第60話
side
「じゃあ、りーちゃんも来たし、あたしは先に行くね」
「朱音さん、ちょっと待って」
「え?優斗くん、まだ何かあった?」
「うん、先に予告だけさせてもらいたいんだけど、修学旅行が終わったら春休みに朱音さん達に言ってもらったことの返答をさせてもらいたいと思っている。
もちろん、待たせすぎてしまって申し訳ないと思っているのだけど、結論を決めたのが修学旅行の直前だったら終わるまでは保留にしようと思って・・・」
「そっか、それでそれはあたし達一緒に?
それとも・・・」
「できたら朱音さんと梨衣子と、あと
「わかった。あたしはそれでいいよ。りーちゃんは?」
「えっと・・・急で戸惑っちゃう・・・けど、わたしも大丈夫」
「じゃあ、あとはめーちゃん次第だね。でも、めーちゃんなら一緒で良いって言ってくれると思うし、これからLINEのメッセージ送って確認しておくね」
「朱音さん、それは僕がするべきだと・・・」
「いいのいいの。待たされる側の気持ちも考えてよ。それに今の優斗くんはりーちゃんと思い出を作るのが最優先でしょ。
これからぼっちでゆっくり京都へ戻るあたしがりーちゃんへの連絡役に適任なんだよ」
「それじゃあ、朱音さんの好意に甘えて連絡をお願いするね」
「任せておいて。めーちゃんのことだから恐らく今日中には返事をくれると思うし、夜の委員会の集まりの時には返答をもらえてるんじゃないかなって思う。
ってことで、それじゃあ、また。
うちの班のメンバーとはホテルの最寄り駅で待ち合わせができてるみたいだし、りーちゃんの班のメンバーにも連絡しておくから遅れないで戻ってきてね。
楽しんできてね、おふたりさん」
そう言って朱音さんは先に行ってしまい、僕と梨衣子のふたりだけになった。
「それじゃ、僕らも行こうか。どこか行きたいところはある?」
「特にないかな。強いて言えばお寺なんかよりもシカと遊びたいかも」
「たしかに、僕らにはまだお寺は難しいよね。じゃあ、シカがいるところを調べて行こうか」
そうして梨衣子とふたりでシカのいる公園へ行き、せっかくだからと鹿せんべいを買って食べさせた。
シカと戯れている梨衣子を見ていると懐かしい気持ちになって、何故なのかと思い返していたら幼稚園の時代に僕と梨衣子の家族で小動物と触れ合える動物園へ行った時のことを思い出した。
あの時も梨衣子は動物に触れたがって、芽衣子ちゃんは飽きて帰りたがっていたのに『次の機会が何時になるかわからないから』と芽衣子ちゃんや大人たちみんなにお願いしてけっこう長い時間触れ合っていたんだった。
その時の楽しそうにうさぎやリスに触れていた梨衣子が僕が思い出せる一番古い梨衣子の記憶で、恐らくそれより以前のものは僕自身の記憶ではなく写真やホームビデオなどの記録とうちの両親や梨衣子のご両親からの伝聞になるだろう。
そして、その最古の記憶になる笑顔こそが僕が梨衣子を好きになった原点のように思うし、僕にとっては神聖なものになる。だからこそ、梨衣子のバレンタインからの振る舞いを僕は受け付けられなかったのだと実感した。
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