑ってしまう。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なにかしら?」
「僕と陽希さんは確かに気が合うと思いますけど、卒業式の日に再会してから実際に顔を合わせた回数は数えるほどだし、LINEや電話だって春休みにちょっと頻度多めにやり取りしていただけで、学校が始まってからは新しい生活が忙しくてそれほど多くのやり取りをしていなかったと思うのですけど、どうしてそこまで思ってくれているのですか?」
「正直よくわからないわ。
でも、話していて落ち着くし、こうやって会っているとドキドキするから私はたゆに恋をしていると思うの。
幼稚園の時の思い出も影響しているのかもしれないけど、それにしたって論理的に説明はできないわね。
だからこそ、たゆに好きと伝えるかをギリギリまで迷っていたの・・・私だって客観的には唐突すぎると思っていたから。
でもね、たゆが初芝さん達へ告白の返事をする・・・その先で恋人同士になってしまうと思ったら居ても立ってもいられなくてここまで来てしまったの・・・実際ギリギリまで迷ってて、駅で待っててたゆ達がここまで来るのを尾行してきてあそこに隠れてて、いよいよというところになってやっぱり我慢できないと思って飛び出してしまったの」
「どうりで・・・タイミング良く割り込んできたと思ったらずっと見ていらっしゃったんですね」
「そうよ。それくらい滅茶苦茶なことをしてしまうほどにたゆのことが好きだと気付かされたの」
「それは光栄です」
「わかってくれたなら嬉しいわ。だからね・・・私のこともちゃんと考えて欲しぃ」
最後の方は声が小さくて良く聞き取れなかったけど、陽希さんが僕のことを好きでいてくれる気持ちはすごく伝わったので時間や回数を理由に軽く考えるのはダメだと思った。
「わかりました。陽希さんのことも梨衣子たちと同様にちゃんと考えます」
「うん、よろしくね。
それともう一つだけ良い?」
「なんでしょうか?」
「さっき初芝さんが言ってた塾で同じ女の子って、なに?」
勢い任せで突撃してきた割にはちゃんと聞いていたようで・・・
「たぶんですけど、小学校1年と2年の時に同じクラスだった女子で塾で再会したんですよ。
当時は同じクラスだというだけでほとんど交流もなかったのですけど、お互い塾で他に知り合いがいなかったので薄い縁でも知っている人の方が話しやすいと一緒にいた事が多くて、僕と彼女がたまたま一緒にいたところを梨衣子が見ただけだと思います」
「たゆは幼馴染みの女の子が多いのね」
「たしかに梨衣子に朱音さんに芽衣子ちゃんに陽希さんで幼馴染みの女子は多いですけど、彼女・・・
「ほんとにぃ?」
「本当です!」
「わかったわ、たゆを信じる。それにしても、ふふっ・・・ふふふ」
陽希さんがからかうような笑みを浮かべて聞いてきたので、陽希さんの顔を見つめて断言したら笑い出した。
「本当に信じてくれてます?」
「ええ、本当よ。それにさっきも言ったけど、たゆが誰と付き合っていようがアプローチするって決めたんだから、その伊藤さんと付き合ってても関係ないわよね」
「付き合っている相手がいる時にはアプローチを控えて欲しいのですが・・・」
「たしかに非常識よね」
「そうですよ・・・まったく」
「でも、初芝さん達は誰と付き合っていてもアプローチするって言っていたから、彼女たちと付き合っている時にはアプローチしても彼女たちから文句を言われる筋合いはないわよね」
「なんですか、その屁理屈は・・・」
「大丈夫2割は冗談だから」
「8割は本気ってことじゃないですか・・・ぜんぜん大丈夫じゃないですよ」
それから冗談の応酬や修学旅行の土産話をしながら陽希さんを家まで送って帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます