第34話

side 朱音あかね


卒業式が終わり、校門の近くでは卒業される先輩方やその保護者の方々と見送りに来ている在校生が入り乱れていた。

あたしも部活や委員会でお世話になった先輩、それに最近妙な縁ができた伊藤いとう先輩にお別れの挨拶をして回ってきて、一旦校舎へ戻ろうかと思っていたら同じく先輩方への挨拶が終わって校舎へ戻るところらしい優斗ゆうと君を見掛けた。せっかくなので途中まで一緒に戻るべく声を掛けようかと思ったら、卒業生の保護者と思われる方に呼びかけられて挨拶をしていた。

呼びかけられていた『たゆ』君という呼称は幼稚園の頃に親しい人が使っていた呼称だと聞いたことはあったけれど、その頃は保育園通いで別だったというりーちゃんもめーちゃんも使っていなかったらしく実際に呼ばれているのを見たのは初めてだった。

呼びかけた方は岩崎いわさき先輩のお母様だったらしく、その隣りにいた岩崎先輩が優斗君と話をされていた・・・その表情はクールな印象の岩崎先輩とは思えないほど微笑んでいて驚かされたし、優斗君も楽しげで妬いてしまう。


「どうしたの、朱音ちゃん?

 何見てるの?」


立ったまま一点を・・・優斗君達の様子を・・・見ているあたしに気付いたりーちゃんが近付いてきて疑問を投げかけてきた。


「あれ・・・」


何と言えば良いのか言葉が浮かばず優斗君たちを指差して最低限の言葉を発することしかできなかった。


「あれ?

 ・・・って、ゆうくんと岩崎先輩!?

 すごく親しげだし何なの!?」


やっぱりりーちゃんでも驚く光景だった様で、パニックになったようだ。パニックになってる人がいると冷静になる理論じゃないけど、あたしは少し気持ちが落ち着いて余裕ができたので周囲を見渡すと、岩崎先輩の表情に気付いた人が他にもいてその様子を見て驚いているので、あたし達だけでなく他の人達からしても珍しい光景だったようだ。

優斗君と岩崎先輩はその場でスマホを出して連絡先の交換をしている様子なので本当に今まで接点がなかったのだと思うけど、卒業式の日の光景としては不思議に思う・・・もちろん、卒業をきっかけに告白をして付き合うことになったからと連絡先を交換することはあるだろうけど、お母様には名前を呼ばれていたし保護者同伴で告白はないだろう。


「ねぇ、朱音ちゃん・・・ゆうくんと岩崎先輩、楽しそうだよね・・・」


りーちゃんから見てもあたしと同じ感想の様で、あたしだけがおかしいわけでは内容でその点はほっとした。


「うん、あたしもそう見える」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る