第61話 加賀平定、そして能登へ
加賀一向宗の本拠地・
「お触れ書き?」
「はい。加賀一向宗の坊主たちが行った横領の限りを書き記し、我々朝倉家・上杉家共にそのような事を行わずに争い無く国を平定するつもりである、って事を隅々まで伝える必要があると思うんです」
現代で言うところの記者会見発表や号外だが、この時代には多分そんなモン無いんだろうからな。江戸時代になれば瓦版ってのがあるとは思うけど。
そこに
「一向宗を保護する事については書かれないのですか?」
「左様! 一向宗と対立することを示せば戦乱は治まりませんぞ」
朝倉軍に居並ぶ武将の中からそういった意見が出る。確かに一理あるとは思うけど、ここで坊主たちを許して曖昧にしたら後でよっぽど大変なことになると思うんだけどな。
「
まるで自分が朝倉家の代表みたいに言ってのけるこの男は、朝倉義景の8個上の従兄弟で親族衆筆頭だという
「一向宗どもを許すつもりは全く無い! ここで根絶やしにしておかねば奴らは何度でも立ち上がろう。そこまで上洛を急ぎたいのであれば景鏡どの、その者らとご自身の軍だけで義秋公を奉って上洛されるがよろしかろう?」
反対意見を輝虎が一刀両断し、義景は「お、おう。そうであるな」と意見を合わせるように賛同する。景鏡はその言葉にこれ見よがしに舌打ちし、立ち上がっていたのを座り直した。
「あの男、いずれ裏切りますぞ」
軍監が小声で耳打ちするが言われなくても俺もそんな気がしてならない。だってアイツ、そういう匂いがプンプンするもの。朝倉家は歴史がある家柄だからか分家が多くて色々枝分かれしてるって聞いてるけど、あんなのまで纏めていかないといけないなんて義景が苦労するのもわかるわ。その分うちは弱小勢力だけどシンプルで良かったよ、釣りバカの兄ぐらいしかいないからな。
ともあれ一向宗と完全に対立すると決めた以上、まだ加賀国内に無数に残っている一向宗の寺やそれを変わらずに信仰している門徒は何とかしなければならない。季節はもう11月、中日本の山々が雪で太平洋側と寸断される時期は近付いてきている。これは春まで帰るのは無理になりそうだ。
「仕事(出陣)なのは分かってるけど、出産までにはちゃんと帰ってきてね」って念を押してた光には怒られるんだろうな、きっと。
そして年が明け、永禄10年(1567年)4月。
半年近くに及ぶ平定作戦の結果、俺達は加賀国内から抵抗する一向宗の寺のほとんどを追い出す事に成功する。作戦を開始した当初は、まだ力を残してる一向宗の有力な寺が俺達の話を信じない門徒を引き連れて襲撃して来たり、という事は何度もあった。
だが時間が経つにつれ、坊主たちが何処の村でも寄進と称して重税を課していたことが発覚したり、お触書の内容を見て俺達はそれと同じようにする目的で来たのではなさそうだ、という事が少しずつ広まり抵抗は収まっていった。
それでも俺達に対する疑いの目が強い集落なんかへは、行軍中に寄った村と同じように積極的に『ほうとう』を配りに行ったのもある。雪が舞う寒い中で、熱い汁物の破壊力(求心力)は下手な兵器よりも効果抜群だよなって思い知った瞬間だ。やっぱ食の力って偉大だな。これぞ『ほうとう』だけに伝家の宝刀、なんつって。
そんなある日。
朝倉義景が会わせたい人物がいるというので、御山御坊跡地・俺達はま軍の陣屋に上杉輝虎・朝倉義景とその人物たちに俺、の5人で顔を合わせる事になった。
御山御坊は戦いの後、『寺が残っていれば奪い返しに来る門徒が後を絶たないだろう』という事で石垣と堀を残して内部は解体して更地にし、解体した木材を使って平屋の砦のような借りの兵舎的なモノを建てた。今でいう仮設住居みたいなものだ。それも加賀国内から必要無くなれば陣屋は解体し、広々とした庭園にでもしようと思ってる。現代には兼六園ってのがあったハズだし。
「このようなむさ苦しい所にすみません。駿河・浜家当主、浜 寿四郎と申します」
「いえいえ、ワシらの為にこのような機会を戴き恐悦至極にございます。
能登畠山家八代当主、
50代くらいの総白髪の疲れた顔の老人と、同じく疲れた顔の30過ぎの男がそろって恭しく頭を下げる。能登畠山、っていうと多羅尾から習った話じゃ戦国時代に入る前からの足利将軍家重臣の名門だって聞いてるけど、そういう威厳や風格は全く感じない。失礼だとは思うけど。
そんな風に親子の事を観察していると開口一番、老人の方・畠山義続はとんでもない一言を口にした。
「この度、越中に加賀まで平定した皆々様にお願いしたいのは我々の国、能登の事なのです。どうか能登畠山家の本拠地・七尾城に攻め入り、我が孫で現当主である畠山
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