第65話 リアル鬼、もてはやされる。輪島から珠洲へ

今回も能登国平定編です。

輪島~白米千枚田~禄剛崎灯台はいつか見てみたかった景色なので、何年先でも復興して欲しいです。

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 七尾城を取り囲む朝倉本陣から別働隊として北上し、穴水城・天堂城を攻め落とした翌日。


 俺達は外能登の中心地、輪島に辿り着いた。この地は能登畠山家の代々の重臣・温井ぬくい家が治めていた土地で現当主・温井景隆ぬくいかげたかが戻ってきていたらしいのだが、俺達が到着する頃にはすでに能登半島の先、珠洲すず方面へ逃げ出した後だったという。

 また、一向宗の指導者も数日前からこの地に入り布教活動をしていたらしいが、俺達が来るのを聞いて早々に珠洲方面へと立ち去ったらしい。


 そりゃあ真柄兄弟の風貌と『一日で城二つを落とした』なんて話が広まれば誰だって逃げ出すよな。リアルに鬼が来たみたいなモンだし。


 だから輪島の町でも俺達は【恐ろしい侵略者】として歓迎されないんだろうなと思っていたらとんでもない、町を挙げての物凄い歓待を受けた。


「数年前からこの辺を支配しとった八代っちゅうのがまあ、ひでぇ男でなぁ。お前さん方、よくぞ倒してくれた」

「わぁー鬼さんでっかいー!! 高い高いして~」

「お前さんが駿河の寿四郎ってのかい?聞いてた話より随分と地味だねぇ。まあそうめんでも食ってけさ」


 どうやら天堂城の八代とかいうのが嫌われていたのが原因みたいで、それを倒したのがこの地域ではポイント高かったらしい。子供たちに懐かれて真柄兄弟もまんざらでもなさそうな顔をしている。

 『ド派手な和風クリスマスツリー男=俺』っていう謎の認識だったのがちょっと引っかかったけど、この時代の情報網じゃそれぐらいの間違いはよくある事だ。



 この輪島の地は外海に面していて七尾湾とは獲れる魚介類の種類も違ってくるらしく、海女さんが海に潜って採ってくるサザエやアワビ・岩ガキなんかが有名で、着いた時にはちょうど採れたての海の幸・山の幸が集まる朝市が開かれていた。そういえば輪島の朝市、って現代でも有名だったもんな。


「なんだこれ! 俺の知っているサザエとは違う! 旨味がメチャクチャ濃いぞ! 」

「殿! このフグの卵巣漬けというの、絶品ですぞ! 毒は入っておりませぬ」

「この辺りのそうめんって美味ぇな。いくらでも食べられるぜ」


 朝市の出品者たちが「食ってみてくれ」と持ち寄ってくるものはどれも絶品で、まさしく食の宝庫なんだなと感じる。少し離れた所では半兵衛が漆塗りのお重やお椀を手に取り、目を輝かせていた。そっちは輪島塗りってヤツだな。何かで見た事はあるぞ。


「輪島-穴水-七尾と道を整備し、さらに湊の船の出入りが栄えれば……」

「間違いなく、素晴らしいものとなりますな」


 半兵衛・海老沢・軍監は食べるのもそこそこに早速、道を切り開いて物流を拡げる案について検討し始めている。

 今回、戦働きでは朝倉軍に良い所は持ってかれっぱなしだからな。せめてこの内乱が平定された後、どう能登を豊かにしていくかって部分ぐらいは俺達が役に立ちたい。こんな絶品食材の宝庫、他に発信していかないのは勿体ないよ。



 穴水城・天堂城ともに城を守る役目の守備兵が到着・配置されたのを確認して輪島から海沿いに東側、能登半島の先へと進んでいく。馬を進ませながら左側を見ると何処までも広がる真っ青な日本海が広がり、右側には山の麓近くまで広がる段々になった棚田が見える。海から吹き付ける初夏の風は少し冷たくて心地良く、太陽は暖かくとても眩しい。


