第41話 シークレットなゲストってこの人かよ!
前話までのあら寿司
駿河の国主になり忙しくも平穏な日々を過ごしていた主人公。その元に信玄より春日山城への召集令状が届き、取り急ぎ馳せ参じたのだった。
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越後・上杉輝虎の居城、春日山城。
その天守閣の広間には、俺を含めた6人の国主が集まっていた。
この城の主にして越後の龍と恐れられる越後・上野国主、上杉輝虎。
その越後上杉と4度にわたる大戦を繰り広げた甲斐の虎、武田信玄。
相模小田原からもはや関東全域を支配する勢いの関東の雄、北条氏康。
足利将軍家に一番近いともされる武家の名門・越前朝倉家の朝倉義景。
そして今川家の後にそれぞれ駿河・遠江の国主となった朝比奈信置と俺だ。
どんな要件で呼び出されたのかも分からなければ配置も微妙で、城主の輝虎が真ん中の上座ではなく一段下の右側に座っている。そして主役の席であるハズの上座は空席。どうなってんじゃこりゃ?
「うほん。皆の衆、今から姿を現す『お方』の事はくれぐれも内密にお願い致しまする」
左の一番前に座る朝倉義景が他の5人にそう注意を促す。初めて目にするけど歳は30過ぎくらいで色白、几帳面な印象。
現代だったらノーフレームの眼鏡とかが似合いそうな感じだ。公私ともに良くも悪くも細かい事に気が付くタイプで経理とかに居そうな感じ?
そんな事を考えていると襖が観音開きに開かれ、一人の男が現れる。大体そんな勿体付けて出てくるシークレットゲストって誰よ?と顔を拝みたいが、襖が開いた瞬間から他の5人が平伏し、俺もそれに倣って頭を下げているのでどんな奴か分からない。
「皆の者! こちらにおわすは先の足利家将軍、
義景さんの紹介でその場にいた全員に緊張が走る。有名な時代劇なら印籠ピッカーンって光って皆平伏するヤツよね。そんでその後爺が豪快に笑う的な。
「義景、そういうのはもう良い。他の者も堅苦しくせず面を上げ楽にせよ」
顔を上げて見ると将軍様とやらは水戸のジジイとは違ってまだ若く、20代くらいの見た目をしていた。現代人の感覚からすると『将軍様』って総理大臣的なポジションだし、もっと太ったおっさんが出てくるかと思ったんだけど意外と引き締まって凛々しい姿だ。だが完徹明けのような疲れきった顔をしている。
「将軍様は昨年5月、天下を簒奪せんとする三好三人衆の襲撃に遭い、命を狙われ幕府将軍の座を奪われた」
朝倉義景が説明を入れる。そこについては俺も多羅尾から情報では聞いている【永禄の変】だ。
これまでも何代にも渡って、足利将軍家とその力を笠に着ようとした取り巻き大名との間で幾度となく争いは繰り広げられてきたらしいが、まさかの将軍様が殺されちゃった前代未聞なヤベー事件だ。
あれ?じゃあ目の前にいる義輝将軍はその時に殺されちゃってるハズじゃ……
「表向きはその時にお命を奪われた事になっているが、昨年秋からこの越前朝倉の領地にて秘密裏にお隠れになっていたのだ。だがそれも危うくなったので越後に移っていただき、今後どうするかをここに居られる諸侯に相談を求めに参った次第」
なるほど、それで内密にって事に繋がるわけね。これはさすがにトップシークレットだわ。
「元より義輝様をお慕いする我ら上杉・朝倉の間では、ここに居る諸侯に力をお借りして義輝様を再び京の都に、と思うておるのだが……」
「やめよ輝虎! 私はもう将軍ではないし、そのような事は望んでおらぬのだ」
輝虎の意見を遮ってその意志はない事を告げる元将軍。
「京の都なんぞ帝や将軍の権威を借りて好き放題したい者達が我こそはと争い、今や拘る意味も無い。そのような争いを望まぬと将軍様が申されているのなら、それで良いのではないか?」
信玄がその意見に賛同するように言う。俺も実際行ってみたことは無いが、聞いた話では京の都は応仁の乱から100年近くも争いが絶えず起こり続けて復興しては荒廃を繰り返しているという。そんな場所にこだわるのは確かにナンセンスだ。
「しかしそれでは三好どもの暴挙を認めた事になる上に、次の将軍様は三好の息のかかった
「まさに! 特に義秋どのは我が越前で保護しているが、まだ将軍の座に就いたわけでもないのに権威を振りかざして威張り散らすは酒癖は悪いわ金遣いは荒いわ……あのような者が将軍様となれば幕府も終わってしまうやもしれん」
足利義昭、今は義秋って名乗ってるのか。その名前なら前世での歴史(史実)に疎かった俺でも分かる。織田信長にまんまと担ぎ上げられ利用されて捨てられ、復讐しようと反信長派の大名を何度も焚き付けては失敗して室町幕府を終わらせる、まさに乱世の暗君だ。もうこの時代からすでにしょーもないヤツだったのね。
「そのような者どもが幕府将軍を名乗る事は放っておいて、我が関東の地にて異なる幕府を開くのも良いのではないか?足利家の初代将軍、足利尊氏公は幕府を開いた時は鎌倉大納言を名乗っていたと聞く」
北条氏康の別の幕府を開くという提案。これには上杉・朝倉は驚いて反論したそうだが、俺は中々良い提案じゃないかと思う。事実、40年後には京都とは距離を置いて江戸幕府が出来るわけだし、ちょっとぐらい早まっても構わないんじゃね?その幕府を開くのが仇敵・徳川家康じゃないんなら。
「私はもう……幕府の権力だなんだと争いに巻き込まれて死にかけるような事を何度も繰り返すのは嫌なのじゃ。その度に多くの者が死に、都は燃え、世は混乱するばかりではないか。そんな事ならばいっそ、永禄の変をもって足利幕府は終焉という事で良いではないか」
そう嘆く義輝からは「もう一辺やったるでー!」的な雰囲気は微塵も感じられない。こんな状態の彼に新しい幕府を開かせるのも、京都に無理やり戻して三好だのと争わせるのも無理なんじゃないかと思う。そんなのを求めること自体、酷な提案だ。
義輝の悲痛な訴えを聞いて誰もが口を噤んだその時、思いもかけない質問が飛んできた。
「駿河の浜寿四郎どの。そなたは新しき価値と豊かさとやらを唱えてここにいる三英傑の諍いを収め、新三国同盟をまとめ今川無き駿河の再興に成功したと聞く。そなたの意見はどうじゃ?」
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