第58話 堂夢ライブ期待させといておっさんかよ
前回までのあら寿司
加賀を一向宗の手から解放するため、進軍を続ける寿四郎たち。
ついに本拠地・御山御坊に辿り着いた。
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寺を取り囲んでいた坊主軍団を殲滅した俺達はそのまま、ついに加賀一向宗の本拠地・御山御坊へ向かう。御坊、なんて寺っぽい名前ではあるが石垣や堀で固められたバカでかい城みたいな要塞で1万人以上が収容できるようになってるんだとか。
その御山御坊は現在、東からは俺達が、西からは朝倉軍が迫ってきている事で大慌てで僧兵や門徒が集まってきており、もう既に収容限界の1万人を越えそうな勢いらしい。
対する俺達も浜・上杉軍合わせて9千、朝倉軍6千で1万5千人で攻め込む予定になってるんだけど敵味方合わせて3万人、って軽くドームライブぐらいの人数だ。どんな光景になるんだか想像もつかない。
さて、そんな中で俺とマグロ・軍監・半兵衛の4人と厳選した護衛12人は先に会場入り、というか門徒の村人に化けて行軍から離れ御山御坊に潜入していた。理由は『決戦前に門徒たちに向けて坊官の指導者が激励をする』と聞きつけたので、潜入して敵の動向を察知し対策を練るためだ。
入り口で素性やら色々聞かれてバレたらどうしようか、と不安だったが全くノーマークでそのまま御坊の中に入る事が出来た。敷地内に入ってすぐの大講堂は大きなドーム状の広間となっており、すでに数千人規模の村人たちと思しき人々が集められている。皆、一様に貧しそうなボロボロの服を着ているがその表情は決して暗いものではなく、コンサート前のような熱に浮かされた顔をしていた。
「なぁなぁ、石山本願寺から来るって偉いお坊様って、まさかとは思うけど教主様かな?」
「教主様ってあの
「おまけに凄い
激励の為に一向宗の本拠地・石山本願寺から偉い坊主が来る、という事は聞かされているがそれが誰かは村人たちには聞かされていないらしい。俺もそのパーフェクトイケメン教祖とやらなら、ちょっと見てみたいけどな。
「静粛に!! これより石山本願寺より来られた坊官殿より有難い法話がある!! 皆の者、心して聴くように!! 」
高そうな法衣を着た坊主の紹介で銅鑼が何度も打ち鳴らされる。会場のどよめきが大きくなり、どこかでは「顕如さまー」という黄色い声も飛ぶ。おかしいな、俺までテンション上がってきた!
そして銅鑼の打ち鳴らされるタイミングがどんどん早くなり、最後に一発鳴らされた大きな銅鑼の音が鳴り響いた後に本堂の真ん中に立っていたのは……
中年の冴えなそうなおっさんだった。
「石山本願寺より遣わされた
村人たちは『なんだーただのおっさんかぁ』って顔で明らかに落胆を隠せない感じだが、本堂の周囲を取り囲んだ坊主たちから歓声が上がったのに合わせて何となーくで歓声を上げる。それ、明らかにサクラっぽい演出じゃね?
「此度の越後上杉と越前朝倉にここまで攻め込まれるという失態、阿弥陀様は大変お怒りである! だが我らが法主・顕如様は寛大なお方。上杉と朝倉を追い払い、この地の立て直しをそれがしに一任するという約束で貴様らの地獄行きを取り消してやると仰せになった!
