第12話

side 芽衣子めいこ


今日は朝から大変だった。

お姉ちゃんが大井おおい先輩と付き合い始めたらしいと言う話題が学校中に広まっていて、当事者の妹である私のところへも話を聞きたがる人達が次々に押し寄せてきた。

確かにサッカー部の全国大会進出の立役者であり、その上見た目がカッコよくて勉強も学年でトップクラスらしい大井先輩と、同じく成績優秀で美人だと評判の岩崎いわさき先輩のカップルに割って入った闖入者の話に真実を知りたいと思う欲求はわからないことはないけど、巻き込まれる側としては堪ったものではない。

手前味噌ながらお姉ちゃんも見た目や学力では岩崎先輩と並んでもおかしくないくらいの容姿や実力を有しているし、だからこそそれが真実味を増させて学校中の興味を喚起してしまっているのだと思う。


誰から何を聞かれても『何も知りません』の一点張りで通したので、最初は喰い下がってきていた人も程なくして諦めて立ち去ってくれたし、昼休みには落ち着きを取り戻していた。


「めいちゃん、今日は大変だったね」


「ほんと午前中は休み時間に何人も話を聞きに来てたもんね」


「たしかに、疲れたよ。みんなにも迷惑をかけてごめんね」


「いいよ芽衣子ちゃんが悪いわけじゃなかったんだし、ちょっと人混みが邪魔だったくらいだから。

 むしろ芽衣子ちゃんの方が大変だったでしょ?」


クラスの仲の良いグループで囲んでお昼ごはんを食べながら談笑してやっと落ち着いたと感じることができた。

午前中に私を訪ねてきた人達のせいで迷惑をかけたと思うけど、グループのみんなは恨み言の一つも口にせず、むしろ私を気遣ってくれてありがたいし、そういう気遣ってくれる友人たちを持てていることを嬉しく思う。


「そう言えば、めいちゃんのお姉さんの件で聞いたんだけど、大井先輩と岩崎先輩は付き合ってなかったらしいから別にめいちゃんのお姉さんが付き合っても問題ないよね?

 そうなら大井先輩と付き合えるなんて羨ましいと思うよ」


私は朱音あかねさんから聞いて知っていたけど、大井先輩と岩崎先輩が付き合っていなかったと言う話もうちのクラスにも届いてきている様なので、そうであるなら恐らく全校に知れ渡っているだろうし、少なくともカップルに割って入った悪女という話は沈静化していくと思う。


午後にはお姉ちゃんの件で訪ねてくる人もいなくなったし、放課後には日常が取り戻されていた。



夕食の買い出しをしてから帰宅するとお姉ちゃんはリビングで寝ていたのでそのままにしておいて夕食ができてから起こし、二人で食べながら話を聞くと学校での一連の騒動について釈明のような話と、私が掛けられた迷惑についての謝罪をしてくれた。

もちろん、悪いのは噂話を元にわざわざ聞きに来る人達なのでお姉ちゃんには気にしないで欲しいと伝えたけど、それでも気になってしまうようで表情は暗いままだった。

そして、明日はどこかへ出掛ける用事ができたということで、でも雰囲気が内容については触れて欲しくなさそうだったので触れることはせず、頭の中で大井先輩に関係することなのかなと想像するに留めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る