第32話

side 梨衣子りいこ


わたしが大井おおい先輩に襲われてからは急にこれまでの日常が戻ってきて日々が過ぎていき3年生の卒業式が目前になっていて、わたし達も2年生がもうすぐ終わるという時期になっていた。

大井先輩は身勝手かつ悪質な犯罪であったので更生施設に入ったそうで、警察の方がお母さんに知らせてくれたということだった。

わたしとしてはもう二度と会いたくもなければ考えたくもない相手なので法律的なこととかは極力お父さんとお母さんに任せていて詳しいことは何も知らないし、知りたくもない。

ゆうくんは前と変わらず優しく、特に怪我が痛くて動くのが辛かった時は気遣って登下校も毎日のように同伴してくれて、学校へ行っていなかった期間や通院で休んでしまっている時の授業の穴埋めも面倒を見てくれてと、部活ができなくなって空いた時間をわたしのために使うようになってくれて中学に上がってから一番ゆうくんと一緒にいる時間が長くなっていて嬉しく思う。


ただ大事な話をしたいとお願いをしても『僕はその言葉を受け止める心の準備ができていないから待って欲しい』と言うだけで機会を作ってくれず、既に3回断られたまま半月以上が過ぎてしまっている。


心の準備とは何なのか気になる。わたしの気持ちに気付いていて恋人同士になることへの準備なら嬉しいけど、ゆうくんの表情からはそんなポジティブな感情を見出みいだせないし、そうなると何を言われると思っているのかわからないし、わたしは告白して良いのかどうかも悩んでしまう。


また、学校の雰囲気も良くない。サッカー部が活動停止になった他、大井先輩の友達の何人かが停学や謹慎になり、また同じ時期に20人以上の女子が数日休んでいてそれぞれが今回の騒動の結果なのではないかと疑いの目で見られているのもあって空気を悪くしている。中には本当に病気や用事で休んでしまっただけの人もいると思うけど、お構い無しで全員が大井先輩たちと関係があると見られてしまって居心地が悪そうに見えるし、わたしもその1人・・・むしろ一番強く見られているかもしれない。

警察での取り調べもあって大井先輩がわたしと性交したと言うのは狂言だったと証言していて、それを伝えられた学校でもちゃんと認められ、わたしの希望で学校から嘘だと公表してもらったから多くの人からは信じてもらえているけど、それでもその発表を信じないという人もいて嫌になる。

それに時期が時期なだけに大井先輩以外にも高校受験の合格が取り消しになって進学できなかったり、定員割れの二次試験を行った高校へ進路が変わってしまった先輩もいるらしいし、また来年受験になるわたし達の学年は推薦の枠が減らされそうと騒いでいる人達もいる。

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