良いか皆の者! 仏敵どもを追い払った後、この国を何処からも攻め込まれぬ屈強な阿弥陀様の
坊主どもからは歓声が上がるが、村人たちの顔は一瞬で暗くなる。てか、とんでもない事ブッかましやがったなあのおっさん! こんなボロボロの服着てガリガリの村人からさらに搾り取るなんて、仏どころか地獄の閻魔大王でもやらねぇぞ、多分。
「そんな事をすれば村はさらに疲弊し、税を払えず餓死する者も出てくるんじゃないですか?」
思わず口をついて反論が出る。しまった、と思ったが坊主たちは気に留めずおっさんがニヤニヤと笑いながら反論する。
「今のは教えへの理解が浅い者の発言かな?まあ良い。教えの為に餓死したとて、阿弥陀様はその者の自らを犠牲に勤める姿を認め、極楽浄土へと導いて下さる。それこそ門徒の
「隣の国に移れば、餓死せず争いにも巻き込まれず豊かに暮らせる国づくりが行われるかもしれないのに、ですか?」
今度の発言には村人たちに動揺が走り、おっさんの表情も曇る。坊主たちも『誰だ今発言した者は!?』とキョロキョロしているがこの流れは止めるわけにはいかない。
「隣国の越中では争いも終わり、越後・飛騨との交易によって実り少なき山中の土地の者でも飢える事が無いように、と政策を進め始めてる。なのにここじゃ坊主を肥え太らせるためにまだまだ貧しい者から搾り取るだって?冗談じゃない」
きっとここへ来た熱心な門徒たちは『他の土地へ移ればもっと酷い状況だからこの地にいる方が良い』と長年刷り込まれて洗脳されてるんだろう。行軍中に出会った山間部の村人達みたいに。確かにこれまでの戦乱の続いていた世の中ならそうかもしれないけれど、風向きは変わってるんだ。
「貴様らは仏敵の間者じゃな! その者らを捕らえよ!!
皆の衆、そのような戯言に惑わされるでない」
「そ、そういえば確かに聞いたことがある。え、越後は争いを止めて稲作に精を出したら米をたらふく食べられるようになったんじゃとか」
「信濃も越後と交易によって餓死する者が減ったんじゃと行商のモンが言っておったわ」
声の方向から俺を特定して捕えようと動く坊主たちを攪乱するように、別々の位置から賛同する証言を投げてくれる軍監たち。悪いがこっちもサクラ作戦は使わせてもらうぞ。ただし全部、お前らが隠してきた都合の悪い事実だけどな。あとは……
「敵襲!!
「皆の衆、仏敵が攻めよせてきおったぞ!! 戯言に耳を貸すより今こそ阿弥陀様への恩返しの時じゃ!! 武器を手に仏敵どもを打ち払うのじゃ!! 」
敵襲の報に講堂の中が騒然となる。特に村人たちはどうしたものかと困惑した表情を隠せない。
「皆様方。このような民を守るつもりもない坊主の為に命を散らすか、生きて豊かに暮らせるほうに乗るか、よくお考えください! 」
半兵衛の言葉に竹やりを手に取ろうとした村人の動きが止まる。だがそんな村人に『さっさと武器を取れ!はよう行け』と言って蹴りを加える坊主の姿を見た時、俺の怒りは爆発した。
「ふざっけんな! お前らがまず矢面に立って戦え!! 自分たちを支えてくれている民を何だと思ってんだ!! 」
隣にいた人が足元に置いていた
「た、民百姓ごときが教導者にそのような真似を。
「うっせぇ!! ファ〇クだか何だか知らないがお前らみたいなのの方こそいっぺん地獄に落ちてこいやー!! 」
思いっきり振り下ろした鍬が坊主の鎖骨下あたりに命中し、坊主が叫びながら血しぶきを上げる。それを皮切りに槍を持った坊主たちがこちらに詰めかけ……と思いきや、あちらこちらから悲鳴が上がって坊主たちは逆に村人たちに取り囲まれていた。
「そこのアンちゃんの言う通りじゃ! もう教えの為なんて言葉じゃ耐えられんわ! 」
「そうじゃ! この上から税を倍になんてワシらに死ねっちゅうんか」
「戯言かどうか知らんが、ワシらも隣の越中みてぇに暮らせた方が良いに決まってらあ」
村人たちは口々に不満を吐き出し、坊主たちに竹やりやら鍬を突き付ける。元々坊主たちへの不満が溜まっていた所に俺の行動に呼応したのか、門徒の怒りが爆発した形だ。まあ、最終的に導火線に火をつけたのは『税を倍に』なんてブッかましたおっさんだけどな。
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ご観覧ありがとうございます。
是非とも面白い作品に仕上げていきたいと
思っておりますので応援やコメントなど戴けると嬉しいです♪
皆様のおかげで日刊ジャンル別38位に返り咲き!もっと上げていきたいです。
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