「極楽浄土だ楽土がどうだって言ってる奴らに、一篇この景色拝んで来いって言ってやりたくなるなあ」

「左様。民を戦いに駆り出し、自分たちは寄進を集める事に夢中になっている暇があるなら大地を耕し、土と風と共に生きよと教えてやりたいところですな」


 一向宗の坊主たちは半島の先、馬緤まつなぎ城という所に逃げ込んでいるという。能登ではあまり賛同を得られなかったためか、加賀から逃げ込んできた寺の坊主達ばかりで数は少ないらしいが奴らは鉄砲を持っている。今まで通りの戦法で下手に力攻めでは上手くいかないかもしれない。


「なーにを弱気な事を! これまで通り一捻りじゃ!! 」


 俺の説明を全く聞いてない景連と真柄兄弟脳筋トリオは今まで通り馬で突っ込むが案の定、鉄砲の一斉射撃に阻まれる。景連は鎧のゴテゴテした装飾の部分で銃弾を免れたが反動で仰け反り、真柄兄弟は馬を狙い撃ちされて三人とも落馬していた。


「おっさん達、それじゃ的だぜ? ここは俺達に任せな!! 」

「このような狭所での戦闘こそ、我が剣術が発揮される!! 」


 自分たちの出番とばかりにウチのカニ少年とマグロ率いる刀武者隊が素早い動きで斬り込み、鉄砲隊を薙ぎ倒していく。味方の刃を逃れる位置から狙撃を行おうとしていた坊主には、軍監の誇るスナイパーライフル隊の逆狙撃だ。敵はあっという間に崩れ、砦ぐらいの規模の広間に残る一向宗の首謀者2人・七里来周と窪田経忠を討ち取った。



 だがこちらも突撃を決行した朝倉兵側の騎馬武者が何人も鉄砲を食らい、中々の損傷だ。これまでの楽勝ムードを考えれば勝ったとはいえ大損害。とくに真柄兄弟は後方の部隊が曳いている替えの馬が来るまで足止めを食らうのは必須の状況。たしかにこんなバカでかいヤツ、乗せて戦場を駆けられる馬もそうそう居ないからな。


「人任せにするのは忍びないが此処は仕方あるまい、寿四郎殿の部隊だけで先に行ってくれ。我々は後方の部隊と合流し、遅れて参上する」


 ここまで自信満々で尊大な態度だった景連が申し訳なさそうに言う。こちらとしては前半大活躍だったんだし、後半ぐらい俺達に出番を貰っても構わないと思っているけどね。



 そんなわけで馬緤城で一晩休み、海沿いを能登半島の先端を回って内能登へと戻る。早朝に出立したので半島の先、禄剛崎ろくごうざきから昇る朝日を見れたのは本当に感動した。東から西まで見渡す限りの海、こんな景色を眺めてたら「この先にはどんな景色が待っていて、何があるんだろう?」って想像せざるを得なくなる。天下を統一したら海を渡って中国へ! って言い出した史実の織田信長の気持ちも、ちょっとは分からんでもないな。


 そうして馬を進める事9里(約36キロ)内能登の先端にある珠洲郡・飯田城に辿り着く。ここは能登畠山家臣団の最大勢力・遊佐ゆさ氏の本拠地の城だ。


 穴水・輪島から先、つまり能登半島の先端部分の広い領地をまるごと治める大領主の城だから、当然のように防備を固めていて後方の朝倉軍部隊が合流するまで中長期戦は必至かな?と思っていたのだが、城にはすでに「毘」の旗印がはためき、港には大型の軍船が停泊している。

 城の入り口を固めている兵に来訪を告げると、すんなりと城内に入れてもらう事が出来た。大広間には二人の若者と上杉輝虎が待ち構えている。


「ふむ、思ったより早い到着だな。待っていたぞ、寿四郎! 」


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ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

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