第100話 躑躅ヶ崎大炎上
記念すべき連載100話目になります。
っても特別な展開は無いのですが><
いつもご覧いただきありがとうございます。
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朝霧ヶ原の合戦で
だが、勝頼の作戦参謀を務めていた従兄弟の
俺達は改めて作戦を練り直すべく、別働隊と合流し一旦駿河に戻って作戦会議を開く事にした。ちなみに鞠王丸・氏真は「蹴鞠の稽古の日じゃ、後は任せた」と言付けを残して
「駿河勢が1万5千に香坂・馬場・内藤・山県の4名臣とわが穴山を合わせれば2万5千から3万。籠城戦になるとしても兵の数は充分でしょう」
甲斐の味方勢力との連絡役の為、駿河三枚橋城に駐留してもらっている穴山信君が言う。遺言にあった4名臣を中心とする信玄時代からの重臣の多くはこちらの味方に付くと明言してくれているので、籠城戦の最中に敵の援軍に包囲網を突破されたりというトラブルは考えにくい。だがいざ戦となれば甲府の町が戦火に見舞われることになってしまう。俺としてはそれだけは避けたかった。
「何とか甲府の町を巻き込まずに済む方法は無いものか?」
「そうですのぅ……良き策を出せそうな者が1人、居るには居ますが」
「そのような者が居るなら話を聞いてみたい! 」
俺は乗り気でそう答えるが、信君は凄く難しい顔をしている。なんだろ、やっぱ軍師的キャラってクセ強な厄介者が多くて普通の武将はこういう対応なのか?
「そのぅ……呼ぶには呼びますが。後悔しないでくださいよ?」
信君がそこまで念を押す意味が分からないまま秘密裏にこの駿河まで来てもらう事をお願いしたが……その者と顔を合わすなり、俺はその意味を知る事になる。
「お初にお目にかかりまする。ワシは信濃上田国衆・
「す、駿河国主・はま寿四郎だ。よろしく(げほっげほっ)」
目の前に現れたのは浅黒い肌で無精髭の、年齢不詳な胡散臭い風貌の男。髪を後ろで結ってはいるがところどころアホ毛がびよーんと出ている。そして猪だか熊か分からない毛皮のベストを着ているのだが、それから臭っているのか、物凄くケモノ臭い。
脇に控える穴山信君をチラッと見ると鼻をつまみながら「ほら言わんこっちゃない」と言いたそうな顔でアイコンタクトを送る。なるほど、そういう事か。
「それで、どうにかして城下を巻き込まず躑躅ヶ崎に籠もる信虎殿と信豊殿を倒したいとの事でしたな?さすれば……」
そう言って立ち上がり、こちらに近付いてくる昌幸。それと共に濃密な獣の臭いもより強くなってくる。やめて! これ以上近付かないで!
「信虎殿は御屋形様に甲斐を追放されてからも幾人もお子を設けておりました。その者らを躑躅ヶ崎へ招き入れましょう」
「ん?敢えて敵に援軍を送るって事にならんか?」
「まあ形はそうなりますが、要は同士討ちを誘えばよいのです。そして城内が混乱したところで四方から攻め込み制圧する。名付けて四方八方の策! 」
昌幸は持論を力説しながら、俺の目の前で身振り手振りジェスチャーを交えて説明する。空気が動くたび、嫌な臭いがモワーンとしてキツいんだけど!? しかし、策としては確かに有効のような気がする。
「よし、ならばその作戦で行こう! 任せたぞ昌幸……げほっ下がれ」
「この真田昌幸、必ずや! 鮮やかに策を成功させ、勝利をもたらしてみせまする! 是非ご期待を! 」
下がれと言ったのに聞こえてくれなかったのか、また大袈裟なアピールを目の前でカマしてくる昌幸。この人、策士としての能力は高いのに疎まれる原因が大体わかったわ。
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ワシが息子に甲斐を追い出されてから30年。
ようやく息子が死んで、この躑躅ヶ崎に戻ってくることができた。ワシを呼び寄せた信玄の息子・勝頼は駿河侵攻の戦で命を落としたが、ワシの可愛がっていた
「お
