第108話 米子de軽いカルチャーショック
ついに中国・毛利編スタート!
今回も時代設定ガン無視でお届けします♪
(それもどうなのか……)
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西日本の日本海側最大規模の港である、
この時代では
「うっわぁ……」
「寿四郎! アレ何!? あのバカみたいに大きな砦みたいなの?」
「アレは恐らく、たたら場(製鉄場)でござるな。刀を生み出すための
山の上に立つ馬鹿デカい建物について、周囲の様子を見ながら俺の代わりにカンパチが説明する。たしかに規模を考えなければ甲斐の外れにも美濃の北にも、金銀を産出する鉱山から流れる川沿いに、砂鉄を集めて武器防具に使う鉄を作るための『鍜治場』みたいな施設はあった。だが……あんな規模の『工場』と言っても大袈裟ではない様な巨大施設なんて流石に見た事がない。しかも明治時代の建物みたいな赤レンガ造りだ。そりゃあビビるよ!
「ねえアレ! あの人の着ている服!! 見た事無いわ」
「あれはドレスという西洋の着物ですな。恐らくは南蛮より伝わったものでは無いかと」
光の質問に今度は軍監がドヤ顔でそう答える。この時代にも一部とはいえ南蛮渡来の物が伝わってきてるワケだから、そういうものが入り込んでいてもおかしくないのは分かる。分かるのだが……いかにも絹で仕立てたドレスにヒラヒラした帽子、そんな恰好の人物が馬車に乗り込んで、その足元がゴツゴツした石畳で舗装されているのを見ると何ていうか、急に西洋ファンタジーの世界に来たみたいな錯覚を受けてしまう。ルネッサーンス♪と叫んでみたくなるヤツだ!
もちろんこの湊に居る誰もがそんな恰好をしているわけでは無くて、俺達と同じ東日本方面から船を降りてきた人々は見慣れた格好をしているし、船からの荷物を下ろしたり荷駄に載せて運ぼうとしている
「お客さんがた、米子は初めてで?」
「あ、ああ。そうなんだが」
「そんなら驚かれるのも無理もないですわ。毛利の今のお殿様・
驚いている俺たちを見て親切にそう教えてくれた商人風のその男も、白いワイシャツに真っ赤なヒラヒラしたスカーフみたいなのを巻き、黒のスーツにシルクハットで歴史の教科書かお笑いコンビでしか見た事の無いような服装をしていた。アナタってもしかして樋口ルイ○○世とかそんな名前を名乗ってたりする?と言いたくなるような。
「ま、気に入ったら帰りに手土産にでも買っていってくださいな。珍妙な服装に見えますが着てみると意外と良いものですよ♪」
「は、はぁ……」
樋口ルイ7世(と勝手に脳内で付けた)は愛想の良い笑みを浮かべてそう言いながら、積み荷が満載の馬車に乗り込むと颯爽と走り去っていった。
先程見た光景に軽いカルチャーショックを引きずりながらも、湊から続く石畳の道を歩いて米子の町を散策する。通りは通行人に混ざって馬車が行き交い、多くの声が混ざって活気に溢れてはいたが、その表情はどことなく暗い。
町の規模としては多分、小田原と同じくらいなのにあまり物売りの声が聞こえないせいか。考えてみたら先程は南蛮渡来の服装をした人々が居たというのに、それらを売っている店などは見かけないのもどことなく変だ。
「ちょっとお尋ねしますが、南蛮渡来の洋服とかって何処で扱っていますか?」
「……すみません。そういった物は全て馬車で安芸に運ばれてしまいますので……」
空腹を満たすために入った店で食事を運んでくれた人に尋ねてみると一瞬だけ間が開いて、申し訳なさそうにそう答えられた。積み荷を運ぶ丁稚風の男たちや浪人風の輩が多い現代で言う『大衆食堂』といった感じのガヤガヤした騒がしい店だったが、俺がその質問をした一瞬だけ気まずい沈黙が流れたあたり、実は話題にするのが憚られるような事だったのだろう。
軍監の話では、かつては
つまりここは敗戦で占領された土地。貿易で得られた豊かな部分は全て毛利の土地に運び出され、この地には何も残されない。鉄などの金属を製錬したり、荷を運んだりそれを護衛したりといった者達にもちゃんと『必要な労働力』としての仕事は与えられているが、得られる賃金は恐らく尼子が支配していた時代と変わらないか、その水準以下。そういう事なのだろう。
「殿。これからどうされますかな?」
「そうだな。やはり安芸に行って毛利の当主と話すのが大目的ではあるんだけど……ここを治めている領主にも話を聞いてみたい」
こちらには何の干渉権も持っていない他国の大名が何か口を挟んだところで現状は何も変わりはないかもしれないが、それでもこの状況を放置しているのはやはり、看過できない。
「この辺り一帯、旧尼子領の出雲・伯耆を治めているのは毛利
「うむ、そうと決まればこうしては居れん! 今すぐに出立してこの窮状について一言物申してやりませんと気が済みませぬぞ!」
そう言って席を立ちあがり、今にも走り出しそうになる義憤に駆られがち野郎のカンパチ。ちょっと待て、苦言を呈するのは俺の役目だし、そもそもちゃんと飯食ってからの出発にしような。
飯屋の隅っこの方でそんな俺たちのやり取りをじっと見ている者がいた事に、その時の俺はまだ、気付いていなかった。
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