第130話 援軍到着で大混戦
「寿四郎~っ!!
俺が信長と斎藤、改め
間違いない、
「おお寿四郎、無事で何よりッ! して義輝将軍様は!?」
「何とか逃げさせた。奴に包囲されていた所を助けるのが精一杯で追いかけられなかったが。すまない」
俺の言葉を聞くと氏政は一瞬だけ安堵した表情を浮かべ、それから俺の視線の先をキッと睨みつける。先ほどまで死闘を繰り広げていた彼らは、援軍の到着に次の行動を思案しているのか動きを止め、睨み合った状態だ。
「アレを相手に義輝さまを討ち取られずに済んだなら充分な働きじゃ、寿四郎」
「このオレ相手にアレ呼ばわりとは。無礼な物言いをすると思えば貴様、かつての英傑の威光を笠に着る北条のボンクラか」
「黙れ! 姑息な策ばかり用いる尾張の大うつけが!
普段のノホホンとした氏政の雰囲気からは考えられないような怒気を孕んだ声で反論し、信長に槍の切っ先を向ける。俺にとっては舐めプ極まってジャイアントキリングされた白塗りお歯黒の麻呂、ってイメージでしかないけど、そういえば今川義元は氏政にとっては母親の弟で親戚に当たるんだった。家族を一番に考える氏政にとっては親族の仇で許せない相手なわけだよな。
「ふ、桶狭間で俺が殺した公家かぶれか。確かに血が繋がってるだけあって、貴様も余だの麻呂だの雅だの
「貴様の方こそ闇討ちのような下策が上手くいったのもここまでよ! 我ら北条7千の兵相手に小勢で逃げられると思うな!!」
氏政が振り返ると、続々と詰め掛けた北条の兵が一斉に槍や弓を信長に構える。信長は戦場において神出鬼没で桶狭間をはじめ、百騎余りの供廻り衆だけで敵大将を討ち取った実績が何度もあるらしいが、さすがに敵陣の奥深くで7千の兵に追われる形になれば逃げ切れはしないだろう。
「信長! 貴様と尾張はもう、終わりじゃ。者ども掛かれぇっ!!」
懐かしの名台詞をキメて突撃を指示する氏政に呼応する北条軍。これで決まったか!?
と思った瞬間、信長はまさかの行動に出た!
自分に向けて放たれた矢の雨を無様に地面を転がりまわって躱し、北条軍への対応に戸惑う自分の
自分が生き延びるためなら領地も誇りも、自分のために命を張った部下さえも簡単に捨て去れる事は確かに強さではあるのかもしれないが、とてもじゃないが真似できる事とは思えない。やっぱ色んな意味で規格外なんだな、信長って。
「追え! 追えぇ~っ!!」
氏政の言葉に北条兵が急ぎで馬を進めようとするが、その足元に矢の雨が降り注ぎ、進もうとする足を止めさせた。兵たちがさらなる攻撃に警戒し、隊列を整えて武器を構えなおした先には騎馬の集団。
「な~んとか間に合ったのぉ、ま~ったく上様ったら無茶が過ぎるんじゃから。ワシが気付かんかったらハリネズミにされとるトコじゃったわい」
聞き覚えのある耳障りな
馬に乗るその姿は微塵も威厳は感じられないが、鎧だけは小谷城で見た時よりも上等そうな物を着込んでいる。そういやコイツも小谷城の跡地を貰ってそこに長浜城を築城し、今は城主まで成り上がってたんだっけ。
「寿四郎、このネズミのような小男は信長の小姓か何かか?偉そうに馬に乗って大将鎧なんぞ着ておるが?」
「コイツは信長の懐刀でとんでもない策士だ。見かけに騙されるな。実際俺は、コイツの策で小谷城で殺されかけた」
「ほほう、ソレは聞き捨てならんの……義弟に加えた分の危害はきっちり返さねばなるまい」
言うが早いか、即座に周囲を見回して家臣たちに下知を告げる氏政。その姿に何故か父の氏康の姿を思い出す。
「
「良いか皆の者! 敵は目の前の隊のみにあらず、関ヶ原の敵陣中に逃げた織田信長と心得よ! いち早く桃配山正面の
「この戦こそ後北条4代目氏政、最大の戦いとなるだろう。天に聞こえし関東の覇者・北条家の誇り、しかと見せつけてやれ! 者どもかかれぇ!!」
おおお、どうしちゃったの氏政? お前そんなにテキパキと戦局を見て指示を飛ばしたり出来るタイプだと思わなかったわ。普段は『ほほほ、良きに計らえ♪』とか言ってるタイプなのにやるときはやる子なのね?
「氏政、俺はどうすれば!?」
「ネズミ退治と魔王退治はワシらに任せ、寿四郎は南へ向かうがいい。そなたらの軍も我らに続いて下山しておるところよ。風魔衆の言とワシの読みが正しければ、そなたが対峙するべき敵はそこに在る筈じゃ」
そう言って敵陣の中へと馬を進めていく氏政は最後に「死ぬなよ」と言い残していく。いやさ、このタイミングでそんなこと言われたらどっちかが死ぬフラグみてぇじゃねえかよ……もちろん生き残りたいけど。
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