第60話 金銀財宝堂の戦い
ようやく今回で加賀一向宗征伐編がラストとなります。
作者的には書いていてすごく長い戦いだった……
お読みいただいてる方には感謝しかないです。
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重い扉を開けて
まさしく金色堂どころか、金銀財宝堂だなコレ。ここを作るだけでも貧しい村人たちからどれだけの銭を洗脳して巻き上げたのか考えるだけでムカついてくる。
最初に入った大講堂ほどではないが、そこそこ大きな建物なので敵の激しい抵抗があるものと身構えながら侵入したが、中はシンと静まり返って数人の坊主だけが覚悟を決めたように佇んでいた。
「よもやここまで攻め込まれるとはな。だが貴様ら、我らに仇をなせば阿弥陀様の天罰が」
「天罰天罰うっせぇんだよ! この腐れ外道!! この俺がお前らに天罰を下してやる!! 」
さっきスベりまくったスピーチをカマしていたおっさん・
「ぐぬぬ……
「頼照さま、神聖なる仏堂を血で染めるなど」
「やかましい!! 元はといえばこんな所まで攻め込ませる貴様のせいであろう杉浦!! 」
制止する杉浦とかいう元現場責任者のおっさんを振り切って下間の一族?が槍を手に構えた。これまで戦ってきた坊主たちとは明らかに違うと感じるような威圧感を感じる。特に真ん中に構えた頼廉って奴は相当な手練れの雰囲気だ。
「俺が真ん中の奴をヤる! おっさん達はそれぞれ左右のを頼んだ」
「おっさんとは失敬な! 拙者これでもまだ28ぞ! 」
「まあ、そこは引っかかるが……心得た」
カニ少年・真黒・桓武がそれぞれの方向に走り抜け、斬り結ぶ。たちまち刀や槍の穂先の合わさる甲高い剣戟音が響き、右へ左へと素早く位置を変えるのが分かる。俺もこの戦に向けて剣の腕や立ち回りを磨いてきたつもりだったが、それでも目で追えるのが精一杯だ。
「おっさん、アンタいい筋してるじゃねえか」
「小僧こそ本願寺最強と謳われる我が槍をここまで凌ぐとは只者では無いな」
「俺は宝蔵院流で最強になる予定の男・可児 伊蔵だ。ちゃんと覚えておけ」
カニ少年と下間頼廉は凄い速さで槍を交わしながらもニヤリと笑い会話をする。ちょっと俺にはついていけない次元だが、見届ける以外にないのだろう。
他の味方兵に至っても加勢に入ったところで邪魔にしかならないのを悟ってか、刀を構えて入り口辺りに固まりながら、ただただ6人が戦っている様に目を奪われている様子だった。しかしその中で俺は、微かに火薬の匂いがするのを感じ取る。おかしいぞ、ここに火縄銃を持ったものは誰も……火縄銃!!?
「伏せろ! 罠だ!! 」
すぐさま違和感を感じて壁に蹴りを入れると、壁風にカモフラージュされた戸板が破れ、奥に鉄砲を構えた僧がバランスを崩して倒れるのが見える。ソイツの構えた火縄銃の弾は持ち手がバランスを崩したことで狙いが外れ、天井方向に放たれた。隠し部屋から狙撃とはとんでもないこと考えやがったな。
振り向くと堂の入り口付近に固まった味方の何人かが血を流して倒れていた。カニ少年やマグロたちも持ち前の反射神経で無事なようだが、彼らが斬り結んでいたと思われる場所からあがる多数の煙から、複数方向からの狙い撃ちを受けたであろう事もわかる。
「全軍散れ! 壁際に鉄砲持ちを隠し間に仕込んでるぞ!! 始末しろ!! 」
発見した坊主に槍を突き立てて叫んだ。すぐさま味方は壁沿いに散り散りになり鉄砲持ちの坊主を探し出して仕留めていく。だがその時、今度は上の方から鳴り響く発砲音。そして壁側を向いたまま、その場に崩れ落ちる味方の兵達。見上げると真ん中の吹き抜けをぐるりと囲むテラスみたいな場所から多数の銃口が階下に向いている。
「フハハ、馬鹿どもめ! 此処で全員仲良く銃の的になるがいい」
下間頼照の笑い声が響き渡ると出入口の重い扉が閉じられる。マグロがすぐに反応して上への階段を探し当てるが、そこに立ち塞がる下間の精鋭3人。そしてカチャリ、という火縄銃の火薬と弾を装填し直して再びこちらに構える音。どうすればいい?
