第109話 厨二病って時代を問わず一定数いるんだな

 米子から出雲・伯耆いずも・ほうきを現在統治している吉川元春きっかわもとはるの居る旧・尼子家の本拠地、月山富田がっさんとだ城まで約5里(20km)


 せっかくこの戦国時代でも『馬車』という便利なものが整備されているなら乗ってみたいと思ったのだが、アホみたいに運賃が高かったので馬で行く事にした。


 護衛であるカンパチが単騎先頭、真ん中に守るように光、俺とその後ろに軍監が乗る3騎編成だ。せっかくなので新婚旅行気分で光と二人乗りで行きたかったのだが、自分では馬に乗れないヤツが約1名居るので仕方ない。


 

「なあ、あんた達そんな人数で旅なんて大丈夫か?」

 

 米子の町中を出る前、薙刀を持った一人の男に声を掛けられる。


「こっから安芸あきのお殿様の居る郡山に向かうんだろ?それには結構な山道も越えていかにゃならねぇ。この辺にゃまだ尼子の再興を望む残党どもが、安芸方面に向かう金持ってそうな奴を狙って出てくるって話だけど」

 

「大丈夫だ、問題ない」


 せっかくの申し出だが目の前に手のひらを差し出して制する。少なくとも山賊や野伏せり程度の奴らならカンパチと俺だけでも応戦できるし、一応お姫様として守られるポジションにいるが、嫁の光もその辺の雑兵程度なら束になっても叶わない強者である。まあ、1人だけ戦えないヤツが居るが……その程度のハンデなら大したことは無いだろう。


 

 なおも話し掛けてこようとする男を無視して馬を進めていく。家々が立ち並ぶ辺りを過ぎたら勝手に付いてくるのを止めて帰るだろうと思っていたのだが、それでも男は諦めずに何食わぬ顔で付いてきた。


 それも向こうは徒歩なのにこっちの馬の速度に合わせてだから普通に考えたらジョギングくらいのスピードにも関わらず、だ。何を考えて付いてきているかは分からないが、身体能力的には只者ではなさそうだ。


 

 馬車が通れるように石畳で舗装された街道は穏やかな海沿いを抜け、内陸の山側へと続いている。幾つかの住居は見えるが人通りの少ない辺りに差し掛かった時、ワラワラとお約束の集団が現れて俺達を取り囲むのが分かった。


「ここ出雲は元々、我ら尼子の治める地。通りたければそれ相応の金を落としていくが良い」

「我らはただの旅の者。尼子の旧臣とも毛利とも関係ない者でござるが……」


 馬を止めて弁明しようとしたカンパチに問答無用と正面の数人が刀を抜く。


「ほざけ!! 貴様らが何処の誰かなど知った事ではないわ! 金を落とすか命を落とすか、返答は2つしかないのだ! 」

「ほう。どちらもお断りだ、と言ったら?」


 言うが早いか、5、6人の男たちが一斉に俺達めがけて襲い掛かって来る。


「カンパチ、無用な殺生はするんじゃないぞ」

「そんなモノは言われなくても承知しておりまする」


 斬りかかって来た3人をあっという間に昏倒させながらカンパチが答える。こちらも槍の石突き(刃の反対側)で2人を打ち払い、槍を構えなおした。



「くそっ、コイツ等やりおるわ!! 全員来い! 袋叩きにしてくれる!!」


 リーダー風の男が叫ぶと、近辺にある幾つかのボロ家からワラワラといかにも野伏せりといった感じの男たちが現れる。何人来ようがこの程度の相手だったら負けは無い、と思っていたのだが流石に数が多すぎる! 個人的には3vs15ぐらいまでなら何とかなると踏んでいたのだが、その倍以上が同時に襲い掛かってくるとなると、話はちょっと変わってくる。


