第125話 武将ヲタの本領発揮

 北条氏政の率いる東軍本隊が苦戦を強いられていると報告を受けたのは、飛騨南部の桜洞さくらぼら城、美濃北部の郡上八幡ぐじょうはちまん城と立て続けに落城させて美濃・岐阜城へと南下している最中の事だ。


 

 9年前、信玄と共に攻略した段階だと現在の岐阜城・かつての呼び名で稲葉山城より南は、木曽川の度重なる氾濫によって尾張との間に広大な湿地帯が広がり、不毛の土地が広がっていた。


 だが信玄の時代には美濃側を、信長が攻め込んで自分の領地としてからは尾張側も木曽川の治水が進んだ今、尾張・小牧山城から岐阜城までは街道が整備されたため、尾張側からの援軍を警戒しながらの戦いを余儀なくされているらしい。


 

 その上、岐阜城を預かっているのは織田軍随一の知将で戦国でも早くから鉄砲を戦術に取り入れたことで知られる明智光秀あけちみつひで。そして岐阜城の西にある北方きたかた城には元美濃重臣・安藤守就あんどうもりなりとその婿である天才軍師・竹中半兵衛たけなかはんべえが詰めているのだ。


 地理的要因だけでも300メートル以上もある金華山の上に建てられた難攻不落の要塞・岐阜城を攻め落とすのは相当大変だっていうのに、籠っている将も援軍も厄介な相手となれば苦戦するのは無理もない。


 実際、使者からの情報によると、城の北側に回り込むも岐阜城から出てきた明智鉄砲隊によって別動隊壊滅、南に廻って尾張との寸断作戦を取るも信長の弟・織田信包率いる小牧山城からの軍と岐阜城から打って出た軍に挟まれ失敗と立て続けに撃退されていて、氏政たちはいたずらに被害を出しただけで岐阜城の東から動けないでいるという。



「この状況、どう見るべきだ?」

「うーん、普通に考えたら無理なんじゃないかなぁ」


 郡上八幡城から南下して岐阜城方面へ向かう道すがら景信おとうとと馬を並べて相談するも、俺の問いかけにあっさりとこう答えられる。いや俺もこの状況、どう考えてもキツいよなあとは思ってるけどさぁ……無理って言われたらどうしようもなくね?


「確かに……【普通に考えれば】無理でしょうな。ですが……」


 そこにヌッと現れるのは今回帯同した軍師・真田昌幸さなだまさゆきではなく、軍監こと赤井将監あかいしょうげん。俺たちとおそらく同じような時代からの転生者である彼は今、レンタル移籍という形で景信に帯同していたのだ。



『えぇ~お前もウイ氏やってんの!? ねぇ兄貴この男ウチに借りてもいい? ちょうどウイ氏の話できるヤツが居て欲しかったんだよ♪』


 という、何とも微妙な理由で。まあ未来知識スマホも無いし戦略知識も無い時点で、俺にはコイツをどう活かせば良いか分からなかったからいいんだけどね。

 


「この状況、殿たちは岐阜城の西・北方城を攻め、そのまま大垣城を落として西側の憂いを立つのが宜しいでしょう」

「お、やっぱそうなるよな軍監!」

「ちょ待って! 北方城って言ったらあの半兵衛が居るって話じゃないか。そんなトコ無策に突っ込んで大丈夫かよ!?」

 

 意気投合する二人へ即座にツッコミを入れる。竹中半兵衛という稀代の軍師を敵に回した時の恐ろしさは数年前にたっぷり思い知ってるからだ。それこそ状況的に死んでもおかしくなかったし。


 だからこそアイツと戦うのは最初から避けたかったというのに……何を好き好んでこちらから攻めるなんていうのか? たった今満場一致で無理って言ってたよな、2人とも!?


「大丈夫でございます、殿。われらの読みが正しければ半兵衛殿はここには居らぬはず」

「何を根拠にそんな……」

「まあ、行ってみれば分かる。このまま南下して関城を落としたら北方・大垣おおがき攻めだ! 長尾・旧武田自慢の騎馬軍団が火を噴くぜぇ!」

「おお!ウイ氏でしか実現しえなかったコラボ軍とか胸アツですな!」


 謎に盛り上がる二人を見ながら俺はどうしても不安を隠せなかったのだが……




 5日後、俺たちは北方城・大垣城という岐阜城から西側の主要拠点となる城2つを破竹の勢いで攻め落とし、その地に残る有力武将である西美濃三人衆の一人、稲葉一鉄いなばいってつとも不戦条約をまとめた上で岐阜城の北、長良川を挟んだ平野部に本陣を敷いていた。


「なー、だから言ったろ兄貴。史実知ってる奴ナメんなよ」

「ですぞですぞ。武将ヲタの本領発揮でござる」

 

 軍監たちの情報だと竹中半兵衛は今、持病を抱えながらも秀吉の長浜城に信長の安土城あづちじょうと、織田家が琵琶湖沿いに幾つも作ろうとしている有力武将たちの城の普請に奔走していて、とても駆け付けられる状況ではないらしい。嫁の実家が落城の危機でもブラック織田軍じゃ信長の命に背いたら首が飛ぶらしいからな。



 そんなわけで援軍を得られなかった安藤守就はロクな作戦もないまま城を守り切れず景信率いる長尾軍に敗北。西美濃三人衆の1人、氏家卜全は数年前に急死したばかりで家臣団が子の代ではまとまっておらず、最後にして最強の一人・稲葉一鉄は師と仰ぐ快川紹喜かいせんじょうきが甲斐の恵林寺で住職を務めているのを知り、前もって争いを避けるための手紙を書いてもらっていたのだという。


 

「これで北と西は援軍に阻まれる心配はなくなった。俺たちに続いて北条4万の兵が南と東に集中して包囲すれば援軍に悩まされる事もないだろう。あとは岐阜城がどれだけ籠城に耐えられるかだな」


 本陣のど真ん中に座り、偉そうに両肘をついて口元の前で手を組んで呟く景信と、その横で後ろ手に組みニヤリと笑う軍監。な~んかどっかで見たポーズだし微妙にイラっと来るけど、それだけのファインプレーをしたのだから文句は言えない。岐阜城包囲戦に関してはコイツらに主導権を渡してやろう。



 と思っていたのだが、いよいよ本番の岐阜城攻めは包囲を始めてわずか数日で驚きの決着を迎える事となった。


 

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