第126話 デストロイヤー信長と知将?明智光秀
俺たちの元へ驚きのニュースがもたらされたのは岐阜城包囲を始めてまだ半月も経たない、9月に入ってすぐの事だった。
「まさか……何という事を」
「それで弟は、
京の都に送られていた北条家の忍びによると、都の中心部・足利
さらに織田軍はその暴挙に抗議して多くの公家を匿おうとした比叡山延暦寺も目下焼き討ち中だとか。たしかに歴史でなんとなく習って知っていた行動とはいえ、デストロイヤーすぎんだろ信長。
それら信長の一連の行動により、多くの幕臣も公家も混乱の中で討ち取られるか行方知れずとなり、義昭将軍も
「一説には将軍様が岐阜攻めの報を聞き、京を落ち延びてこちらへ向かっているとの情報もあります」
「ならば私は即刻、西へ向かい弟を救出せねばならぬ!」
言うが早いか今すぐにでも立ち上がって馬に飛び乗りそうな義輝将軍を皆でなだめて落ち着かせる。さすがにこの織田軍の一大拠点・岐阜城を放置したまま西へ向かえば、近畿方面から織田の大群が押し寄せてきた場合挟み撃ちに遭う危険性が高い。
弟の危機を案じる兄としての気持ちはわかるが、流石にそのリスクを踏めないのは仕方ないだろう。
「それは私も分かっている! だが弟が今この瞬間にも命の危険に晒されていると思えば、何を犠牲にしても向かわねば」
「上様、我が陣に岐阜城代・
焦りに我を失う義輝の元にタイミング良く、伝令の兵が現れる。このタイミングで秘密裏に相談とか、良いニュースなのか悪いニュースなのか?
「いいだろう、通せ」
この場ではとりあえず
「盛大なお出迎えご苦労なこった。俺は元・美濃斎藤家臣の
斎藤家の使者を名乗るその男がざんばら髪で額に鉢金を付け、胴鎧の上に羽織を着こんでオーバーに両手を上げながらずかずかとこちらへ近づいてくる。その感じは『和平交渉の使者』というより『ちょっと敵大将の面でも拝みに行くか』と殴り込みをかけてきたようにしか見えない。
そんな様子に何かを感じ取ったのか、弟と軍監も「なぁ、アレって……」「左様……ですな」とヒソヒソと話しているのがわかる。
「コホン、それで明智殿の使者とやら、用件を聞こうか?」
「そっちの
威厳を示す義輝にも物怖じせず、暗に人払いを要求してくる利三。それに対して義輝はしばらく思案するようなそぶりを見せたが、側近の朝倉と氏政・俺・景信だけを残して他の者には下がるように命じる。
「話のわかる大将で助かるぜ。きょくちょ……いや
うん?と思う言い間違いはあったが利三の声で陣幕の外から薄汚れた足軽用の甲冑を身にまとった、貧相な男が現れる。あなた今さっき、ある程度以下の階級は人払いとか言ってた気がしたんだが。その人、どう見ても足軽よね?
「義輝さま、義景さま、お久しゅうござりまする。明智十兵衛光秀めにござりまする」
自称・明智光秀を名乗るおっさんが兜を取って見事に禿げあがった頭を晒すと、義輝と朝倉の口元が緩むのがわかる。まーやっぱそういう反応になるよな。こんな貧相なおっさんが武将とかどう考えてもギャグ……
「久しいな十兵衛。義昭に付いて織田の家臣となったと聞いておったが、昔と何も変わらんな」
「いやしかし、一乗谷に居った頃に比べたら若干髪は減ったかの?」
えええっガチ本人様ご登場かよっ!!!?
服装(変装?)の所為もあるとはいえ、コレが【織田家随一の知将】と呼ばれる明智光秀だなんて面識ない奴は誰も気づかんだろ、フツーは。って地味顔でいつまで経っても大名と思ってもらえない俺が言うのも微妙だけど。いや、それも含めて知略に入る、のか?
「なにぶん気苦労が多い役回りゆえ。此度の岐阜城代の件もでござる」
朝倉の『髪減った?』発言を気にも留めずに受け流す光秀。場の雰囲気を和ませたところで早速、本題を切り出した。
「此度、京での信長さまの所業、この光秀どう受け止めるべきか迷っておりまする。そこで一旦この美濃攻め、秘密裏にそれがしの不戦敗ということで話を収めていただきたく」
「ほう。降伏・開城ではなく戦わずに城を明け渡すということか」
織田軍の一員として考えるなら当然のごとく許されない行為だろう。だったら俺たちに降伏していっそ、味方になってくれればと思うのだが、この男なりにまだ信長軍に所属しながら『やらなければいけない事』があるらしい。やっぱ本能寺の変狙いなんだろうか?
「義輝さまの本陣より総攻めの法螺貝が聞こえたのを合図に、我らは南門から尾張方面へと全軍退却いたしましょう。さすれば互いに被害は最小限で済ませられます」
「良いだろう。私は西へ急がねばならぬ身だ。ここで足止めを食う必要がなくなるのならこの話、乗るぞ」
一刻も早く西へと進みたい義輝は2つ返事で承諾する。まだまだ城攻めに時間がかかると思っていたのに、この結末にはちょっと拍子抜けだ。戦わなくて良いのならそれに越したことはないけど。
「それともう1つ。もし西に向かわれて信長さまの軍勢と義昭さまを巡って衝突するとなれば、規模の大きな戦となりましょう。この斎藤利三を戦にお連れいただければ」
面識はないハズなのにこちらに目線を送りながら、正面の義輝にそう告げる光秀。普通なら何考えてんだ罠かコイツ!? と思ってしまう所なのに、なぜかその笑みに親近感を覚えて信用して大丈夫だって気がしてくる。これももしや、現代でいう人心掌握術というか知略の1つ、なのか?
罠だとしたらまんまとハマってるのでは? という不安はありながらも作戦が実行されると、驚くほどスムーズに打ち合わせ通り、岐阜城は明け渡された。こうして俺たちは岐阜城を開城し、岐阜の西【関ヶ原】と呼ばれる地へと兵を進める事となる。
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次回、25年早いけど関ヶ原、始めます!
乞うご期待!!
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