第62話 家族喧嘩が原因で武家崩壊とかよくある話なの??

前話までのあら寿司

 上杉輝虎の要請での共同作戦により越中・加賀を平定した寿四郎たち。さて駿河に帰ろうか、というタイミングで目の前に現れたのは能登畠山家の元当主、義続と義綱の親子だった。

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「この度、越中に加賀まで平定した皆々様にお願いしたいのは我々の国、能登の事なのです。どうか能登畠山のとはたけやま家の本拠地・七尾城に攻め入り、我が孫で現当主である畠山義慶はたけやまよしのりを倒していただきたい」


 俺と朝倉義景・上杉輝虎に謁見した能,登畠山家第八代・義続よしつぐは挨拶が済むなり、とんでもない事を言い出した。



「我々は昨年の内乱が起こるまで能登を平和に治めておりました。しかし、その裏側で力を蓄えてきた重臣たちによって内乱を起こされ、ワシと息子の義綱よしつなは能登を追い出されてしまった。

 今、奴らが能登家当主として担ぎ上げているのはまだ12歳の孫の義慶。どうか奴らを残らず討ち滅ぼし、我らの手に平和な能登を取り戻していただきたいのです」


 そう言ってもう一度、土下座に近い形で深々と頭を下げる畠山親子。それが本当なら下剋上の世の中とはいえ、中々世知辛い話だ。でもだからって、孫を討ち取って欲しいなんて言うのも行き過ぎている気がするんだけど……


「能登は義続どのの先代、義総よしふささまの時代より文化も栄え、素晴らしき国であったと聞いていた。それが主家を蔑ろにする者達に乗っ取られつつあるとは助けないわけには参りません。この越前朝倉、畠山殿の為に兵を率いて駆け付けましょう」


 同じ『足利将軍家重臣の名門』の朝倉は俺の思った疑問など全く持たないようで、二つ返事で兵を出す事を約束する。だがもう一人、ここでの決定権を持つ上杉輝虎は腕を組み、思案している様子だ。やっぱり俺と同じで疑問に感じるよな、そりゃあ、さ。



「能登は重臣と当主で合議によって比較的平和に統治が進んでいたと聞いておりました。それがこんな強制的に排除されるような事になるとは、何かそこに至る決定的な事があったのではないですか?」


「そ、それは……」


 輝虎の質問に返答に困る義綱。確かに部下が何考えてるか全部把握できてる上司はいないにしても、何の理由も無く下剋上されるとは思えないよな。そしてこの反応……多分何かあるんだなって感じがする。


「奴らは一向宗と手を結び、あろうことか坊官たちも城主にするとワシらを差し置いて勝手に約束をしたのです。能登に愚鈍な領主は要らぬ、一向宗の教主様の元に加賀と同じく楽土とする、などと」


 義続が代わりに返答する。


 もしそれが本当ならこのまま放っておけば、加賀を追い出されながらも一向宗を信じる者達が能登で再起を図って集結し、また抵抗してくる危険性が広がるかもしれない。実際、加賀一向宗の主要メンバーだった何人かは行方知れずとはなっていたものの、能登に向かう方面で目撃証言も出ている。


「一向宗が絡むとなれば、能登が加賀と同じようになる前に芽を摘まないとですね。さすがにお孫さんや元重臣の方まで処罰するかどうかまではちょっと、考える余地があると思いますけど」


 俺も能登攻めには一応賛成してみるが輝虎は相変わらず腕を組み、考え込んだままだ。



「能登攻めの件、一応は了解した。だが……準備も含めて少し時間を戴きたいが宜しいか?」

「勿論、今すぐ兵を集めてどうこうとは思っておりませぬ」

「二月の後、おそらくは六月くらいになると思われるが兵は必ず出す。待っておれ」


 輝虎はそう告げると颯爽と踵を返して馬に乗り、帰っていった。


「我が朝倉はひと月もあれば兵を整える事は出来ましょう。早ければ上杉殿の軍が到着するまでに先に敵を切り崩し、敵に準備の時間を与えない事も可能となる。

 浜どのもそれでよろしいか? 必要な兵馬は出来る限り工面しよう」

「私たちもまあ、その条件でそれぐらいの時間があれば」


 実際、駿河まで戻って準備を整えてとなると恐らく4ヶ月ぐらいかかるのだけど、それが出来ないなら大して準備は無い。滞在に掛かる金や食料の算段は軍監が上手い事やってくれているし、新たに兵に組み込まれる者達の訓練を施すことぐらいだ。


 あとは、帰るのが遅くなることを駿河に手紙で知らせる事、かなぁ?



 去年の段階で春まで帰れないかもしれない事は駿河宛に手紙を書いて送ったのだが、返事はまだ来ていない。郵便も飛脚便もまだ無いこの時代だから、結局雪が降るまでに手紙が届かなかったか、返事の手紙が何処かで停まってしまってまだ手元に来ていない可能性もある。それでも、やっぱり連絡はしておかないとだろうと筆を取った。


 そしたら、今度は半月経たないうちに返事の手紙が来た。前の手紙への返信は書いてなかったって事なのかな?


 俺的には側室も正室も関係ないとは思っていたけど一応、正室のみつ宛てに手紙を出したはずが返信を書いたのは側室で一番年長のしっかり、千秋の方。


 彼女の性格と同じく丁寧な文字と文体で家族は皆元気で過ごしている事、光は無事男子を出産して早速北条氏康が祝いに駆け付けた事、だから駿河の心配はせずくれぐれも命を大事に戦を頑張ってきて欲しいというような内容が事細かに書いてあって、読んでいるだけでほっとするような手紙だった。


 ただその下に殴り書きのような荒々しい文字で


『寿四郎は仏敵ではないかもしれないけど、室敵ね。帰ってきたら覚悟なさい 光』


 と書いてあったので一気にほっこりした気分が台無しになったけど。こえぇよアイツ、一向宗よりも遥かにこえぇよ。


 

 それを受けて読んだ翌日には『皆、駿河に家族を残してきている者はちゃんと手紙を書くように』って駿河兵全員にはお達しを出しておいたけど……帰るのが怖い。


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