「でりゃああああああ!!! 」
その時、カニ少年が助走をつけて槍の反対側を地面に突き立て、しなりと反動で宙高く飛び上がる! 現代で言う棒高跳びの要領だ、とはわかっていても鉄砲持ちの坊主達が立っている場所までは建物の三階ぐらいの高さだ。そんなのアリか!? てか、こんなん届くのか!?
空中で身を翻したカニ少年は今度は槍の穂先を遠心力で壁に叩きつけ、槍を鉤縄の先のように器用に使ってテラスに着陸。そのまま走り込み、銃を構えた坊主たちを斬り払っていく。
「そんな、馬鹿な!? 」
頼照が叫び、生き残った鉄砲隊は彼を守るように銃口の向きを変えようとする。だが、時すでに遅し! 狙いの定まり切っていない銃弾は少年を捕らえることは出来ず、逆に彼の槍は狙い通り、下間の心臓を貫いていた。
「私の……我が下間の……国が……」
最後までおっさんは意味不明な事をぼやきながら事切れた。寝言は寝てから言え、ってヤツだ。
時を同じくして登り階段の手前ではマグロと桓武の刀が下間頼承・頼芸の二人を討ち取る。残す敵は上階の鉄砲持ちの坊主どもと下間頼廉のみ、と生き残った味方の兵達が一気に階段に雪崩れ込む。そして火薬の再装填が済んでいない坊主どもを全員討ち取る事に成功するが、そこに下間頼廉の姿は無かった。
「一人は取り逃したとはいえ、総大将たる頼照は討ち取ったのです。あとは残党刈りで見つかる事を期待するしかありますまい」
「そうだな……うん?」
半兵衛と話していると視界の片隅にチラッと何かが動くような気配。今、なんか壁が微妙に動いたような?ヤモリみたいな動きだったけど何だろう?
目を凝らしてみると……金色の壁づたいに芋虫みたいに這って移動する、同じく金色の法衣を纏った坊主がこちらを振り向いたのと目が合う。確か杉浦ナントカとかいう元現場責任者のおっさんだった気がする。
「ひいいっ! こ、殺さないでくれ!! 」
悪役にありがちなテンプレートな台詞。ここまでの戦いを繰り広げておいて、よく言うわ。
「お前らの教えじゃ仏のために戦って死ぬと、ありがたい極楽浄土とやらに行けるんだろ?そうやってロクに訓練もしてない、装備も食うモンも整わない門徒の村人を俺らにけしかけてきたじゃねえか?」
俺の脳裏には山中で襲ってきた、竹やりや鍬を持った村人たちの姿が思い浮かぶ。あいつ等だってそう言われて戦わされたんだろ?こんな奴の言葉を信じて。そう思うと腹を立てずにはいられない。
「そのようなお題目に踊らされるは愚かな民百姓のする事。酒を飲み、肉を食らい、女を侍らせ民衆や若い坊主どもの羨望を浴びる。これ以上の至福、極楽など何処にあろうか! どうせ貴様ら戦国大名とて同じであろう!? 」
うわ、偉そうに語る割に言ってる事はほぼほぼ山賊と変わらないじゃん。確かに、俺らも村人よりは良い暮らしはさせてもらってるかもしれないけどさぁ、それでも
「それでも、民の為にどうより良い暮らしをさせられるかを常に考えるのが為政者というもの! 貴様らの行い、仏の加護を名乗りながらそのような自堕落、まさに地獄行きに相応しい。地獄で詫びるがいい! 」
半兵衛が怒りの形相で杉浦を斬りつけ、一刀の下に絶命させる……俺の腰から抜き放った孫六兼元で。
あのぅ、そこは俺の出番だったんですが……まぁいいか。
「ふう、やはり孫六は素晴らしい切れ味ですね。和泉守よりもこちらの方が私には合います」
いや、それも俺が言う所のセリフ‥‥まあ、いいか。
こうして、ようやく俺達は加賀本願寺の本拠地・御山御坊を攻略することに成功した。
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