第98話 家臣たちの遺したもの
朝霧ヶ原の戦い
甲斐武田軍 1万 主将:武田勝頼
主力:武田騎馬軍団6千
VS
駿河はま軍 8千 主将:はま寿司郎
参陣武将:鈴木鉄砲隊・左馬之助・勘八郎・軍監・多羅尾
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「よかろう、ならばやってやる! 全軍突撃!! 」
「総員配置につけ! 作戦通りで行くぞ!! 」
元亀3年(1572)2月6日早朝。
東駿河・富士城の北、朝霧ヶ原で俺は甲斐武田の騎馬軍団が霧の中を突撃してくる姿に目を凝らしていた。
この時に向けて昨夜のうちに俺達が仕掛けた策は2つ。うまく機能してくれれば、こちらに波のように押し寄せてくる敵たちの動きに変化が出るはずだ。その時を静かに待ちかまえる。
「のぉわっ!! 」
「うわぁ! 寄るな寄るな!! 」
人の腰より上まである高さのススキが群生する緩やかな下り坂を、一糸乱れず横並びで一気に駆け下りてきた武田騎馬軍団。その先頭を駆ける者達の動きが急に乱れ始める。
ちょうどその辺りのポイントに、昨夜のうちにススキで隠れる高さの
横並びで進んできた騎馬のうち馬房柵の正面に当たってしまった者達は、馬房柵に馬が足を取られて落馬するか、隣の馬に進路を寄せてぶつかるかしかない。真横からぶつかられた者達も同じ速度で馬を進める事は難しいだろう。
「今だ! 精密射撃隊、放てぇぇぇ!! 」
そして馬房柵で足を止められた先は少し斜面が逆勾配になっているので、自然と足が緩む上にススキや雑木などの遮蔽物が一旦途切れている。
そのポイントに最前列が立ったタイミングを狙い澄まして鉄砲玉が飛んでくるワケだから恐らく、防ぎようはないだろう。
「第二撃! 放てぇぇぇ!! 」
精密射撃隊に素早く弾と火薬の装填された次の鉄砲が渡され、照準を定められた騎馬部隊に無数の弾が撃ち込まれる。
今回、精密射撃を行える鉄砲隊500名に対して用意できた鉄砲は1000丁程度。3段撃ちには届かないが1発撃って終わりではなく2発を連続で撃ち込めたことは大きいハズだ。あとは次の装填までどうしても時間がかかってしまうタイムラグの間に近付いてくる敵を、次の策でどう埋められるかだ。
「怯むな! 小賢しい鉄砲など攻め寄せてしまえば終わりだ。突っ込めぇぇぇ!!」
勝頼が檄を飛ばして突撃を指示する声がこちらまで響き渡った。
精密射撃の2段打ちで押し寄せる騎馬隊の前列は刈り取ったが、敵は後から倒れた仲間たちを越えて押し寄せてくる。さすがの鉄砲隊も近付かれてしまえば無力だ。俺はここで次の用意していた策に転じる。
「軍監、多羅尾! 」
すかさず陣形の左右から精密射撃隊の前を斜めに横切るような進路で500ずつの騎馬隊が飛び出していき、武田の前線に接近していく。
「
一足先に左から展開した軍監率いる騎馬隊が火縄銃より一回り短い鉄砲を一斉に放火する。精密射撃隊よりは命中率は下がるが、敵に「まだ鉄砲を用意していたのか」と怯ませるには十分な一撃だ。
「
今度は右から展開した多羅尾の率いる弓を構えた騎馬隊が次々と矢を放つ。揺れる馬の上から放たれたにも拘らず敵を上手く捉えた一撃が次々と入るのは、裏切った
「スズキ、準備良いか!? 」
軍監と多羅尾の隊がクロスして左右前方に走り去ったのを確認して、その間に2丁の火縄への装填が終わった精密射撃隊は次なる砲撃を放つ。
左右へと散開した『厄介な存在』を殲滅しに追うべきか気を取られていた武田騎馬隊は、再びの強烈な殺傷力を持つ鉄砲玉の雨に次々と倒れていき、ここまでで甚大な被害を受けた騎馬軍団はこれ以上無闇に前進して良いものかと多くの者が戸惑って足並みが乱れているのが手に取るように分かる。
「ここだ! 騎馬抜刀隊、突撃!! 」
完全に足が止まった武田の騎馬軍団に向け、カンパチを先頭にした騎馬部隊が姿勢をかがめて全速力で一気に距離を詰める。そして敵と交錯するその一瞬前、抜き放たれた太刀の一閃でバタバタと敵兵が馬の上から崩れ落ちた。
マグロはこの駿河に来てから9年間、ずっとこの駿河はま家の兵達に刀を教え続けていた。本人は飛んできた矢を斬り飛ばして防ぐほどの剣豪にも拘らず、初心者からある程度の戦場を経験した武人も誰でも分かりやすく根気強く指南を続けてくれていた。俺も、俺の息子達もそのおかげでだいぶ剣の腕が上がったと思うし、それ以上に恩恵を受けたのはやはり、長くこのはま家で戦ってきた兵達だ。
今回の【騎馬抜刀隊】という奇策はそうしてマグロから抜刀術を学んだ者達の中で、馬の扱いにも長けた者を選りすぐって結成した、いわば『マグロの教えの集大成』と言っても過言ではない部隊だ。
それが戦国最強とも謳われた武田騎馬軍団相手に一太刀も二太刀も浴びせ互角以上に戦っている。叶うならこの光景を、マグロにも見せてやりたかった。
「よぉし、満を持して俺達の出番だ! ……いいんだよな?若?」
「おう、行ってこい! サバ! 」
「よぅし野郎ども! 手柄ブチ上げんぞ! ついて来いやァァァ!! 」
サバの大型スピーカーでも通してるんじゃないかという大声と共に、槍や太刀を手にした主力の歩兵部隊が一気に敵陣へと駆け上がる。ここまでの戦いで策に翻弄されまくった武田軍は完全に統率を無くし、騎馬軍団の持ち味である機動力も大勢の兵に囲まれた混戦状態で完全に殺されている。
こうなればもう雌雄を決するのは士気の高さの差だがそこはもう、推し量るまでも無い。
もはや総崩れとなった武田勢は抵抗できる余力も無く押しつぶされていったが、全軍退却を告げる号令も無い事を不審に思った俺は、カンパチと共に騎馬を率いて混戦状態の奥へと馬を進めた。
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武田軍総崩れで追い詰められた武田の跡継ぎ・勝頼。
彼がここで倒れたら甲斐の嫡流はどうなってしまうのか!?
退路はまだ残ってる。ここを耐えれば、甲斐に戻れるんだから。
次回「勝頼の最後」デュエルスタンバイ!
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