第42話

side 梨衣子りいこ


今日は朝から部屋に籠もって勉強していたので、おやつの時間を過ぎたくらいに気分転換をしたくなって散歩へ出掛けてた。

日が落ちてきてそろそろ家へ帰ろうかと思っていたら、ゆうくんがお店など用事があって行くような施設が何もない方から歩いてきたのを見て声を掛けた。


「ゆうくん!今帰り?」


特に大きな声ではなかったと思うけど、ギクッという擬音が聞こえてきそうなくらい大きな反応をされて少しびっくりした。


「り、梨衣子・・・」


「ゆうくん、どうしたの?」


「いや、なんでもない。それより、梨衣子はどうしてここに?」


「うんとね、今日は特に用事がなかったから家で勉強してたんだけど、ずっと勉強してたら気持ちが煮詰まっちゃって気分転換に散歩してたとこだったの」


「そうか。それで気分転換はできたのか?」


「うん、できたよ。

 それはそれとして、ゆうくんはどうしてここにいたの?

 向こうは特にお店とかなかったよね?」


「ああ、今日は出掛けてて一緒だった人を送ってたんだ」


いくらそれほど遠くない場所だとしても、わざわざ送るということは女の子のような気がする・・・ゆうくんと親しいとしたらわたしか朱音ちゃんか芽衣子めいこくらいだし、それ以外の人だとするとどういった関係の相手なのか気になってしまう。

思い当たるのは先日塾から帰る時に途中まで一緒だった女の子だけど、この場所だとおそらく方向が違うので、あの女の子以外にもゆうくんと関係がある女の子ができているということかもしれない。


「そうなんだ。それってわたしも知ってる人?」


「そうだね。名前だけは知ってると思う」


「誰?」


思わず詰め寄ってしまい、ゆうくんは一歩引いてしまった。


「どうした?

 僕が誰かと何かをしても梨衣子には関係ないだろ?」


「そんな寂しいこと言わないでよ。わたしとゆうくんの仲じゃない」


「『寂しい』か・・・それを言ったら梨衣子は大井おおい先輩とデートした時に僕には言わなかったろ?

 僕はあとで知って寂しかったよ」


「それは・・・そうだよね・・・」


痛いところを突かれたので言葉に詰まってしまった。

そもそも大井先輩とデートしたのだって自分がチョコを渡したことが始まりだったからの義理で、一度はしないといけないという義務感からしたこと。その1回を終えたら合わないからと早々に付き合いを断るつもりだったのでゆうくんに言う必要はないと思っていたけど、そんなわたしの内心なんかはゆうくんには関係ないし、わたしが大井先輩とデートをしたというのは事実でそれと言動が矛盾してしまう。



わたしは言葉が詰まったままでゆうくんは何も言わずに歩いて、自宅のすぐ側のうちとゆうくんの家の分かれ道に着いた。


「じゃあ、またね。梨衣子」


ゆうくんは別れの挨拶を告げると自分の家の方へ歩いていった。


すぐ側なのに・・・すぐ側だから?


家との距離がある今日一緒だった人は家まで送っていったのに・・・わたし、ゆうくんから距離を置かれてる?

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