第67話

side 朱音あかね


優斗ゆうとくんがあたし達への告白の返事をしようというタイミングで岩崎先輩が割って入ってきて先に自分の話をさせて欲しいと言ってきて、優斗くんが受け入れあたし達もそれに逆らえるような流れではなかったので、岩崎先輩へ先を譲ってあたし達はその話を見守ることになった。


「改めて、順番を先に譲ってくれてありがとう、初芝はつしばさんと妹さんと曽根井そねいさん。

 それでね、たゆに話したいことなんだけどね・・・」


そこまで言って一旦言葉を切ると岩崎先輩は深呼吸まではいかないものの深めに呼吸を整えて優斗くんを見つめ直してた。


「たゆ・・・松下まつした優斗君。私はあなたのことが好きです。

 卒業式の日にお母さんが気付いてくれなかったら擦れ違ったままだったけど、運良く再会してから短い時間だけれどその間だけでも優斗君と幼稚園の時の思い出を振り返ったり優斗君の人柄に触れたりして生まれて初めて恋愛対象として好きになりました。

 自分の気持ちに気が付いたのがつい先日だったの・・・たゆが恋人を作る前に気持ちだけでも伝えさせてもらいたくて・・・」


気が付いたら岩崎先輩は涙を流しはじめてて、声も嗚咽混じりになっていて正直なところ何を言っているのか聞き取れない。

だけれど、その想いは痛いほど伝わってくる・・・あたしだって同じ気持ちを抱えているのだから当然なのだけれど、岩崎先輩は全てが急だったから自分でも感情のコントロールができなくなってしまっているように感じる。

恐らく岩崎先輩が口にした通り、自分の気持ちに気付いたのが直前だったのだと思う。推測になるけど、優斗くんは岩崎先輩にあたし達の事を相談していていよいよ返事をすると連絡をもらった時に気付いたのではないかと思う。

もしかすると、しばらく近くであたし達を見ていていざ返事をするというギリギリのタイミングになってやっと勇気を振り絞ってあたし達・・・というか、優斗くんの前に出てこれたのではないかと思う。

優斗くんを想っていた期間はあたしの方がずっと長いのは間違いないけど、想いの深さでは岩崎先輩に勝っていると言い難いくらいの雰囲気を感じる。


そして、岩崎先輩は優斗くんが前へ進んでしまう前にけじめを付けたかっただけで、あたし達の邪魔をしたかったわけではないように感じる。

改めてあたしの中で引っ掛かっている大井おおい先輩へバレンタインチョコを渡すように勧めたことが疼き始めた・・・



気が付けば岩崎先輩の告白は終わっていて、ようやく落ち着いたのか岩崎先輩の表情は清々しいものになっていた。

在学中に何度か姿を見たことはあって、いつも澄ました表情でクールなイメージを持っていたけど今の岩崎先輩は恋に熱心な少女という感じで親しみを覚えた。


岩崎先輩の次はあたしの番だ。


「優斗くん、りーちゃんめーちゃん、次あたしから言いたいことがあるんだけど良いかな?」


「僕はいいけど・・・」


「わたしもいいよ」


「私もです」


あたしの申し出に優斗くんにりーちゃんとめーちゃんも応諾してくれたので、このままの勢いで言ってしまおうと思う。


「あのさ、りーちゃんが大井先輩へバレンタインのチョコを渡したのってあたしが勧めたんだ。りーちゃんは大井先輩の悪い噂も知らなくて『ただ優斗くんの気を引きたいから』って気持ちが先走ってやってしまっただけでずっと優斗くん一筋だったんだ。そのことはわかってあげて欲しい。

 それと、あたしは一旦告白を撤回するね・・・親友を陥れて自分の恋が成就したって後ろめたいだけで幸せになれる気がしないから・・・ただ、あたしの気持ちがちゃんと整理できたらその時はまたちゃんと告白したいと思う・・・その時はとなりにりーちゃんが居ようがめーちゃんが居ようが岩崎先輩が居ようが構わずに突撃するから覚悟していてね!」


最後の方は感情が昂ぶって上手く言えた気がしないけど、勢い任せで乗り切る!


「じゃあ、そういう事であたしは優斗くんからの告白の返事を聞いて良い立場じゃなくなったから先に帰るね!」


引き止められる前に駆け足で自分の荷物を手に取って裏庭から立ち去った・・・あたしの勢いが勝っていたようで優斗くんもりーちゃん達も声を掛けてくれたけど追ってはこなかった。



家に着いて自分の部屋へ籠もると枕に伏せて声が溢れないように泣いた・・・泣いた・・・泣いた・・・



いつの間にか眠ってしまっていて外は暗くなっていた。寝たら気持ちが落ち着いたのでリビングへ行くとお母さんが声を掛けてくれた。


「あら、起きた?

 修学旅行で疲れて寝ちゃってたのね。

 ご飯は食べられる?」


「うん、疲れちゃって・・・お夕飯は食べるね」


「朱音?

 目が赤いけど泣いていたの?」


「うん、ちょっと悲しいことがあったから泣いてたけど、泣いたらスッキリしたからもう大丈夫」


「あらそう?

 なら良いけど、お母さんができることがあるなら言ってちょうだいね」


「うん、ありがとう」



それからお母さんが用意してくれたご飯を食べてからお風呂に入って部屋へ戻った。


スマホを見るとLINEの着信がたくさん入っていて、優斗くんにりーちゃんとめーちゃんが色々と心配をしてくれていたことが察せられて嬉しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る