「ああ、奴らはどうせ攻め込んでは来られまい。生温い理想など掲げるからよ」
『天下泰平』などという言葉を掲げている者が町を戦火に巻き込んだとしたらどうなるか。きっとそれまでに築いてきた信頼を無くし、力を貸す者など居なくなるだろう。それを知った上でこちらは敢えてこの躑躅ヶ崎に陣取り、城下に数百人も兵を配置して商人や町人の逃亡を禁じているのだ。いわばこの町全部が人質のようなもの。
そして奴らが攻め手を欠いている間に織田信長は美濃へと侵攻してくるだろう。甲斐を追放されてから諸国を渡り歩き、あらゆる将を見てきたが公家のような朝倉の現当主では信長・家康の苛烈な戦いぶりに勝つことはまず無理というもの。越前を蹂躙した4万の兵は燃え広がる炎のように美濃へと攻め寄せてくる。
織田信長にはすでに美濃一国をくれてやる代わりに我ら甲斐武田との同盟を組む約束は取り付けてある。織田信長は喉から手が出るほど欲しがった美濃の地を手に入れ、我らは織田・徳川の伝手で京の足利義昭の勢力傘下に加わり、甲斐武田を治める正当性を手に入れる。そうなれば信玄時代の重臣だの一門衆の婿だのといったものが攻め込んでくる正当性は失われる。
つまり、ワシらは城に籠って武田の当主に返り咲くという果実が熟れるのを待っておれば良いだけなのだ。
「しかし、お祖父上様の言われるようにそんな上手く運びますかの?」
「不安など1つもあるまい。それより信豊、そのお祖父上というのは止めよ。ワシが大殿、そなたが御屋形様じゃ」
「お、御屋形様?このワシが?」
御屋形様という呼称に照れながら喜びを隠せない信豊。そういう所は馬鹿で良いのだ。どうせお飾りでしかなく、大殿であるワシが全てを握るのじゃがな。
「申し上げます。武田
「何?そのような指示は下しておらぬはずじゃが……まあいい。通せ」
3人ともワシが駿河へ追放された頃に生まれた子達で、信玄とは違ってワシによく懐いておった。呼んではいないが援軍なら多いに越した方が良い。
「なっ、兄上もここに居らっしゃったのか!?」
「信龍に信友まで!? 何用で此処に?」
「甲斐の新しい当主を頼めるのはワシしか居らんと言われたからに決まっておる」
「「「 なななんじゃとっ!! 」」」
一斉に非難の目がワシに向けられる。そのような事を言った覚えは全く無いのじゃが。
「父上はワシこそと書状に書いておったぞ! そなたの読み間違いであろう?」
「そなたらこそ、そんな筈はあるまいて。年功序列というものを知っておるのか?」
「さすがに甲斐の当主となればそのような事で阿呆の兄上には任せられますまい。やはり拙者に……」
「御三方とも、もう既にこの信豊が御屋形様と決まって……」
「「「 黙れこの青二才がっ!! 」」」
そうしてその場で自分こそが当主に相応しいだの、他の三人は相応しくないだのと言った論争へと発展する。議論はどんどん白熱し、果ては只の頭の悪い罵り合いとなった。聞いているうちに苛々してくる。
「あぁーもううるさい!! どいつもこいつも! 貴様らのような低脳に当主の座など任せられるか! ワシが生きてる限りは当主の座はワシのモンじゃ!! 」
思わずそう怒鳴りつけると一瞬空気は静まり返り次の瞬間、ここに居る4人全員から非難の眼差しが向けられた。
「お祖父上、ワシを御屋形様にしてくれるんじゃないのです?」
「父上はそうやって自分が死ぬまでワシたちを手駒とする気か?」
「我慢ならん!! もはやこの場で全員の首を撥ね、生き残ればワシが甲斐の国主じゃ!者ども、やれェ! 」
「ならばこちらも! この者らを殺れ!! 」
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「うむ、思いの外の大炎上ですな」
「そうだな……」
甲府の町へ至る街道から外れたところにある小高い丘の上で、俺達は躑躅ヶ崎の城から盛大に火の手が上がるのを眺めていた。
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