第59話 目指せ!金色堂!!

歴史日刊39位⇒37位!!

皆様の応援のお陰で着実に伸びてます。

目指せジャンル別20以内!!


____________________


 大講堂を村人たちと共に占拠した俺達は、正門を破ってきた朝倉軍と合流。朝倉義景あさくらよしかげに生け捕りにした坊主たちを引き渡し、村人たちを寺の外の安全な場所へ逃がしてもらう算段を取り付ける。


「ここに居るのは位の低い僧ばかりか。どうやら指導者どもは取り逃がしたようだな」


 朝倉の情報ではこれまで御山御坊を中心に加賀を支配してきたのは杉浦 玄任すぎうら げんとうという坊主で色々と頭が回る男らしい。それに加えて石山本願寺から来たというあの下間しもつまっておっさん。講堂には非常口的なモノも誰かの出入りも無かったハズなのに、どうにかして門徒に紛れ込んだのか捕虜の中に彼らの姿は無かった。


「敵は恐らく御坊の何処かにある金色堂こんじきどうだろう。だがそこへ辿り着くまでにどんな罠を張ってあるかわからぬ。充分に覚悟していけ」


 朝倉本陣の方に浜隊も到着し、村人ルックから着替えて装備を整える。軍監と半兵衛が共同開発してくれた南蛮胴試作に信玄がくれた孫六兼元の刀だ。木綿の服に竹やりも動きやすくて良かったんだけど、攻撃力防御力共にほぼ皆無だからな。


 その後、搦手門側から攻め入ってきた上杉軍と伝令を飛ばし合いながら連携を取り、4方向に軍を分ける事に決定した。御山御坊は全部でどれくらいの広さか見当もつかない程広く、内部も細かく塀によって隔てられているのでくまなく捜索し、敵の総大将を確実に討ち取るためだ。いっそ金色堂とか遠くから見ても分かるような悪趣味な金ピカの建物なら分かりやすいのに。



 敵兵の襲撃をその都度撃退しながら狭い路地をひたすら進む。道幅が広くなったり狭くなったり直角に曲がったりを繰り返していて本当に迷路みたいだ。海老沢の発案で先頭の者が目印を付けながらでなければ、同じ場所を何度も回っていたとしても多分、気が付かないだろう。


 何度めか分からない角を曲がって進むと正面に門が見え、そこまでまっすぐに道幅の広い一本道が続く。門の前まで敵の姿が見えないのを確認して前衛の集団は足早に門へと近付くが、俺の中では何かの違和感があった。何が、とは言えないが……何かが仕掛けられているような気がする。


「全軍止まって後退してください! 罠です!! 」


 半兵衛が叫ぶのと、塀の左右に開いている鉄砲用の小さな狭間から無数の火縄銃が火を噴くのがほぼ同時だった。前を走っていた鎧武者たちがバタバタと倒れ、俺も左肩に強い衝撃を受ける!

 数年前、傷を負って刀を握れなくなったのが右肩への銃撃だった。また、あんな事になるのか……


 と思ったが、遅れてくると思っていた痛みは全く来なくて腕を動かしてみても問題なく、動く。代わりに西洋鎧の一部でゴツくなった肩当て部分には金属の凹んだ痕だけ。まさか早速この鎧に助けられるとは思わなかったケド、この場に間に合ってくれて良かったぜ。


「殺し間を用意しているとは。大楯隊・精密鉄砲隊、前へ! 」


 半兵衛いわく、左右から斜め方向に無数に銃を撃つことで入り込んだ場所に居る者を蜂の巣にする兵法『殺し間』というものらしい。大楯を構えた兵の後ろからスナイパーライフル隊が鉄砲狭間に銃撃を仕掛ける事で敵を何とか処理して進むが、敵はどうにも鉄砲の使い方にも慣れているみたいだ。気を付けて進まないとな。



 その後、半日以上境内を彷徨って俺達はついに金色堂と呼ばれる、寺の中で最重要となる建物を発見。そこまでに何度か先程のような殺し間もあったし、坊主が後から後から無限に湧いてくる『僧房』と呼ばれる坊主どもの宿舎前での戦いはまさしく混戦の地獄絵図だった。おかげでウチの兵達もだいぶ疲弊している。こんな状態で大丈夫だろうか?


 その時、塀を飛び越えて上空から俺の前に何者かが颯爽と着地する。咄嗟の事に全員が身構えるが、そこから続けて攻撃が繰り出されることは無かった。立っていたのは鎖帷子に穂先が十文字の長槍を持った、小柄な少年。


「居た居た! やっと追いついたぜ。アンタ、さっき講堂で坊主を言い負かしてた人だろ?見ててスカッとしたぜ。そんで俺も配下にして欲しいと思って追っかけてきたんだ」


 ええっと、講堂に集まってたって事は門徒の村人の息子かなんかって事で良いのかな?そんな訓練されてない素人の少年を前線で戦わせるのはアカンでしょ?コンプライアンス的にも。


「俺の名前は可児 伊蔵かに いぞう。これでも宝蔵院ほうぞういん流槍術の師範、胤栄いんえい師匠のお墨付きなんだぜ! 」


 なんかどこかで聞いたような名前だし凄そうな免許持ってます的なアピールだけど、こんなどう見ても12、3歳の子供にお墨付きって実は立ち上げて間もない流派なのかな?


 副社長(ただし従業員数は社長含め2人)みたいな。


「そんなわけで俺を連れてってくれよ! 大活躍間違いナシだぜ! 」


 自慢げに話す彼の押しに負けてとりあえず戦ってもらうことにした。少なくとも敵のスパイとかだったり裏表は無さそうに思えるし。さっき『兵を4方向に分けて再編する』って言った時に真っ先に上杉隊に戻ってったハラグロさんこと元・ノドグロさんみたいなのに比べればね。



 弓や鉄砲を持った僧兵に気を付けながら、慎重に建物周りの敵を打ち払って金色堂に向かう。ここで既にさっき加わったカニ少年は能力を発揮していた。敵が鉄砲を構えてる所になんと真正面から突っ込み、発砲される前に切り崩したのだ。これには現在のウチの最強戦力の武将・マグロと寒ブリも目を剥いていた。


「攻撃は最大の防御、ってね。狙ってくる奴が見えてるなら大した問題じゃないぜ」


 いや、見えてるからって対応できるもんでもないでしょ。この時代の剣豪とか一騎当千って呼ばれてる人たちって、飛んでくる矢を打ち落とすマグロだけも人間業とは思えないのに……どんだけ超人なんだよこの子。頼もしいけど……末恐ろしいわ。


___________________

ちょこっと解説☆

『殺し間』は宮下英樹さま作品『センゴク』にて鉄砲戦術に長けた明智光秀が使う、第一次大戦で言うところの十字砲火だそうです。検証のほどは定かではないようですがどうしても登場させてみたくて使いました。

ちなみにカニ少年は……歴史好きならお分かりですよね(ニヤリ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る