第36話

side 優斗ゆうと


幼稚園の時に仲良くしていた『はるき』君だった岩崎いわさき先輩と卒業式の日に不思議な再会をしてから、これまでの長い空白の期間を取り戻すかのようにメッセージを送り合ったり、通話したりしていた。

正直なところそのメッセージの内容や言葉遣いが岩崎先輩のイメージとも『はるき』君とも掛け離れていて違和感が生じることもあるけれど、幼稚園の時の二人しか知らないはずの思い出の話が噛み合うし間違いなく『はるき』君で懐かしい気持ちで心が満たされている。

『はるき』君のことを僕が幼稚園の時からずっと男子だと思っていたのは申し訳なかったけど、陽希はるきさん・・・こう呼んで欲しいとお願いされたので、そう呼ばせてもらっている・・・は幼い日のことだし名前も性別も確認しないで遊んでいたからしょうがないと言ってくれている。

幼稚園の当時は活発で他の男子・・・もしかすると他にも男子と思っているだけで本当は女子だった人がいるかもしれないけど・・・と比べても行動的で、言葉遣いも男子特有の粗野さがあり、髪だって僕よりも短かった・・・そして、陽希さんと再会したことを話した母さんから聞いたところ、母さんも陽希さんのことを男子だと思っていたらしい。それこそ陽希さんのお母さんとも何度か話をしていたのに、僕と同じ様に『はるき』君と呼んでいても特に何も言われてなかったそうで、母親同士で話をする時も『たゆ』君ママと『はるき』君ママと呼び合っていて、母さんは岩崎の名字も知らなかったのだそうだし、母さんも松下まつしたとは名乗っていなかったので多分知らなかったのだろうと思われるそうだ。

僕らは学年が違うからクラスも担任の先生も違っていたからクラス単位での保護者の付き合いはなかったし、せいぜい幼稚園へ送迎した際や運動会などのイベントで会えば挨拶とちょっとした雑談をする程度の間柄でしかなかったと言うから仕方がないのかもしれない。

それにしても岩崎先輩が相手と思うと意外だったけど陽希さんとはウマが合い他愛のない話をしていても楽しくて、通話していると1時間くらいはあっという間に経ってて名残惜しみながら通話を終えることが続いている。

しかし、これだけウマが合うのに陽希さんも僕と2年も同じ学校に通っていて気付きもしなかったのだからもったいなかったと悔やむ気持ちもある。


そして、卒業式に約束していた直接会ってどこかへ遊びへ行こうという話になった。


「陽希さんはどこか行きたいところはありますか?」


『どこでも良いのだけど、受験で身体が鈍ってしまっているから身体を動かせるところが良いかな?』


「じゃあ、ボーリングとかですか?」


『それも良いかもしれないけど、どうせならがサッカーをしているところが見たいわね』


「と言われましても、チームで行う球技ですし、部活もなくなっちゃってお見せする機会もないですよ」


『別に本格的な試合でなくてもサッカーボールを扱う姿なら良いわ』


「うーん、それなら個人向けのフットサル練習場とかですかね?」


『個人向けのフットサル練習場?』


「はい、普通フットサルの練習場はチームで集まって場所を借りるのですけど、少人数とか個人で練習したい人向けにコートの部分貸しみたいにやっているところがあるんです」


『そうなの?

 別に1人なら公園にでも行けば良いんじゃないのかしら?』


「公園は球技禁止の所も多いですし、はっきり禁止されていなくても色んな人がいる場所なのでボールを使うのは他の人にぶつけてしまうかもしれなくて危ないですし、ダメだと思っていた方がいいのですよ」


『たしかに他の人に迷惑になっちゃうわね』


「はい。なので最初からサッカーボールを使うことを前提とした場所のニーズでフットサル練習場があるんですよ」


『じゃあ、そのフットサル練習場でのプレイを見せてよ』


「わかりました、そういうことでしたら・・・」

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