第101話 制圧、そして。
いよいよ第三幕最終話です。
そういえば今回、普通に戦ってばっかで
寿司が何処にも登場してなかったような……
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「では、そろそろ参りますかな」
「ああ、そうだな」
甲府の町へ入ってからはとにかく、町中での戦闘にならないようにと祈っていたが、配置されていたハズの兵達は城から火の手が上がったのを見て慌てて城の方へと向かったようだ。その混乱に乗じて俺達は大した抵抗もなく、すんなり城の周辺まで攻め込む事ができた。
「貴様ら! 何処の軍勢だ!? 信龍様の援軍か?さもなくば……」
「……さもないな」
慌てて槍を向けながら近づいてきた武田兵に答えを返して突きを放つ。
突撃した躑躅ヶ崎館城内は想定していた以上にカオスな状況だった。兵に紛れて城内に先行させていた多羅尾衆からの情報だと信虎・信豊・信実・信龍・信友がそれぞれの手勢に分かれて、自分たち以外の者を討ち取らんと乱戦を繰り広げているらしい。5者入り乱れてのバトルロワイヤル状態に4方向から俺達が入ってきたわけだからもう、完全に収集つかないだろう。
……コレ、最早ほぼほぼ攻め込む必要なかったんじゃね?
ウチの隊も他3方の隊も状況を察してか積極的に戦いには加わらず、じわじわを包囲を固めるように武田兵を本殿方向へと追い込んでいく。そしていざ本殿に突入した時には、信虎ほか2名がそれぞれ数十名の伴廻り衆だけを連れ、ところどころ煙の上がる中で奮戦しているような状況だった。
武田信虎。信玄の父親だがあまりの暴君ぶりに回を追放されたと聞いている。対面してみると確かにと思えるような爺のクセに威圧感たっぷりのイカつい形相で、近付く者を次々に薙ぎ倒していた。信玄が長生きしたらまさにあんな風になりそうな、見事な鬼瓦ジジイだ。
「信虎殿、引導を渡しに参った」
「誰ぞ策を弄する者が居ると思えば貴様は真田の者か。まさかその薄汚い毛皮を子々孫々大事に着けているとはな」
「我が真田の先祖伝来の家宝の品を愚弄しないでいただきたい」
え、ソレとんでもねぇ臭いだと思ったら何十年いや下手すりゃ百年モノのビンテージかよw流石にここは敵側である信虎に同意しちゃうわ。戦が終わったら新しいヤツ新調してあげるから、さすがにソレは着替えようぜ?
周りを見回すと信虎以外の者は一人残らず討ち取られていた。最後に残った信虎へ槍を向け、にじり寄るのは3人の武田重臣の猛者達。
「その甲冑、馬場に内藤・山県か。ワシが取り潰した家を信玄が復活させただけのいわば亡霊どもじゃな。貴様ら、このような軟弱極まりない凡将を主に置いてこの甲斐を守り切れると思うてか!?」
俺に薙刀の切っ先を向けてそう怒鳴るジジイ。
いや多分、初対面だと思うけどそんなボロカスに言う?確かに勝頼にも猛将揃いの武田家臣団の武将にも1:1だったら勝てる気はしないけれども。大名としてのポテンシャルはそこだけではない……よね?皆さん。
「少なくとも苛烈な仕置きで家中を混乱に陥れた暗君よりは、寿四郎殿の方が信用なります」
「左様。武で力を示すは将の仕事。それらを上手くまとめ導くが主君の役目なれば」
馬場さんに内藤さんが説得力のあるフォローを入れてくれる。それを聞いた信虎は薙刀の切っ先を下げ、諦めるように呟いた。
「そうか。そなたらは最早、武によって強き者が頂点に君臨し国を治めるは時代遅れと申すか」
だが次の瞬間————
「ならばこのワシが
そう言ってとんでもない速さの突きが繰り出される! 俺は何とかその場を飛び退いて間一髪、直撃を免れたが完全に油断しきっていたなら多分、餌食になっていただろう。
一瞬遅れて三方向から繰り出された武田3重臣の斬撃で、信虎は薙刀を俺の方へ繰り出した姿勢のまま、大量に出血してその場に留まっていた。小刻みに震えるその身体から力が段々と抜け落ちて、握りしめていた薙刀がゴトリ、と地面に落ちる。
