第42話 勝手に名付けて『天下泰平拡大計画』

前回のあら寿司

 越後・春日山城に集められた寿四郎・信玄・氏康・輝虎・義景・信置の6大名。

そこで待っていたのは命を狙われ京の都から落ち延びてきた足利将軍・義輝だった。

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「浜寿四郎どの。そなたは新しき価値と豊かさとやらを唱えて、ここにいる三英傑の諍いを収めて新三国同盟を締結させ、今川無き駿河の再興にも成功したと聞く。そなたの意見はどうじゃ?」



 朝倉義景の唐突な質問に他5人の注目が一気に俺に集まる。


「ふえぇっ!? 」


 イキナリの事で思わず変な声が出ちゃったじゃねえか。そんな『新三国同盟の立役者』みたいに担ぎ上げられたところで、俺はただのちょっと先の史実が分かってこの時代の人間とは違う価値観を持ってるだけの未来人だぞ。


 でも、その利点から俺の意見を言って良いのなら。


「俺……私も信玄様、氏康様と同様、京の都にこだわる必要はないと思います。争いを好む野心に満ちた者どもと争いを繰り返しても何の得がありますか?それよりも……」


 史実を知る利点としては、帝だ幕府の将軍だ俺がナンバーツーだと『俺が俺が』というヤツが犇めく京にはこれから【信長と義昭】という一番野心の強い連中バカが乗り込んで泥沼化するのは知っているんだ。

 そんな所にわざわざ首を突っ込む必要はない。勝手に争い合って勢力を削り合ってくれればいい。『蛇の道は蛇』ってヤツだ! そう、それよりも。


「武田・上杉・北条の同盟と我らが駿河遠江を制したことで、争いが少なく平穏に暮らせる場所が増えました。これからもそれを拡げていって、『京より東は平穏無事に暮らせる天下』を作っていくのではいかがでしょうか?

 そこに『京での争いを辞めてきた義輝将軍様』が加わる事で、賛同する大名や国主が増えてくれるならそれが一番良いのではないかな、と。これはあくまで私の意見ですが」


 自分で言いながら間違いなく戦国大名っぽくないなーと思う。事実、俺以外の全員は一瞬ポカンとした表情をしたのが分かった。でも、それで間違っていない。


 争い合い、奪い合ってどちらもが疲弊しながら強い者が弱い者を平らげていく戦国テンプレなやり方はもう、極力ナシでいきたいのだ。現代人の感覚を持つ俺としては。

 もちろん武力でしか解決できない時は戦わないといけないしその為の戦力も必要だとは思うけれど。



「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり。孫子は『戦わずして勝つことこそ上策なり』と説いておったが、貴様のその考えは更にその上の策であると、ワシは思うぞ」


 このメンバーの中では一番先に俺の考えを認めてくれた、武田信玄が太鼓判を押す。


 でも実は俺、孫子って全然読んだことないんだけどね……多羅尾に勧められたのに「尊師、ってあのヤベぇ宗教の教祖だよね!?そんな奴の書いた本なんて読んでも何の参考にならんわっ」ってキレてポカンとされちゃってさ。後で「そんし」違いだと気付いたものの、恥ずかしくて読めてないんだわ。今度隠れて目を通しとくか。


「我が師、塚原卜伝殿も『戦わずして策略で勝つこと、これぞ無手勝流』と申しておった。もし寿四郎殿の言われる事が可能ならばそれに賛同したいと思うのであるが……能うもの、なのか?」


 先程まで落ち込んでいた将軍、義輝様も奪い合いや騙し合いではない統治と聞いて少しはやる気を取り戻す。そう、誰だって力で相手をねじ伏せたり権謀術数をめぐらして天下を取りたいわけじゃ無いんだ……と思う。そうじゃない例外連中も乱世には多いのかもしれないけれど。


「能います。ここにいる者らの力を合わせれば、必ずや!! 」


 輝虎が断言し、俺を含む他5人が強く頷く。武力で言えば俺の力も駿河の兵力も武田・北条と言った大国には及ばないかもしれないけど、やったろうやないかい!!



「じゃがその為の障害も多く在りまする。差し当たって関東には古河公方こがくぼうを名乗り抵抗する者や、そのような者を担ぎ上げて乱世に乗じようとする輩を鎮圧せねばなりませぬ」


 氏康が苦虫を噛み潰したような顔でそう報告する。何度踏みつぶしても賛同者を見つけて抵抗してくる古河公方の厄介さについては以前から氏康の息子、氏政から聞いたことがあった。どれほどの繋がりがあるのかは不明とはいえ『足利将軍家の分家』と言われれば殺すわけにもいかず、かといって生きていれば何度も抵抗勢力を組んで攻めてくる無限ループ。質の悪いゾンビみたいな連中だ。


「我らも加賀の一向一揆衆を制圧せねばいつ、京の三好と挟み撃ちに遭うか判らぬ状況ゆえ頭を痛めております」


 と言うのは朝倉義景。一向宗の厄介さについても多羅尾から耳にタコができるほど聞いている。新しく人が集まる所には必ず奴らは現れる、三河も一向一揆でだいぶ大変な目に遭った、とも。そんな教団の一大拠点が隣国に有るのだから越前という国を治めるのも一筋縄では無いのだろう。


「我が遠江もいつ徳川・織田の勢力が矛先を向けてくるかと思えば、まだまだ防備を固めてる最中です」


 隣国の遠江国主・朝比奈信置もそんな事を言い始める。遠江は三河への備えとして昨年、浜名湖畔に比奈浜ひなはま城・天竜川沿いに磐田見付いわたみつけ城を新たに築城し井伊谷城も改修を進めているが、織田・徳川連合軍で攻めてくるとなるとどれだけ防備を固めても万全ということは無いだろう。


「尾張の狼、織田信長か。確かにあの男にはこれから気を付けねばなるまい」


 信玄の呟きに全員の顔に緊張が走る。俺は史実とゲームから奴のヤバさは知っているが、この時代の戦国武将にとっても『桶狭間で常軌を逸した戦法でジャイアントキリングに成功したヤベー奴』って感覚はあるんだろう。俺からしたら家康も同じレベルでぶっ飛んだヤベー奴だけど。



「今の皆の意見のやり取りだけでも、まだ機が熟したとは言えぬのが分かるじゃろう。そこでどうかな?ここに居る6将それぞれがそれぞれの方面で障害を取り除き、盤石の支えが出来たと言えるその時に『義輝様を中心とした新しい政の中心』を唱える、というのでは?」


 信玄の提案に皆が頷き、その方向で進んでいく事が満場一致で決定した。


 そうだな、勝手に名付けるなら『天下泰平拡大計画』だ。

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