「助太刀が必要かい?もっとも、こちらも銭は戴くが」

「ああ、さすがに旅人相手にこの人数でくるとは思ってなかったからな」


 俺達が取り囲まれたあたりで上手く姿を隠していた男からの声に、今度はイエスで応答する。すると物陰から転がり出てきた男はそのまま薙刀を振り回し、数人を薙ぎ倒して態勢を整えこう言い放った。


「それじゃいっちょ、挨拶代わりに俺様の力を見せてやるぜ」


 言うが早いか男は再び身体を翻し、振り回した薙刀の柄でまた数人をまとめて叩き伏せた。そのまま踊るように野伏せり達の間合いへと入り込み、バタバタと薙ぎ倒していく。


 ウチにも昔はこんな感じの十字槍の使い手が居たなぁ。裏切られたから嫌な思い出だけど。


 その間にカンパチも正面の敵に突っ込み、リーダー風の男の取り巻きを何人も叩き伏せていた。俺も負けじと近くの奴らと応戦し、あっという間に俺達に対する包囲網はボロボロになっていった。


「ひいいっ、敵わん! 散れ散れぇーー!!」


 リーダー風の男がそう叫んで逃げ出すと、他の者達もあっという間に蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。これなら助太刀を頼まなくても大丈夫だったかな、とも思うが万が一の備えだと捉えておこう。



「ありがとう。おかげで助かった」


 礼を言って財布の紐を緩めようとすると


「まあ待ちな。今の調子で何回襲われるか分からねえ。その度に銭を払ってたんじゃそっちだって面倒だろ?お代は旅が終わった時にまとめてで充分さ」


 と支払いを手で制して笑顔を返される。そんな契約を結ぶつもりは無かったんだが、そう言われてしまえば仕方ない。コイツ、槍の腕もだけど商売としてもなかなかやるな。と感心していたところで……


 

「俺の名前は浜中 鮫之介はまなか さめのすけ! この出雲の麒麟児・山中鹿之介やまなかしかのすけの生まれ変わりさ!」


 その後に威勢よく自己紹介をぶっカマされたのだが、突っ込みどころが多すぎてちょっとどうしたら良いか分からない。


 

 鹿之介のパクりだから鮫之介てwしかも鹿なのにキリンて。生まれ変わりとか言っちゃってるけど、その人そもそもまだ死んでないのではないでしょうか? さっき米子でその人の噂してるの聞いたよ??


「山中鹿之介といえば滅亡した尼子家再興の為にその人生を注いだ人物ですな。天下五剣の1つとされる三日月宗近みかづきむねちかに『三日月よ、我に七難八苦を与えたまえ。我はそれらを必ず乗り越え、尼子家の再興を成し遂げてみせる』と誓ったとか」


 軍監がおそらくウイ氏とかいうゲームで手に入れたであろう、にわか知識の情報で説明する。いやそんな厨二病みたいなエピソード、絶対後世で盛っただけのヤツでしょ?と俺は思ったのだが


「その逸話と、鹿之介様が亡くなったと聞いた時に俺はこの薙刀に誓ったんだ。有明月よ、俺にも七難八苦を与えてくれ。それを乗り越えて鹿之介のように、 俺はなるっ!! ってな」


 目に涙を浮かべながらそんな事を熱く語る鮫之介を目の前にして、厨二病って時代を問わず一定数いるんだなあと知った。


 ちなみにコイツが名付けて誓ったって言ってる薙刀はどう見ても安物だし、キメ台詞は完全に海賊王のヤツだけど、そこは気分的な問題なんだろう。まあ、雰囲気は大事よね。


 

「よくわからんがまあ、よろしくな、サメ」


 俺はこの厨二病の臨時護衛をサメと呼ぶことにしてとりあえず、雇ってみる事にした。


 しかしこの決定が、後でトラブルを生むことになるとはその時は思ってもみなかったんだ。


__________________

この先、月山富田城で待ち受ける者とは!?

次回、お楽しみに!

肩Have a good day!

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