第66話 今明かされる!義続の野望が不適切にもほどがある

「ふむ、思ったより早い到着だな。待っていたぞ、寿四郎! 」


 上杉輝虎はそう言って広間の中心、本来なら城主が座るべき席に腰を下ろした。二人の若者がその下座右側に並んで座ったので俺は反射的に下座左側、彼らと向き合う位置に腰を下ろす。これから何かを話し合う感じかな?

 ってか、聞いた作戦だと輝虎さん七尾湾のある能登島辺りにいる予定じゃなかった??なんで半島の先に居るのよ??


「畠山の親子の言う事が何となく腑に落ちなくてな。お前たちには先に攻め込んでもらいながらで悪いが、重臣方の事情も聞いてから我ら上杉は判断したいと内密に動いておったのだ」

「お初にお目にかかる。代々この能登・珠洲すず郡を預かる能登畠山家重臣・遊佐 続光ゆさ つぐみつの息子、盛光もりみつです」

「同じく能登・輪島群を代々預かっておりました能登畠山家重臣・温井ぬくい家の現当主、景隆かげたかと申します」


 二人が恭しく頭を下げる。遊佐・温井と言ったらもう一つの代々の重臣・長家と並ぶ内乱の主要メンバーのハズだ。確かに彼らの口から事情を聞けるのであれば今後の判断材料になる。遊佐盛光の方がまず先に口を開いた。



「あれは遡る事15年前、まだ義続よしつぐさまが血気盛んな頃でした。『名門畠山家の家臣ならば一族郎党に至るまで馬に乗れなければならん、ゆえに家臣の娘を集めて馬の稽古をさせる』などと突然言い出し、馬に乗った事も無い娘たちまで急に馬に乗るように命じられたのです。それも袴ではなく着物で、です」


 この時代は男子は一応ふんどしはあるとはいえ、下着の文化が無いので女子は着物の場合は基本、何も履いてない状態である。つまりノーパンし〇ぶし〇ぶならぬノーパン乗馬か。現代でも昭和脳なエロ上司なら考えそうな事だが、完全なセクハラ案件じゃねえか。


「勿論馬に慣れてなくて落馬する者が多数出たのですが、義続さまはそんな娘たちの……着物が捲れ上がって露わになったそのぅ……女陰を眺めて色がどうだ形がどうだなどと揶揄されたのです。まだ十だった私の妹はそれが元で男を極度に避けるようになってしまって……」


 輝虎があまりの事に拳をフルフルと震わせている。そりゃそうだ、流石に殿様だからって許される事ではない。いくら何でも不適切にもほどがある。



「義続さまはその事がきっかけで隠居されて当主を降りられ、息子の義綱よしつなさまが当主となったのです。ところがそれでも権力を持って助兵衛すけべえ三昧。見かねた我が祖父が『能登の地から引き離して欲しい』と義綱様に進言したところ、それが義続さまにバレてしまいまして……祖父も父も殺され、輪島の領地も召し上げられたのです」


 今度は温井家の景隆の方が口を開く。会社で言ったら「セクハラ告発したら会社側は社員よりも会長を守る側の対策を取った」って話だよな。現代でもよくある事だが胸糞は悪い話だ。


「私は幸い遊佐家の方々の情けで助けられ、この地にて温井家の再起を図っておりました。そうしているうちに盛光さまの妹君、桜さまと懇意になって3年前に夫婦となり、子が生まれたのです」


 遊佐盛光の妹、って事はさっきの話で出てきた変態義続のせいでわずか10歳で男性不信になってた子の事だな。そのまま一生結婚しないで引きこもり、なんて事も有り得たのが克服できて幸せになれて、良かったじゃないか。


「ところが去年、義続さまは私たち夫婦の事を見つけ出し『その娘は子供の頃からワシが目を付けておったんじゃ。子供はワシの子として次の当主にしてやるからその娘を妾として差し出せ』と言って脅しをかけてきたのです。

 義父どのと盛光殿はあまりの事に義綱さまに掛け合ってくれたのですが『父上の言う事には逆らえない。娘を差し出すしかない』との返答で。さすがに黙ってはおれぬと我らは内乱を起こした次第」



 そうか、それであの義続・義綱親子は能登を追われたんだな。なんかもう、最初のアイツらの言った事と事実が違い過ぎて呆れて脳が付いていけない。そうなってくると全部自分たちの蒔いた種じゃないか。そんな事に振り回されてたなんて思うと、怒りがこみあげてくる。


 いや、俺達はともかく総勢2万もの兵を動かしてきた輝虎はもっとだろうな。この二人は知らないだろうけど、女性目線で女の怒りをこの場にいる誰より理解してるお方だし。


「そなたらの話、この上杉輝虎がしかと聞き届けた。真に征伐されるべきはあの二人。この事実を急ぎ朝倉殿やわが軍の者にも伝えねばならぬ。明朝すぐに船を出すゆえ、三人とも付いて参れ! 」


 輝虎はそう告げると勢いよく立ち上がり、用意された寝室の方では無く兵たちの訓練場のある方へとドスドスと音を立てて去っていった。きっと腹の虫が収まらないからひと稽古してくるんだろうな。


「何をボサッとしてる!? お前もさっさと来い! 寿四郎!! 」


 えっ!? そこでご指名俺ですか!?


 その後、夜遅くまで練習用の木の胴丸の上からですら青痣が出来まくるぐらい稽古(という名目の一方的フルボッコ)に付き合わされた。今の時代なら体罰で不適切って訴えれるんだけどこの時代にそんなシステムは当たり前に存在しない。良い子の皆! こうならないように不適切な行動セクハラ言動パワハラには気を付けようね。お兄さんとの約束だぞ!

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