「……ただ軟弱なだけの凡夫ではない、という事か」
そう呟いて武田宗家最後の生き残り・武田信虎は事切れた。こうして武田との戦いは幕を閉じたのである。
そしてようやく甲府での戦いの戦後処理は大体片付いた6月。
香坂・馬場・内藤・山県の武田4名臣に
皆まだ信長方の侵攻に警戒しなければいけない時期ではあったし、こと義輝将軍と北条勢はこれから織田家に奪われた越前を取り返すため、逃げ延びた朝倉と輝虎が待つ越後入りする前の大変な時ではあったけど。
義輝将軍によって俺を『甲斐武田の国主』として正当性を持たせるため『任官の儀』があったから、そのついでだ。本当なら旧武田の本拠地、躑躅が崎でやるべきだったんだけど燃えちゃったからな。そんな甲府は今、代わりになる新しい城づくりが着々と行われている。
本日用意したのは夏の時期が旬のアジ・スズキ・車エビにマゴチ・剣先イカと白身中心。それに天婦羅が鮎にキス・アナゴとオクラやミョウガ・大葉など山で獲れたものが並ぶ。それから夏と言えばで遠州灘で獲れたハモの湯引きも出したら、それが今日一番の好評だった。
「これだけの豊かな海の幸が味わえるとは。やはり海とは素晴らしいですな」
「御屋形様も『この山に囲まれた甲斐・信濃の土地でも海の幸を気軽に味わえる世を早く作りたい』と申しておりました」
「ううっ、ぉやがださまぁー! ……寿四郎殿、早く叶えてくだされ」
と信玄の事を回想する武田衆の皆様。そうだな、あの信玄から託されたんだから、ちゃんと頑張らないと。
「無論、そなたなら出来るな?期待しておるぞ、浜寿四郎! 」
「はい、ここに居る北条と越後上杉、それに義輝様に賛同を示す大名たちと手を携え、必ずや」
信頼に満ちた目でこちらに語りかける義輝に、気合いを入れ直して力強く応える。そう言えば先程、甲斐国主として任官の儀に太刀を譲り受けたのだがそれが何と天下五剣の1つ・
「義輝さまぁ、うどん……やァ無論です。この寿四郎とは最早兄弟同然! 二人で父上と信玄殿のように東国覇王と呼ばれるようになって見せましょうぞ……もぅ飲めにゃぃ」
対して国宝・
「寿四郎、俺も忘れるなよ。危機の時にはちゃんと頼れよな」
「あぁ、ヤス。こっちこそだよ! もう長い付き合いだもんな」
「それで寿四郎、新たに作る城には蹴鞠稽古場はちゃんと用意しておろうな!? 余とお前の仲じゃろがい」
「あ、いや氏真……それは」
もちろん俺がこうして成り上がる元になった蹴鞠王子・氏真と彼の元で近習時代から過ごした奴らの事も忘れてはいない。甲斐に蹴鞠グラウンドを作るかどうかは別として。
そうして一人一人と言葉を交わして大広間を見回すと、軍監・多羅尾・サバ・カンパチたち駿河衆と武田衆で兵の訓練方針や馬上筒隊や鏑矢隊の事で盛り上がっている。
相変わらずベロンベロンの氏政は俺だけでは飽き足らず、今度は氏真へウザ絡みしに行って弟たちから全力で止められていた。
そしてそんな様子を微笑んで眺めている義輝。
まだまだ課題は山積みで、特にどうやってあの信長と渡り合っていけるのかは分からないけれど、俺はこんな光景を守るためにこれからも戦っていく。戦国の世なのに戦国武将らしくない、俺なりのやり方で。
第3幕 世代交代編 終幕
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お読みいただきありがとうございました!
これにて第三幕、堂々終幕です。
ここまでで面白い、くだらないけどアリ、いやこのくだらなさこそ至高!と思っていただけましたら是非、☆評価など戴けますと嬉しいです。皆様の評価がこの後第4幕を書くためのモチベーションとなりますのでよろしくお願いします。
(むしろ無反応だったらここで終わらせるのも考えちゃいます><)
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