第107話 旦那が実は未来人、って凄い事だと思うのですが

ここまでのあら寿司

 嫁に転生がバレました><

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「あなた達がさっきから言ってた須磨すま、須磨って、何処の女の事よ!?」


 腰に手を当て、仁王立ちで鬼のような形相で睨みつけるみつ。どうやら、俺と軍監ぐんかんがスマホスマホと取り合っていたのが須磨という女の事で揉めているのと勘違いしたらしい。


 

「いやぁ、須磨殿は拙者が嫁にしたいと思っておる女子の事で……」


 と軍監が適当な言い訳を考えてみるが


「ふぅん……その女の事を寄越せとか何処に隠したとか喚いてたわよね、寿四郎。それってどういう事なの!?」


 余計にややこしい事になってしまっている。


 

「ねぇ、寿四郎。私はこれでも武家の嫁だし、あなたが何人女を囲おうが余計な事は言わないつもりよ? でも……コソコソと隠れてまで言えない事をするとか、そういう態度を取られるのが悲しいの。私たちは心を許した夫婦じゃないの?」


 最後はちょっと泣きそうな声でそう訴えてくる光に何だかいたたまれなくなってきた。そうだ、どんなに荒唐無稽な話だったとしても彼女は俺の嫁。誠意をもってそれが真実なのだと説明すれば、きっと理解してくれるはず。俺は包み隠さず、俺も軍監も未来から転生してきた人間だという事を正直に説明することにした。



「ん~……ごめん。

 全っ然分っからないわ」


 いや、やっぱり理解してもらうのはこの時代の人間にはちょっと……というかかなり難しかったようだ。当たり前だよな、転生モノとかタイムスリップ創作とか全く無い時代だし。スマホはおろかポケベルも固定電話すらも無い時代だし。


「とりあえず分かったけど、取り合ってたのはそのすまほ?っていう未来の道具の事で、須磨って女が居るわけじゃ無いのね。それなら別にいいわ」



 ええっ大事なのソコ!? いやいやいや『旦那が実は未来人』とか、こちらとしては『浮気を隠してた』ってそんなレベルじゃないカミングアウトだったつもりだったんだけど。


 

「それと、もう1つ確認しときたいんだけど……寿四郎は元の世界に戻る方法がもし見つかったならその……帰っちゃうつもりなの?」


 おずおずと上目遣いで聞いてくる光が可愛らしすぎて、思わず軍監が居るのは無視してこの場で抱きしめたくなる。


 大丈夫っ! お前を置いて帰ったりなんかするもんか! ……ってかどうせ帰っても実家と縁が切れた天涯孤独30代独身社畜の身に戻るだけだし><それなら間違いなくこっちの世界の方がずっと良いよ、俺は。


 

「良かった♪それなら私は寿四郎が何処から来た何者だとしても全然構わないわ。それに、チラッと聞こえた話だと寿四郎はこの『戦国の世を終わらせる人物』って事に未来でなってるんでしょ?じゃあそれをちゃんと叶えないとね♪」

 

「ですぞですぞッ! 殿が覇業を成し遂げるまで、我らが殿の秘密は守りしながらお支えせねばっ!!」


 何処から湧いてきたんだか、船酔い気味でぐったりしてたハズのカンパチが意気揚々と飛び出してくる。


 船なら他家の間者とか入り込めないし内緒話に向いてるかと思ってたんだが、ここまで聞かれてしまったんじゃ密談には向かないって事だな。しかもよりにもよって秘密を守るどころか、一番うっかり口走りそうな奴に聞かれちゃってるし。


 これはちゃんと釘を刺しておかないと火種になるヤツだ。


 

「んー、拙者は殿と違って、そろそろ帰ってウイうじの続きがプレイしたいのですが……」


 そして自分は帰りたいかどうかを聞かれなかったけど表明したかったのか、帰りたいとボソッと呟く軍監。何だよそのウイ氏って!? とその内容を尋ねて、また俺の方が驚かされる。



「マジか……氏真うじざね、サッカーと国獲りを合わせたゲームシリーズの主人公とか……ある意味俺より凄い事になってるじゃねえか」

「ええ。殿のことは一般的には日本史の授業で習う程度の扱いですが、氏真様は【現代サッカーの礎を築いた人物】【蹴鞠けまりをサッカーという世界的競技に作り替えた奇才】として掛川かけがわ城跡に国際規模のサッカードームがありますからな!」


 なぜか自分の事のようにドヤ顔で話す軍監。ここで俺は1つの疑念が浮かんだ。


「あの、もしかして……氏真に海外の蹴鞠だって言ってサッカーのルール教えた奴って」

「ええ。私ですとも!!」



 何てことしてくれちゃってんだお前えぇぇぇぇぇ!!!



 そんな事したら日本国内だけじゃなくてサッカーの起源とか歴史そのものが変わっちゃってるじゃねえか!


 国際問題だよ! 他国の競技を何でも『実は我が国ウン千年の歴史の中から生まれたモノだ』とか言っちゃってる某国と同じじゃねえか!


 

「大丈夫です。ウイ氏の事は好きですが拙者は氏真殿よりも殿の方を主君として尊敬しておりますゆえ」


 

 別にお前の好感度の心配とかしてるわけじゃねえんだよぉぉぉ!!



 その後、このとんでもない歴史改編男を後ろ手に縛って海に突き落としてしまいたいと俺は散々申し出たが光とカンパチに全力で引き留められ、その間に船は毛利領・米子よなごの湊に到着したのだった。

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