第58話

side 朱音あかね


あたしたち3年生の修学旅行が始まった。

学校の最寄り駅に集合で基本的にクラスごとや班ごとの行動がここから始まり、クラスが違うりーちゃんとは一緒に行動しづらい状況になっている。

それでも、東京駅までの移動は通勤時間帯なこともあって班でまとまるのも大変だからと多くの班が・・・あたしたちの班とりーちゃんたちの班も・・・バラバラに移動し東京駅の集合場所までは各自で行くことにしたので、東京駅までは優斗くんと3人で移動し修学旅行の気分を盛り上げた。

更にその移動中に優斗くんにりーちゃんと京都か奈良でふたりきりになる時間を作るようにお願いし、それを了承してくれたのでほっとした。優斗くんは最初『班行動から逸脱するのは難しいのではないか?』と難色を示したけど、あたしが協力すると言ったらそれなら大丈夫だろうと受けてくれたので、りーちゃんへの義理を果たせることと優斗くんからあたしへの信頼感が嬉しく思えた。


東京駅からの新幹線ではうちのクラスとりーちゃんのクラスで同じ車両だったので自分の達の班やクラスと交流を行いつつ合間ではりーちゃんとも一緒に景色を見たりしてわいわいできたし、優斗くんもあたしに付き添ってりーちゃんとも一緒の時間を作ってくれたので良かったと思う。


初日は京都に着いてからクラスごとに観光バスに乗って学年全体で京都駅から近い名所を巡ってからホテルへ入った。

修学旅行というものは小学校の時しか実体験がないけど、恐らくうちの中学の修学旅行は公立校として標準的な内容だと思う。

全員で広い宴会場へ集まって一斉に食事をし、それが終わったら順番で大浴場へ入り、全クラスの入浴が終わってしばらくしてから消灯時間になるといったスケジュール。

そんな中で全クラスの入浴が終わった時間から学級委員で集まって初日の状況を共有する委員会の時間があり、お風呂上がりの優斗くんの色気に思わずクラクラした・・・学級委員になって良かったと心の奥底から思った。

委員会自体はすぐに終わったけど、優斗くんを引き止めふたりでホテルのロビーへ行き今日の感想を語り合った。

今日はクラス単位で全学年同じだったので同じものを見ていたのだけど、それでも思ったことは違っていて、あたしは三十三間堂の観音像がたくさん並んでいる光景に怖さを感じたけど、優斗くんはカッコよく感じたと言っていたといった具合に同じものでも違う印象を持ったものが多かったみたいで、それが男女の性差なら良いけど性格からくる違いで優斗くんとあたしの相性が悪いのではないかと思うと不安な気持ちにもなる。


消灯時間になって、マンガにあるような男子が部屋へやってくるようなこともなく、まくら投げをすることもなく、布団に入って話をする事になったのだけど、女子が集まっての話題となったら恋バナと言うことで、噂されているあたしと優斗くんのことを聞かれて、これまで何度となく繰り返し説明してきた幼馴染みであることとあたしが一方的に好きで告白をして、その返答を待っていることを話すと、流石に同じ事を繰り返し聞き続けて悪かったと思ってくれたのか部屋のみんなは謝ってくれた・・・でも、不可抗力とは言え変な空気にさせてしまって申し訳なかったと思い『この修学旅行で返答を出してもらえる様に頑張る』と宣言すると応援してくれて、あたしにとっては余計に居心地の悪い雰囲気になってしまった。

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